天井女はツッコミを所望する。
多人種環境下のお話では、いかに言語ギャップをデフォルメできるかということに気を使うと思いますが、SFならダイタイ・ソレッポイ・テクノロジーで解決できるので気楽です。
次の日、二日酔いとはそこそこ無縁な俺は食堂で飯を選別している。
ロングテーブルには俺の同期たちがすでに座っていて、イタリア人であるはずのガラッティの目の前にある納豆定食を見た二人が「マジっすか」っていう顔をしているのを確認している。
メシっていうのは次の瞬間を生き抜くためにとても重要なもので、体を動かすための栄養を補給できればそれでいいってわけじゃない。
うまいと思えなきゃ意味がないもので、よって時間をかけてでも「今の俺は何を食いたいのか」を感じ取るのは重要なことである。
それでもしばらく迷ったが、意を決して一皿を手に取りテーブルに向かった。
「だからって朝からカツカレーってどーなのよ、ねえ」
非難めいた声色と若干乗り出すような体勢でガラッティが俺にツッコミを入れてくる。
「ヤマト、そいつはジャパンのカ「カレーライスだ!」レーか?」
ハーヴェイにとってもなじみ深いものだろう、ラーヒズヤの言葉を遮りながら目を輝かせて叫びだした。
インド文化圏の人間にとってのカレーと日本人のカレーは概念が違うって話なら聞いたことがある。
俺にとってこのコレはインドからイングランドを経由して伝来した洋食のうちの一つなので、『カレー』と『カレーライス』を混同するつもりはない。
「そっちのナトゥってのは一体何なんだ」
「oh...俺もコイツだけはどーにも慣れなくてな」
ごもっともな意見がラーヒズヤの口から漏れ出ている。
ジャパニーズの俺からすれば気にならないが、目くるめくナットウキナーゼ・スメルに慣れていない彼からすれば異常事態と言ってもいい状況だろう。
マッチョのハーヴェイもコイツは苦手らしい。
「フフン、イタリア半島の糸引き姫とは私の事よ!」
などと豊満な胸を反らせて自慢しているが、ようするに納豆好きすぎて日本の友人からそう呼ばれていたらしく何故か案外気に入っているとのこと。
ぶっちゃけその異名が自慢になるのかどうか疑わしいを通り越して、馬鹿にされてたんじゃないだろうかと心配になる。
「和風系パスタで納豆使うものもあるからな、レシピ探せばピッツァでもあるだろうし」
「もちろんあるし作ったことも食べたこともあるわ」
……あるんだ。
一人暮らしでパスタってのはソースを自分で作ったりしない限りは言うほどコストパフォーマンスがよろしくない。
あえて言うなら普通ってところだろうが、俺にとっては腹持ちの問題があってむしろBADな食材だ。
つまり若干手がかかりすぐに腹が減る料理となる。
その中でも和風系の味付けは比較的簡単なほうだとは思うが、それならつゆぶっかけてネギ散らして終わりのうどんのほうがマシってものである。
そういう意味でパスタ系はあんまり手を出したことはない。
何度でも繰り返してやるが、米と比べればどうしても腹持ちが悪いのですぐに腹減るし。
ちなみに納豆カレーというものもあると告げると、一応存在は知っているはずのハーヴェイはともかくラーヒズヤの表情は絶望に染まっていた。
旨いんだぞ、納豆カレー。
食後にコーヒーやらなにやらを頼んでしばらくのんびり、なお俺はコーヒー嫌いなのでラーヒズヤとともにミルクティーを飲んで平穏な朝を満喫したわけであるが、イタリアーンなガラッティはここでもブー垂れてた。
「こんなもんエスプレッソじゃねぇ、てやんでぇばーろーちくしょーめ!」と言い出した時は紅茶噴いたものだ。
その後ブリーフィングルームに全員で移動し、教官の到着を待つ。
教官がどこの誰ぞという話は誰も聞いていないので、どんな奴が来るかはわからないが、名前を知らされたところで地球内でディスカバリーの誰かが成果を上げたという情報が出たことがないのでどっちにしろわからないだろう。
いってしまえばこの先、この中の誰かがドデカイ成果を上げても、地球人の誰もそれを知ることはないんだろうなーということだ。
英雄志向だとその現実はしんどいかもしれないが、社会の歯車たる清く正しい社畜の俺からすればどうということはない。
「それにしても遅いな教官、3Mからのメッセージによるともう顔合わせと挨拶が終わって最初のカリキュラムが始まろうかってくらいの時間なんだが」
