神殿の巫女長
まーちゃんへ
私は今日、神殿に行くことになっているんだよね。オリヴィエ王の身支度を終えて送り出したら、今度は私の身支度だ。
銀糸が織りこまれた白いローブ、手鏡、水晶の護符という奴隷らしからぬ格好が今日の装いだ。
で、いつも通り、私は何をしに神殿に行くのかは全く聞かされていない。まあ、言われた通りのことをすればいいだけなんだけど。
リュミエール様と一緒に王の区画の入口に行くと、笑顔のカシェが待っていた。
彼は元気な声で、
「おはようございます、師匠! 今日は僕がお供いたします!」
「アニエラ。今日の私は忙しいので、お前についていくことはできません。しかしながら、王宮魔術師にして侯爵であるカシェ様がお前の護衛を名乗り出たのです」
リュミエール様が私に説明をした。
私は頷いてから、カシェに向かって、
「こちらこそお世話になります」
私はカシェと兵士数人に連れられて、馬車へと乗りこんだ。
カシェは不思議な経歴を持っている人だと思う。
侯爵という高位貴族にして、宮廷魔術師でありながら、実際は諜報員が使うような隠密系の魔術を使う気配を感じさせるからだ。
彼は私に向かって、
「師匠は結構、いい馬車に乗るんですね。僕、こういう馬車は敷居が高くて馴染めませんね」
「侯爵様であるカシェ様の馬車だって立派な代物のはずです。子供の頃から乗っているなら、敷居が高いと感じるなんておかしいと思います」
カシェは笑いながら、
「僕、傍流の出なんですよ! 数年前に起きた事故で、侯爵一家が亡くなってしまい、急遽、傍流から跡取りを出さないといけなくなったんです。それで一番、血筋が近い僕が選ばれただけなんです」
「そうだったんですか」
それなら、納得だ。
元々、諜報員だった青年が侯爵になったんだろうな。
神殿はヨーロッパの歴史的な大聖堂にそっくりで、荘厳さがある。違いがあるとすれば、ヨーロッパの大聖堂にあるガーゴイルとか不気味な人間のレリーフがないくらいだよ。
神殿に着くと、神官の一人が私たちを出迎えた。
神官の服は身分によって変わるらしく、神殿内は随分とカラフルだ。
神官は私を見て言った。
「こちらが王の奴隷ですか?」
カシェは鷹揚に頷き、
「その通りです。将来、世界に覇を唱える方なので、粗相のないように……」
「申し訳ございません。私が王の奴隷であるアニエラでございます。カシェ侯爵はご冗談がお好きな方なのです」
私はカシェの言葉を遮って、畳みかけるように告げた。
カシェがまさか誰に対しても、この態度だとは思わなかった。
神官はカシェの言葉にぎょっとしつつ、私たちを案内する。
私たちが通されたのは、封印の間と書かれた部屋で、室内の中央には禍々しい黒い樹木が生えた鉢植えがある。
そして、そばには壮年の女性が立っていた。黄金色の装束をまとっていて、見るからに高位の神官なのがわかった。
神官が、女性に向かって、
「巫女長様。王の奴隷が到着いたしました」
巫女長……。
神殿から一切外出することができないらしいけれど、具体的に何をしている人か私は知らない。
彼女は私に向き直り、優雅に、
「はじめまして。私は巫女長のフォニィよ。神殿での祭祀や解呪、治癒などを行っているわ」
「はじめまして」




