最近の僕のルーティン(オリヴィエ視点)
僕はきららちゃんの記憶の奥へと潜っていく。
そこにあるのは、殴られ、暴言をはかれ、食事を与えられず、深夜に外に放り出されるきららちゃん。
どの記憶も悲しみ、不安、恐怖、諦念、自責の念で満たされていた。
きららちゃんが自責の念を感じる必要はまったくないんだけど、親に植えつけられてしまったんだ。
僕はある一つの記憶に降り立った。
そこでは、何日も洗濯をしていないで臭ってしまった服を着ている小学校1年生のきららちゃんが、学校で同級生たちに罵倒されていた。
僕は彼女に群がる子どもたちを追い払い、きららちゃんの手を引いて、学校を連れ出した。
僕は彼女をお風呂に入れて、新しい洋服を着せて、チェーン店でハンバーガーを食べさせてあげた。
さっきまで、罵倒されて悲しそうにしていたきららちゃんは、
「ありがとう」と嬉しそうに言った。
これが、最近の僕のルーティンだ。
別にきららちゃんの記憶を改変しているわけじゃない。人間は自然と記憶を捏造することがあるが、僕ではそこまですることはできない。
きららちゃんは今みたいな辛い記憶を思い出すことがある。その時の彼女は、当時の気持ちまで思い出してしまうから、本当に苦しむんだ。
でも、僕はその時に感じた苦痛を、違う感情で上書きすることで和らげることが出来る。
僕が事前にこうすることで、きららちゃんが思い出した時、彼女の心の悲しみや苦しみが軽くなるんだ。
こんな感じで、いくつかの記憶で感情の上書きを行ってから、のぞみさんの部屋へと戻った。
部屋の中ではきららちゃんが、壁に背を預けて、足を投げ出して、少女漫画を読んでいた。
僕に気づくと、顔を上げて、
「おかえり。また私の記憶にちょっかい出してたの?」
「うん、そうだよ」
僕が頷くと、彼女は呆れて言った。
「私の人生はハードモードなんだよ。そんな人生に付き合ってたら、オリくんが消耗しちゃうでしょ」
「そんなことないよ。きららちゃんが笑うの見るのが、とても嬉しいんだもん」
「しょうがないな」
僕はきららちゃんの真横に、仰向けになった。
彼女は漫画を読みながら、雑だけど、僕のおでこと頭を優しく撫でる。
僕が撫でられるのが好きなの知ってるから、時々、こうして撫でてくれるんだ。
僕の心と魂は、すでに半分は彼女と一体化しているから、彼女の精神の中にいるだけで心地がいい。
でも、頭を撫でてもらったら、さらに気持ちよくなって、まぶたが重くなる。我慢できなくて、目を閉じた。
とても、なんか、ふわふわする。気持ちがいい。
あぁ、もっときららちゃんと心も魂も一つになりたいなー。
きららちゃん、――お願い……だからさ。




