第46話
お久しぶりです。
皆さんは春休みを満喫できましたか?
私はバイトに勤しみ余り執筆の時間が取れませんでした。
徐々にペースを戻していくつもりですので、この作品と私に、もうしばらくお付き合いいただけると幸いです。
私たちが治療院へと向かうと、代表者である老年の男性が出迎えてくれた。
頭髪は白髪が混じり、髭は綺麗に整えられていてとても紳士的な印象を受ける。
服装は黒い服装でピシリと着こなしていて、老いを感じさせないような若々しさがある。
「よく来てくださいました、歓迎いたします。」
礼をして私たちを迎えてくれる。
それに対してエリナさんとネリッサさんは緊張している姿を微塵も感じさせない様子で応えた。
「お久しぶりですラフマン司祭。」
エリナさんがまるで貴族かの様な綺麗な所作で挨拶をする。
するとラフマンと呼ばれた男性は謙遜しながらか穏和な笑顔を浮かべた。
「私はもう教会の司祭ではありません、今は院長とお呼びください。」
「ではラフマン院長、今回の依頼ですが事前にお伝えした通り、こちらの子も一緒でよろしいでしょうか?」
そう言ってエリナさんはラフマンさんに私を紹介する。
「えぇ構いませんよ、お二人が紹介したという事であれば問題ありません。お名前を伺ってもよろしいですか?」
私はラフマンさんに挨拶をする。
伯爵令嬢としてそれなりに色々な人と挨拶を交わしてきたが、貴族という肩書なしにただのアステルとして挨拶をするとなるとどこか緊張してしまう。
「初めまして!今回エリナさんとネリッサさんと一緒に依頼を受けるアステルって言います!」
「今日はよろしくお願いしますね。それでは私は仕事に戻りますので、担当の者が来るまでお待ち下さい。」
そう言ってラフマンさんは治療院の奥へと戻っていった。
その後私たちは担当の職員の案内で一階の開けた一室へと案内される。
清潔に保たれている院内には思った以上に職員がおり、この施設がかなりの規模であることを再認識する。
私たちにあてがわれた一室には具合の悪そうな子どもを連れた親子やどこかに傷を負った冒険者たちが待機していた。
「ここは?」
「ここは私たちの様な外部で依頼を受けて治療院へ来る人達の為にあてがわれた一室で基本的に軽傷者しかいません。」
「私たちは定期的に依頼を受けてここで治療をしているの。今回の昇級試験はここにいる患者を五名以上回復魔法で治療することが出来れば合格よ。」
ネリッサさんから合格条件を聞いて、私は少し呆気に取られた。
辺りを見回しても重症の人は見当たらず、悪くて深い切り傷を負った冒険者が数人いる程度で、基本的には風邪をひいた子供や手首、足首を捻った人しかいなかったからだ。
これでも王立の魔法学校で優秀な成績を取れていた私にとって、それほど難しい課題だとは思えなかった。
そんな私を他所に、ネリッサさんとエリナさんはどこか笑っていた気がする。
「それでは始めましょうか。」
エリナさんの掛け声と共に、治療を開始する。
私とエリナさんの2人に治療してもらう為に、大人から子供まで様々な人が並んでいる。
ネリッサさんは私たちのボディーガードとして、近くで待機しているようだ。
隣に目線を向けるとエリナさんは最初の患者さんを治療し始めていて、私は彼女が扱う回復魔法の技術に舌を巻いた。
ただ傷を治すのではなく、複数の魔法を駆使して肉体が再生する際の痛みを極限まで抑えていた。
もっと彼女の技術を見たいところだけど、私の前に来た患者を放っておく訳にはいかないので、私も治療を始める。
10才にも満たないような子供が、瞳を涙で滲ませながら、転んで傷ついたであろう腕を私に見せる。
前腕の傷は思ったよりも深く、傷口には土が少し付いていて、つい先ほど出来たものだとわかる。
中央通りから外れた道はあまりしっかりと整備されていない為、凸凹しているところもあるので、ただ転んだだけでも大きな傷が出来てしまうこともあるだろう。
「少し染みると思うけど、我慢してね。」
まず私は、水魔法を使い傷口に当てて汚れを落とす。
傷を治した時に、ゴミが体の中に入らないように念入りに確認をする。
「うあぁぁ!痛いよぉぉ!」
少年は傷口が洗われた痛みで叫んでいたが、どうにか綺麗にすることができた。
