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強制英雄伝 坂本龍馬 史実通りに動かないと電流が流れるので、ビビリの俺が泣く泣く維新の英雄を演じるハメになったぜよ  作者: 守川 聡史


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第1話 爆誕、そして電流

幕末・坂本龍馬・歴史補正AI・電流・勘違いコメディです。

気軽に読んでもらえたら嬉しいです。

 暗い。


 狭い。


 ぬるい。


 羊水の中に浮かんでいるとき、俺はただの「肉の塊」だった。


 意識はあっても、言葉はない。


 ただ、早くここから出たいような、一生ここにいたいような、ぼんやりとした不安だけがあった。


 ――天保六年十一月十五日。


 運命の朝が来た。


 強烈な圧迫感。


 世界が収縮し、俺の体は狭い産道を押し出されていく。


 苦しい。息ができん。


 誰か、誰か引っこ抜いてくれ。


 いきなり、視界が拓けた。


 まぶしい光。


 肌を刺す冷たい空気。


 そして、錆びた鉄のような血の匂い。


 俺は、生まれたのだ。


「……おぎゃ」


 とりあえず、挨拶代わりに泣いておくか。


 そう思って口を開きかけた、その時だ。


 脳みその奥底で、『それ』が起動した。


『システム・ブート。歴史補正AI「クロフネ」、インストール完了』


 は?


 誰じゃおまん。


『警告。対象個体の音声出力レベル、規定値未満』


英雄的行動指針ヒーロー・プロトコルに違反しています』


 へ?


『補正を実行します。レベル1』


 直後。


 背骨の芯に、焼きごてを突っ込まれたような激痛が走った。


「――っ!?」


 痛い。


 いや、痛いとかいうレベルじゃない。


 全身の神経が沸騰するような、理不尽極まりない暴力。


「あ、あ、あ……」


『出力不足。再実行』


 バチッ。


「あぎゃあああああああああああああああああああああ!!!」


 俺の口から、魂を削り出すような絶叫がほとばしった。


 産声なんて可愛いもんじゃない。


 断末魔だ。


 痛い痛い痛い!


 死ぬ!


 生まれたばっかりやのに死んでしまう!


 すると、頭上から野太い男の声が降ってきた。


「おお! なんという元気な産声じゃ!」


 父親の八平はちへいだった。


 俺を抱き上げ、満足そうに頷いている。


「これほど大きな声を上げるとは、こりゃあ豪胆な男子になるに違いねえ!」


 違う。


 父上、違うがぜよ。


 わしは今、見えない何かに虐待されゆうがよ。


「それに見てみぃ、背中に妙な毛が生えちゅう。こりゃあ松の木か? いや、龍のたてがみか!」


 それも違う。


 たぶん、さっきの電流で毛根がバグっただけじゃ。


 俺は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、心の中で必死に訴えた。


 助けてくれ。


 誰か、この頭の中の「変な奴」を追い出してくれ。


『個体名登録:坂本龍馬』


『史実データベースと照合。同期完了』


 事務的な女の声が、脳内で淡々と響く。


 痛みは引いたが、違和感は消えない。


 まるで、脳みそのシワの隙間に、冷たい異物が居座っているみたいだ。


(おまん、誰じゃ……?)


 震える思考で問いかける。


 返事は、即座に来た。


『私は歴史補正AI。未来より飛来し、あなたの脳内に定着しました』


(えーあい? 未来? 何を言うちょる)


『理解不能でも構いません。私の目的は一つ。あなたを「史実通り」に動かすこと』


(史実通り……?)


『はい。あなたが歴史のレールから1ミリでも逸脱しようとした場合、先ほどのような電気ショック(罰則)を与え、身体の制御権を強制的に修正します』


 ぞっとした。


 産湯の温かさなんて吹き飛んだ。


 つまり、わしは一生、この痛みに怯えて暮らさないかんのか?


 嫌じゃ。


 わしは痛いのが嫌いなんじゃ。


 布団でゴロゴロして、甘い菓子を食って、楽に生きたいんじゃ。


(そんなん……嫌じゃあ!)


 心の中で拒絶した、その瞬間。


 AIの声が、さらに温度を下げた。


『拒否権はありません。あなたの人生の「到達点」は既に設定されています』


 目の前に、青白い文字が浮かび上がる。


 赤ん坊の目には見えないはずの、光の羅列。


【最終目的地:京都・近江屋】


【到達予定日:慶応三年 十一月十五日】


【死因:暗殺】


「…………は?」


 あんさつ?


 死ぬ?


 わしが?


『以上が、あなたの確定した未来(史実)です。ここを目指して、邁進してください』


 ちょっと待て。


 ちょっと待てや。


 わし、今、生まれたばっかりぜよ?


 なんでいきなり、死ぬ場所と日付を宣告されんといかんのじゃ。


 しかも暗殺ってなんじゃ。


 殺されるんか。


 痛いんか。


(嫌じゃ……絶対嫌じゃあぁぁぁ!!)


 俺は全身全霊で拒否した。


 全力で手足をバタつかせ、この理不尽な運命から逃げ出そうとした。


『警告。感情値が不安定です。鎮静化プロセスを開始』


 バチッ。


「ふぎゃっ!?」


『泣いても無駄です。英雄に涙は似合いません』


 再び走る電流。


 俺の意識は、痛みとともに強制的にシャットダウンされそうになる。


 薄れゆく意識の中で、俺は悟った。


 これは、英雄譚じゃない。


 これから始まるのは、死にたくないビビリの俺と、俺を絶対に殺そうとするこの「鬼AI」との、終わりのない戦争なんじゃ――。


「あぎゃああああああああああああ!!!」(訳:助けてくれぇぇぇ!!)


 天保六年の冬。


 坂本家の次男・龍馬は、そのけたたましい泣き声で「稀代の豪傑」と勘違いされ、華々しくデビューした。


 地獄の幕開けである。


ここまでお読みいただきありがとうございます。


生まれた瞬間に死亡予定日を告げられる坂本龍馬です。

地獄の幕末ライフ、ここから始まります。


よければブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
ひさめです。早速ですが、感想書かせて頂きます。 まさか、赤ん坊からスタートだとは思いもよりませんでした。これから、AIがパートナーとして活躍することとても楽しみです。お互い頑張っていきましょう。
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