解決編・2
言わずと知れた、梨壺だ。相変わらず猫のように神出鬼没で好奇心が強い。
「よもやとは思いましたが、やはりこちらからはお呼びしなかったのですね?」
「なんのことかしら」
咎めるような犬君の言葉に、弘徽殿はぷいとそっぽ向いてしらばっくれる。
「私はお願い申し上げたはずですよ。皆を集めてくださいと」
「誰と誰を呼べって、具体的には聞いてなくてよわたくし」
小声で責任をなすりつけ合う弘徽殿と犬君を見た梨壺はにやりと笑った。
「これは失礼。僕がいてはやりにくい話だったかな」
「いえ!」
犬君はあわてて良い返事をし、弘徽殿との間に挟まってにこやかに梨壺を見上げた。弘徽殿が余計なことを言い出す前に。
「是非とも、梨壺の宮様にも聞いていただきたい話でございます。さあさあどうぞどうぞ!!」
弘徽殿はふんと腹立たしげに横顔を扇で覆ったものの、それ以上何も言わずに犬君に丸投げする気配だ。
梨壺はあえてその場の床ーー最も下座にどかりと座り込み、弘徽殿の女御をチラリと見て面白そうに口角を上げる。
「いいのかい? 君のご主人サマは随分と不機嫌そうだけど。お許しはいただけそう?」
犬君は弘徽殿の女御を一瞥すると、しれっと答える。
「弘徽殿の女御様は、梨壺の宮様とお会いになるとき、いつもご機嫌悪しうございますゆえ」
あまりにもあまりな犬君の物言いに、梨壺は肩を揺らして笑った。
「ちょっと見ない間に言うようになったじゃないか。誰の躾のおかげだろう」
戯れるように言う梨壺に、犬君もわざと大袈裟な声を出して袖で顔を覆う。
「梨壺の宮様は、御自分以外にも心当たりがございますのですか? もしもそう思われているのでしたら、黄楊は寂しゅうございます」
声だけはしおらしく演技をして、ふてぶてしく返事てくる犬君に、梨壺は鼻で笑った。
「可愛がられていると思ってあまり調子に乗っていると、逆鱗に触れるぞ」
「もとより私には慢心して親しげに振る舞うほどの可愛げはございますまい。例えば食べかけの桃を『はい、あーん♡』など似合わなすぎて反吐が出まする」
「そうでもないかもしれんぞ、やってみろよ。やるなら乗ってやるよ」
ふふんと鼻を鳴らして、梨壺は口角を上げる。
逆鱗の由来になる譬え話を引用して笑い合う梨壺と犬君を見ながら、側に控えた薄夜の内侍がわざとらしい咳払いをした。それを聞いた梨壺はふっと真顔になって声を低める。
「さて、それでは本題に入ろうか、黄楊姫」
口の端に甘い笑みを浮かべて、梨壺は犬君を見た。
「ここに人を集めた理由は、誰が女童を殺したのかその犯人捜し――で、間違いなかったかな? 弘徽殿の女御とその女房よ」
その、ちっとも笑っていない瞳を見つめ返しながら、犬君はゆっくりとうなずく。
「少しも間違いございません」
梨壺はぱちりと扇を閉じて掌を鳴らす。
「じゃあ鞠子と麗景殿も呼んでやろうか」
犬君は無表情で首を振る。
「それには及びません。おそらくその御二人は無関係ーーそれに、これから幼い中宮様にお聞かせするにはいささか聞き苦しい話もございましょう」
梨壺の口角が上がる。ぱちり、と扇が手を鳴らした。
「面白い。犯人はこの中にいるということか」
はい、と犬君はうなずく。言い訳は無く、言葉にも態度にも揺らぎはない。
「あっさりと認めるのだな」
膝を崩してじっと見上げてくる梨壺の瞳に目を合わせ犬君は畳み掛けるように答えた。
「さらに手間を省いて申し上げますればーー私が疑っておりますのは桐壺の更衣様にございます」