「我慢できてえらいね!」
泣きながらもジタバタとしなかった少年の頭を撫でて褒める。
少年は頬を赤く染めながら、つい先ほどまで叫んでいたことを無かったことにするようにニコッと笑う。
そして、私は本格的な治療へと移行するために、必要な魔法の詠唱を始める。
まずは、神経を鈍くする魔法『麻酔』を傷口に付与して、傷が塞がる際の痛みを軽減する。
この魔法は、『麻痺』とは少々効果が異なり、付与した部位の間隔を鈍くする魔法で傷口の再生で伴う痛みを極力抑えるための魔法だ。
そして浄化の魔法である『浄化の光』も平行して同時展開していく。
洗っただけではすべての汚れを落とすことはできないので浄化の魔法を使って確実に綺麗にしていく。
精密な魔力操作が求められる魔法二つを同時に展開するのは、流石に精神的な疲労が大きく、長い時間保てそうになかった。
腕が温かな光に包まれて、徐々に傷を塞いでいく。
アレクを治す時は上手く発動しなかったが、今回は上手く行ったみたいだ。
「はいっ、これで大丈夫!次からは怪我しないように遊びなよ〜。」
「ありがとう!おねぇさん!」
そう言って去っていく少年を見送ると、少し疲労が溜まったのか、ため息を吐く。
隣をチラッと見てみると、エリナさんはまるで呼吸するように私が担当した子どもよりも重症な冒険者を治していた。
回復魔法の再生速度も私とは比べ物にならない速度で、実力の違いに呆気に取られてしまう。
それから私も負けじと他の負傷者や病人の治療にあたるが、やはりエリナさんよりもかなり遅くなってしまう。
もちろん最優先するのは患者の治療であるのは間違いないが、あそこまでの卓越した技術を見せられてしまってはどうしても焦ってしまう。
何とか時間をかけて5人の治療を終えた時、エリナさんは10人以上の患者を治療し終えていた。
実力の差を感じているとき、私たちを遠巻きで見ていたネリッサさんが落ち込んでいる私を見かねて話しかけに来てくれた。
「どうだった、今回の依頼。」
「思った以上に難しかったです。学園での魔法の成績は良かったのでもっとできると思っていたんですけど……。」
「エリナを見て自信なくしちゃったと…。」
ネリッサさんに的確な指摘をされて頷くと、彼女は私に励ましの言葉をかけてくれた。
「その年でそこまで魔法が使えるのは上出来だと思うわよ、私たちが貴女と同じくらいの時はロクに仕えなかったんだから。」
そうネリッサさんに言われ、私は意外だと感じた。
二人は平民でありながら卓越した才能の持ち主だと思っていたからだ。
「私たちだって何年もかけて特訓してやっとここまで来れたんだから。アステルもこれからよ、これから。」
ネリッサさんの言葉で沈んでいた気持ちが幾分か軽くなった気がする。
部屋にいる患者さんもいなくなり、私たちしか居らずそろそろ撤収をしようとした時、ドアがバンッと開けられ、治療院の職員が大慌てで入ってきた。
「エリナさん!たった今緊急の負傷者が来たのですが対応していただけますか!!」
何やら只事ではなさそうな張り詰めた雰囲気に変わり、私はどうすればよいのか分からなかった。
「もちろんです、こちらに運んでください。」
しばらくして運ばれてきた患者は、重傷を負った冒険者だった。
額からは血が滴り、腹部には包帯が巻いてあるものの、出血が止まらないようだった。
「ダンジョンでモンスターに襲われたそうです。」
部屋の外では、患者の男性のパーティーメンバーであろう人たちが心配そうにこちらを見つめていた。
これまで治してきた人たちとは違い、この患者は私たちの対応次第で死んでしまうかもしれない。
そう思った瞬間、私の背中に大きな何かがのしかかり、押しつぶされそうな感覚に陥った。
「アステルさんもお手伝いいただけますか?」
エリナさんの真剣な表情を見て断れるはずもなく、私は震える体を押し殺して平静を装うも、隠しきれない緊張した声色で応じる。
「はっ……はい!」
アレクとのクエストや学園でも習ったことのない、自分の判断で他人の生死が左右される重大な局面を前に、杖を握る私の手は強張ったままだった。
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次回でまたお会いしましょう!!




