ここがアジトらしいよ
ルキスに案内され辿り着いたのは、一軒家だった。決して大きくはない。
中にいたのは中年の夫婦。随分と二人は疲弊しているように見えた。
男性が立ち上がり、
「ダルジャンの騎士団長のノイッシュといいます。この度は王の高貴なる奴隷様と侯爵様に……」
「堅苦しい挨拶は必要ありません。僕は今は侯爵ですが、元は子爵で、貴方がたとそんなに変わらない暮らしをしていた身です」
カシェが言った。
ノイッシュさんは丁寧に頭を下げた。
城で暮らしてきた私は、物珍しさから質素で簡素な室内を見回す。
カシェが本棚から本を一冊取り出して、告げた。
「師匠の書かれた戦記小説はこの雑誌に掲載されているのですよ」
「そうだったのですか」
本にはダルジャン図書館所蔵という手書きの文字が書かれている。ページを捲ると、作者名にしっかりと私の名前が書かれていて驚いた。
ノイッシュさんと奥さんは丁寧に私に頭を下げてから、
「我々は毎月、読むのを楽しみにしているのです」
「お読みくださり感謝いたします」
そう言った私になぜかノイッシュ夫妻は恐縮した。
カシェがフォローするように、
「ご心配なく。師匠に感情はありますが、表情が乏しく表に出ないだけです」
それを聞いたノイッシュ夫妻は安心したようだった。
そっか。私って表情が乏しいんだ。ふーん。
大人しくハーブティーをすすっていたルキスが、カップを卓に置いてから、
「ノイッシュさん。アニエラさんに言いたいことを言うといいですよ。彼女に言えば、王に伝わりますから」
ノイッシュさんは居住まいを正してから、訴えたのは切実な窮状だった。
「侯爵は税金を上げ、市民たちの暮らしが困窮しているのです。騎士団の給料も下げたため、多くの騎士たちは傭兵として他国へと赴く始末」
「そうだったのですか」私は言った。
「一方の侯爵は他国から、傭兵を雇い入れ、彼らには十分な資金や給料を払っています。市民や騎士のことは全く信用していないのです」
カシェが不思議そうに、
「ダルジャンは鉱山が豊かだから、そこまで搾り取る必要もなさそうですけどね」
「侯爵は派手好みでして……。どうやら、そのせいで借金も膨らんでいるようで……」ノイッシュさんは声を潜めて言った。
「確かに、金遣いが荒そうなお方だ」
ノイッシュさんは拳を握りしめ、
「平気で人に暴力を振るうため、夫人は修道院へ、使用人たちも逃げ出す始末」
「それはお辛いですね」
私が言うと、彼は涙ながらに頷いて、
「もし、侯爵が独立して、王になったら、一体我々の生活はどうなってしまうのか……。不安で仕方がないのです」
私はノイッシュさんを見つめながら、
「私が王に必ず、ダルジャンの人々の苦しみをお伝えします。どうか、侯爵の野望を砕くために協力してください」
「は、はい!」
彼は力強く頷いた。その瞳は希望の光が宿ったかのように輝き出した。
私は励ますように、
「あなたが私に協力したら、王はあなたに何かしらの褒美を授けるはずです。そうしたら、きっと生活も楽になるでしょう」
「必ず、ダルジャンの街を王のために守り、貴方様を陛下のもとへお届けいたします」
「必ず成し遂げましょう」
ルキスは、
「そのために、またレビジュ氏に会う必要がありますよ」
「そうですね。そして、市民の皆さんの協力も必要です」
私は何から始めるべきか私は静かに思案を巡らせた。




