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花鳥風齧!  作者: 白瀬青
弘徽殿の悪役令嬢
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いっぽうその頃のトニさんは

「イエーイ! 与一くんの! カッコいいとこ見てみたい! そら投壺! 投壺!」

 トニが矢を持った両手を頭上に上げ、大振りに叩いて囃し立てた。トニと与一の間には大きな壺がひとつ。与一とトニはそれぞれ十二本の矢の束を割り当てられている。

「本当に……こんなもので的当ての技量が身に着くのか……?」

 与一は疑わしげに壺を見下ろした。

 「うん」とトニは自信満々にうなずいて、一本矢を投げ込んだ。それは吸い込まれるように壺の口に当たり、からんといい音を立てて中に納まる。

「よっしゃ、まずあたしの先制、20点!」

 投壺とは書いて字のまま、壺の中に矢を手で投げて入った数で点数を競う遊びである。今日は何度弓を射ても的を射ないので与一が落ち込んでしまった。そんな与一の肩を叩き、トニが提案したのが投壺の遊びだ。

 ――そういう調子の悪いときは気分を変えて遊びでもしよう。投壺ならただ遊んでいるだけじゃない、的を狙うコツをつかむ練習になると思う。

 トニに言いくるめられて矢と壺を用意してみたはいいものの、こんな地味な遊びで本当に弓の練習になるのだろうか。確かに狙ったところに……弓を、持っていく、そういう動きでは……あるが。

 与一は片目を瞑り、壺に向かって矢を投げる仕草を繰り返している。手にはまだ本物の矢は持っていない。思案げな与一の仕草に、トニはからからと笑った。

「ダメダメ。与一はそうやって深く考えるからダメなんだって。さ、投げて投げて」

 そうけらけら笑いながら投げた矢がまた壺のど真ん中に吸い込まれていくのを見ていると、本当に投壺を制したものが弓矢を制するのではないかという気がしてきてしまう。

 えいっと投げた矢はへろへろと壺の前の地面に落ちた。

「惜っしい!」

 トニは拍手しているが、全然惜しくはない。

「もうそろそろ適当言うのやめて弓のコツを教えろよ。でないとこんなところに潜り込んでるのチクるぞちきしょう」

 拗ねて与一が言う。トニは思いがけずご機嫌斜めの坊ちゃんの様子に「あれ?」と首を傾げて笑う。

「本当だよ。投壺が的当てのコツ」

 それにさ、とトニはふと思いついて、与一の耳にこしょこしょとささやく。

「知ってる? 投壺って恋の占いにもなるらしいんだ」

 瞬間、ぼっと与一の顔が赤くなる。

「ほ、本当か?」

 嘘だけど、という言葉を飲み込み、トニは与一の顔を見つめてニヤニヤと笑い出す。

「えーなんだー? つまり与一には好きな女がいるってことかー?」

 ヒューヒューだよと肘でつんつんとつつくトニの顔を見つめ、与一は今度こそからかわれたことに気づく。

「て、てめえ……ふ、ふざけんなよ……!!」


   ◇◇◇


「桐壺に、人を集めていただきたく存じます」

 改まって床に手をつく犬君の頭の先を、弘徽殿は御簾越しに茫然として見つめている。

「理由は御察しの通り、ご依頼の事件について見解がまとまりましたゆえ。関係する皆様の前で確認したいことがございます。――そして、最もお聞きしたいことは桐壺の更衣様の御気持ち」

 その後の間は長かった。


「どうしても、桐壺なのね?」

 脇息ひじおきくずおれながら言う弘徽殿に、犬君はきっぱりと返す。

「はい、桐壺にございます」





◾️次章・解決編は二ヶ月のお休みをいただき、2025年2月7日(金)更新となります。よろしくお願いします◾️

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