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売るのは未来(レビジュ視点)

 人間が買い物をする時、物を買っているわけじゃない。本当に買っているものは、自分が手に入れたい未来だ。


 理想の未来を“確信”させれば、人は財布から金を出さずにはいられなくなる。


 俺は馬車から降り、ダルジャンで一番の高級レストランの三階に向かった。


 中にはすでに商人たちが揃っていて、緊張した面持ちで俺を出迎える。

 この町で俺を敵に回したら、この町では生きていくことはできないから、当然の反応だ。


 部屋の隅には、俺たちの世話をするためか髪の毛を布で隠した女の給仕が一人立っていた。まあ、あとで金でも握らせて、黙らせればいい。

 何せ、女給仕ならなおさら、俺を敵に回せばこの町では生きていけない。


 俺は商人たちに酒を振る舞い、皆が緩んだところで切り出した。

「ヴァレンヌ王国の支配下にいる限り、領主と国の二つに交易の利益の一部は上納しなければいけない。鋼を掘る金は全部俺たちが出していて、国は鋼と利益と良いところだけを持っていく。随分と不公平だと思わないか?」


 俺の言葉に商人の一人が諦めたように、

「それは仕方がないだろう。俺たちは貴族様には逆らえんよ」

「いや、方法がある」

「方法?」

 商人たちはざわついた。


 俺たち商人は法の隙を突くため、法律書を読み漁ってきた。それでも限界がある。

 疑うのも無理はない。


 俺は立ち上がり、

「侯爵が、ルーンブルク王女を娶り、ルーンブルクを再興する。侯爵を支援すれば、俺たちは全員が貴族になれ、鉱山の利権を独占できる。悪い話じゃないだろう?」


 場がざわついた。

 魅力的な話ではあるが、危険な話でもある。


 一人が疑わしそうに、

「ルーンブルク王女というのは、王の奴隷のことだろう? 城の中の王の居住区画に居を与えられ、外には滅多に出てこないというじゃないか?」

「彼女は王から凄惨な扱いを受け、すでに侯爵配下の者が彼女を合法的に保護をしている」


 さらに場から驚きの声が上がり、商人たちは露骨に動揺し、

「レビジュさんの私兵と侯爵の兵を合わせても王国と戦争したら勝ち目はないぞ!」


「問題ない!」

 俺はわざと強い口調で言葉を続けた。

「カリシュタがすでに国境に兵を集め、侯爵が独立を宣言した瞬間に、援軍を送る手筈になっている」


 これを聞いた商人たちは、顔が真っ青になる者、黙って俯く者など様々だ。

 ここにいる全員が戦争を避けることができないことを察したに違いない。


 俺は最後通牒だと言わんばかりに、

「どうするかは諸君たちに委ねよう! だが、自分と家族の未来を考えたほうが良いぞ。俺と侯爵に従えば、未来は明るいぞ」


 商人たちは動揺を隠せないでいたが、パラパラと拍手が起こった。


 女給仕が突然、声を上げた。

「皆さんは心からレビジュ氏に従っているわけですか?」


 その場にいた全員が目を見開いて、女給仕を見た。


 そいつは俺を真っ直ぐに見据え、

「結局、あなたは脅しで人を従わせるんですね。それでは真に人はついてきませんよ」


 俺はその声に聞き覚えがあった。


 女給仕が頭の布を取ると、赤い髪が現れた。

 目の前に立っていたのは――


「ダルジャンの商人の皆様。初めまして。私はヴァレンヌ国王が所有する奴隷のアニエラです。以後お見知り置きを」


 やつは高らかに宣言し、ゆるやかに頭を下げた。

 これだけなら、詭弁の類だ。


 だが、やつは懐からネックレスを取り出した。


 そのネックレスには、ヴァレンヌ王家の紋章と王個人の所有物であることを示す印が刻まれていた。

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