ハーヴェイが時計をチラチラ見ながら入り口のドアを凝視している。
物静かなラーヒズヤは石像のように動かないが彼の事だから平常だろうし、ガラッティは文句は言っているがだからと言ってどうにかなるもんでもないので席を立つようなことはしていない。
そして俺は、暇をしている。
あまりにも暇なので、伸びをしながら思いっきり体をそらしてみたりしているところだ。
うめき声をあげながら天井のほうを見てみると、丁度天井のスプリンクラーみたいなとっかかりに手をかけて逆さまにぶら下がってこっちを見てニヤニヤしている女の顔が見えたので、そのまま元の体勢に戻って教官を待つことにした。
「マジで遅いな、そろそろ3Mに連絡とってみるか?」
俺がハーヴェイに聞いてみると、彼は一瞬うーんと唸ってからそうしたほうがいいかもなあと言ってきた。
まあ、このまま待っててもアレだし宇宙なんだから事故とかでこれなくなったとかありそうだからなあ。
「ちょちょちょっとまって、なんでツッコミ入れないのさジャパニーズ!あんたボケたらツッコミ入れんのが使命なジャパニーズでしょ?」
頭頂部の向こう側から女の声が聞こえてくるが気のせいだろう。
声につられて上を見てしまったハーヴェイが大口開けてフリーズしているが、俺はそこに触れるつもりはない。
「ねえ、上から声が」
「気のせいだガラッティ、多分教官が来ない不安感からくる幻聴だ」
「待って、ごめん待って」
天井のとっかかりから手を放してクルクルと回転しながら俺たちが座っている椅子の正面側に降りてきて着地、どうしても構ってほしいらしいなコイツ。
一連の流れを無言で追っていたラーヒズヤが、クルッと俺のほうに首だけ向けて一言……コイツは多分最初から気づいてたな。
「ニンジャ?」
「いや違うだろ」
なあ?と同意を求めようとハーヴェイのほうを見たら、なんか正面に降り立った謎の天井女のほうを見て固まってる。
まさかアレに惚れたのか?
「……アンタ、まさかシルビアか、資源惑星発見者の?」
「やっとまともなリアクションがとれたわ、ジャパニーズってのはボケたら素早くツッコミを返す民族だって聞いてたんだけどねえ」
安心したかのように言うが、そりゃ間違ってる……ボケにツッコミを返すのが生物としての義務なのは関西人であって日本人じゃねぇよ。
ともかく、天井女の自己紹介と、ハーヴェイが言ってることを大雑把に合わせることにしよう。
彼女の名前はシルビア・ケリー。
部屋にいるメンバーの中では最もかつ唯一俺より身長の低い160cm台で、スレンダー体型のショートボブな栗色の髪の毛の持ち主で26歳。
ハーヴェイが知っていた理由は、米宇宙軍で噂になっていた宇宙用艦船外殻素材として最適な金属が採取できる資源惑星を太陽系外で発見したのが、やたら若いアメリカ人の女性だという噂である。
軍事用資源として取り扱われたため一般向けとして情報は公開されておらず、『こんな若い奴であっても』という煽り目的で誰が何を成したかという噂話として、一部の軍事関係者の間で話が出回っているようだ。
これにはさすがの天井女も苦笑いをしていたが、「そういう使い方をされるのも想定のうち」とのことで特に思うところはなさそうだ。
例えば太陽系外の資源惑星発見なんて宇宙を注目してもらうために宣伝するのはマストなはずなのに機密扱いになってるとか、違和感を感じる部分が多々あるのは事実。
政治やらなにやらが絡む思惑があるんだろうし俺みたいなのが文句を言っても仕方のないところだ。
因みに採掘権限があるのは、発見者が所属している、このディスカバリー社だ。
実際には外部の宇宙採掘業者にでも頼んでいるのだろうが、星系外まですっ飛んでいって帰ってくるのは大変だろうなあ……地球人が所持している推進システムが星系規模で考えるとローテクすぎるし。
まあ細かいことは何でもいいんだ、これでようやく宇宙で活動するための訓練カリキュラムがスタートするってことである。
では星系間でのお話のとき、地球勢力のテクノロジーの発展具合はどのくらいにすべきかって話になります。
200年後の地球人が独自にワープドライブを開発できるかっていうと、どーなんでしょうねえ。
できるようになってるといいなあ、とは思いますが。




