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シャーロット妃が出産するってよ

 まーちゃんへ


 王弟妃のシャーロット様の出産が近づいていて、私は王弟夫妻が住む離宮にお仕事に行くことになったよ。


 別に、産婆じゃないから出産の手伝いに行くわけじゃなくて、出産の妨害をするような魔法を遠隔でかけられたら困るから、そういう魔法を感知してほしいんだって。


 私はいつも王の居住区画を出る時は、護衛の人が横や後ろにぴったりくっついてるんだ。で、家宰の人が付き添う。


 今日もそういう布陣。


 なんか、誘拐阻止のためだって。


 王の女奴隷である私は、王の所有物で財産扱いだから人間として扱われていない。だから、もし私が誘拐されたとしても、犯人は窃盗罪でパクられるのかな。


 王の財産を盗むんだから、タダじゃすまないだろうな。


 たまたま居合わせたオリヴィエ王が突然、

「リュミエール。もし、誰かが僕の財産を盗んだら、どういう罰を与えるのが相応しいんだろうね」

「処刑でしょうね」


 処刑だってよ、まーちゃん。


 もし、私を誘拐した犯人が処刑されたら、後味悪いなー。

 まあ、誘拐なんてそうそうあるもんじゃないだろうけど。


 オリヴィエ王に見送られながら、馬車に乗って、城からほど近い離宮へと向かう。

 そこが王弟夫妻の住まいなんだってさ。


 ここもお城に負けず劣らず、警備の兵士が多い。


 しっかりと、遠隔の魔法を防ぐ結界の魔法が張られているから、悪い魔法なんかなかなか侵入できないよ。

 だから、別に私なんていなくてもいいんじゃないかなって、外側から魔法を感じると思うね。


 でさ、シャーロット様の陣痛は始まっているけど、まだまだ生まれないだろうって。


 それで、屋敷の一室には王弟妃への出産祝いが山と積まれている。

 国中の貴族からの贈り物なのかな。

 だとしたら、すごいもんだね。


 今も続々と届けられ続けていて、使用人の人たちが積み上げてるんだよ。


 この離宮の家宰が、リュミエール様に、

「王弟様は、王の女奴隷がこの出産祝いに悪しき魔法がかけられていないか感知することを望まれておいでです」

「わかりました」


 リュミエール様が私に向き直って、

「アニエラ。この出産祝いの一つ一つに悪しき魔法がかけられていないか調べなさい」

「はい」


 私は言われたとおりに、贈り物一つ一つに悪しき魔法がかけられていないかを調べた。


 二時間ほど集中してやったら、さすがに疲れた。でも、奴隷だからそういうことを言って、勝手に休憩することは許されない。


 リュミエール様が、

「疲れたのなら、休んでもいいですよ。疲れると魔法の成功率が下がるから、定期的に休ませるようにと王からも言われているので」

「わかりました」


 私は部屋の隅の床に座ろうとしたら、

「ソファに座ってもいいですよ。王弟妃様の思し召しです」

「わかりました」


 私はソファに座ると、リュミエール様が、

「それで、怪しい魔法がかけられた品はありましたか?」

「ありません。離宮の中全体からも怪しい魔法の気配は感じません」

「では、離宮の外から、怪しい魔法の気配は感じますか?」

「いいえ、全く」

「わかりました。そのように報告しましょう」

 リュミエール様はそう言って、部屋を出ていった。


 少し休んでから、私は作業を再開した。

 時間が過ぎて、正午の鐘が鳴った。


 リュミエール様が戻ってきて、

「アニエラ。昼食です。こっちに来なさい」

「はい」


 私とリュミエール様はこの世界での定番品のチーズと丸くて平べったいパンを食べた。


 昼食も食べ終わり、作業を再開。


 そろそろ夕方となり、もう帰ろうかという時、王弟の家宰が困った表情で、やって来た。


「急で申し訳ないが、女奴隷に会っていただきたいお方がいる」

「王の命令に含まれていないので、拒否いたします。王の命令に含まれていないものは拒否するようにと仰せつかっております」


 リュミエール様は淡々としながら言ったが、王弟の家宰の人が大きなため息をついて、

「突然、女奴隷に会わせろと先程離宮にやって来たんだよ、侯爵様が。断ったら、やっかいなことになるぞ、王様が」


 リュミエール様も大きなため息をついて、

「アニエラ。侯爵様に会いに行きますよ。お前は何も言ってはいけませんよ。案内してください」


 応接室に行くと、待っていたのは中年の肥満男性。身なりだけは豪華、を通り越して、悪趣味なんだけど。


 私が部屋に入ると、椅子から立ち上がり、私に近寄ろうとしたが、護衛の兵士に阻まれる。


 なおも手を伸ばして、声を上げた。


「おぉ、女奴隷よ! 私に掛けられた悪しき魔法がどこの誰からのものなのか感知してもらうぞ! 今すぐ私の屋敷へ来い!」


 リュミエール様は淡々と、

「たとえ、侯爵様とはいえ、王のご命令がなければ行くことはできません」

「ふざけるな! 私や屋敷に掛けられた魔法のせいで、妻は家を出て、使用人たちも逃げ出してしまったんだ!」


 リュミエール様が私に、

「アニエラ。侯爵様に悪しき魔法が届いているか感知しなさい」


 私は感知してみたけど、悪しき魔法も良い魔法も一切ないよ。

「侯爵様にかけられた悪しき魔法は何もありません」


 部屋にやってきた王弟のクラウス様もタジタジの表情で、

「今日はこれで、どうかお暇ください」


「この女奴隷を屋敷に連れて行くまでは」

「どうか、侯爵様お願いですから。それは不可能ですよ」


 最終的に侯爵が折れて、離宮を出た。

 ちなみに、三時間かかったよ。


 皆、すっごくぐったりしてる。

 わたしもぐったりだよ。


 すっかり夜になり、帰ろうとしたら、離宮の兵士が、

「侯爵が道の途中で待ち伏せしています」


 王弟が、

「今日はこの離宮に泊まるのが良いだろう。兄上にはこちらから使いを出す」


 私たちはこうして、離宮に一泊することになった。


 王弟妃は真夜中に無事出産した。


 私とリュミエール様は朝早くに、来た時に乗っていた馬車じゃなくて、王弟の馬車に乗って、シャーロット妃の実家に寄って、シャーロット妃の実家の馬車に乗り換えて、城に戻った。


 ここまで、念を入れるということは……、待ち伏せしてたのかな。


 戻ると、オリヴィエ王がぷりぷりしながら、リュミエール様に、

「どうして、昨日のうちに戻ってこなかったんだよ!」

「侯爵様の妨害がありましたので」

「報告を聞いたから、わかってはいるけど!」


 怒るオリヴィエ王に向かって、リュミエール様が面白がるように、

「そんなに私が恋しかったですか?」

「お前を恋しいわけないだろ!」


 家宰の人が朝の準備をするために部屋を出ていった。


 オリヴィエ王は私のほうを向いて、一言、

「おかえり。ちゃんと帰ってきてくれてよかった」


 うん、ありがとう。

 でもさ、大袈裟じゃないかな。


 そういえば、オリヴィエ王は最近、私の精神世界で漫画を読むことにハマってるんだよね。

 昨日、読めなかったから、それでか。


「それもあるけど、それだけじゃないよ」

 やっぱりぷりぷりしながら言った。

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