15話 A級ダンジョンと目玉
「嬉しいよ。ペルーサとダンジョンへ行くことができて」
薄気味悪い笑顔のディラン。やっぱり信用できない奴だな……
「これから行くダンジョンはどんなダンジョンなんですか?」
僕はディランに尋ねる。
「ああ、A級ダンジョン【黒い瞳の洞窟】だよ」
「A級ですか……」
「まあゴーレムを倒したペルーサにオリビアもいるんだ。大丈夫だよ。別にダンジョンの攻略が目的じゃない。ペルーサの腕前を確かめたくてね」
(相変わらず僕を怪しんでいる。監視されていると思った方がいいな……)
「おい、ペルーサ。ディランの前では、無暗に力を使わないようにしろよ」
オリビアさんが耳打ちする。たしかにその方がよさそうだ。
◇
ダンジョンに到着した。黒い瞳の洞窟、不気味な雰囲気のダンジョンだ。
僕らは洞窟に入る。魔獣の気配はそこら中に感じる。
オリビアさんが先陣を切って進んでいく。
「気を付けてくださいね」
「ああ! これも訓練だよ!」
さっそく、魔獣がオリビアさんに襲い掛かる。
「はぁっ!」
次々と魔獣を斬っていくオリビアさん。実戦を見るのは初めてだがさすがの腕前だ。
「ペルーサ! できるだけ私が魔獣を倒す。逃がした魔獣は後ろからサポートしてくれ!」
「はい!」
今日のオリビアさんは気合が入っているようだ。ほとんど1人で魔獣を斬り伏せていく。
たまに斬り損ねた魔獣は僕が魔法で倒す。
(……あまり魔獣は強くないな。これならディランに監視されても上手く切り抜けられるか)
ディランは後ろから不満そうに僕らを見ている。
オリビアさんの活躍もあり、ダンジョンに入って数時間でボスの間の近くまで来た。
「はぁはぁ、おお。もうボスの間じゃないか?」
「そうですね……」
おかしいな? いくらオリビアさんが強いとは言え、A級の魔獣がここまで弱いかな?
ゴーレムのダンジョンはボスの間まで数週間かかった。魔獣ももっと強かった気がするが……
「不思議そうだな、ペルーサ」
僕の心を見透かしたようにディランがつぶやく。
「ダンジョンのランクはな、魔獣の強さだったり、ダンジョンの長さ、ボスの強さなんかの総合で格付けされるんだ」
なるほど。ボスに辿り着くまで険しいA級、ボスが強いA級とあるのか……
「……ということは……このダンジョンのボスは相当強いってことですか……?」
「そうだねぇ、よかったよ。あまりに魔獣が弱くて、ペルーサの本気が全然見れてないからさ」
ディランはニヤリと笑う。
「さあ、この勢いでボスも狩るとするか」
魔獣を倒し続け、勢いに乗っているオリビアさん。
「ま、待って、オリビアさん!!」
オリビアさんを静止し、ボスがゴーレムより強いレベルかもしれないと話をした。
「……そうだろうな。私も調査団だ。それは感じていたよ。じゃなきゃ私の剣がA級ダンジョンの魔獣に簡単には通用しないよ」
少し寂しそうなオリビアさん、余計なことを言ってしまったかな……
「だからペルーサ! ここのボスも私1人で戦わせてくれないか?」
「えぇ!?」
「もちろん簡単に倒せるボスじゃないだろう。すまないが危なくなったら助けてくれよ?」
「わかりました……無理しないでくださいよ」
「というわけだ。ディランも分かったな?」
「ええ。私はなんでも構いませんよ。どうせペルーサの力が必要になりますからね」
「貴様……」
オリビアさんはディランを睨みつける。
◇
僕らはボスの間へ入る。
部屋の中央には巨大な真っ黒な鬼のような姿をした魔獣がいる。魔獣【黒い瞳】だろう。
禍々しいオーラを漂わせている。
「それじゃ手出しは無用だからな」
オリビアさんはそう言い、剣を抜いた。
黒い瞳と距離をとり睨み付けるオリビアさん。
全身が真っ黒でどこを見ているのかも分からない。
オリビアさんが一気に駆け寄り斬りかかる。
「はぁッ!!」
(よし! オリビアさんの得意な形だ。これは決まるか?)
その時、黒い瞳の全身に目玉が現れた。
「なにっ!?」
黒い瞳は斬撃を受け止める。
(どうして? 一瞬オリビアさんの剣のスピードが鈍ったような?)
黒い瞳はオリビアさんを掴む。片手でオリビアさんの体を握りつぶすほどの強大な手だ。
「ぐわあああ」
悶えるオリビアさん。
「オリビアさん!」
僕はとっさに炎魔法を放つ。
『グオォォォ』
炎魔法に包まれ不気味なうめき声をあげる。
燃える黒い瞳はオリビアさんを手放し、部屋の奥下がっていく。
「オリビアさん! 大丈夫ですか?」
「……ああ、すまない。偉そうなことを言っておきながらすぐ助けてもらうなんて……
もう一回……私にやらせてくれ!」
悔しそうなオリビアさんは言う。
「でも……」
「1つ分かったんだ。あの魔獣の全身に目玉が出てくると、こちらの視力が奪われるようだ」
(なるほど……それで斬撃が鈍ったのか)
「視力がなくなるのは一瞬だ。分かってさえいれば対処できる」
オリビアさんは再び剣を構える。
1人で魔獣を斬り続け、そのままボス戦のオリビアさんの体はフラついている。次の一撃が限界だろう……
「はぁっっ!! くらえっ!」
斬りかかるオリビアさんに黒い瞳はすかさず目玉を出し、視力を奪う。
(来た……)
しかし、オリビアさんはいつものように軽やかに舞う。何千回も訓練してきた動作だ。
オリビアさんは迷うことなく剣を振り下ろす。
「うおぉぉぉ」
剣が黒い瞳の目玉に突き刺さる。
「よし! さすがオリビアさん!」
そう思った瞬間、
『パリンッ』
オリビアさんの剣が砕けた。
視力を奪われ何が起こったのか理解していないオリビアさん。
攻撃され、怒り狂った黒い瞳はオリビアさんに殴りかかる。
「ぐわぁあッ!」
オリビアさんの腹部に拳がめり込む。
「くっ!」
【瞬間移動】
僕は瞬間移動し、オリビアさんを抱きかかえる。
部屋の中で逃げ回るがすぐに黒い瞳に追いつめられる。
「コイツ……速い!」
【シールド魔法】
僕は盾を出しボスの攻撃を受け止める。
そのスキにぐったりとしたオリビアさんに回復魔法をかける。
「大丈夫ですか? オリビアさん!」
「うぅ、すまない……」
顔色が悪いな……心配だ。
「ボスを倒したらちゃんと回復魔法をかけます。とりあえずここでおとなしくしててください」
僕はオリビアさんに応急処置をし、黒い瞳に攻撃する。
【炎魔法】
さっきはあまり効かなかったが足止めくらいにはなるだろう。
【雷魔法】
電撃を飛ばし攻撃する。
しかし、どちらもあまり効果はないようだ。
「くそ! 魔法が効かない魔獣なのか? それなら……【肉体強化】だ!」
僕は全身を強化し黒い瞳に殴りかかる。
「危ない!」
オリビアさんが叫ぶ。
その瞬間、黒い瞳の全身に目玉が浮かび上がる。
「し、しまった!」
うっかりしていた。あれだけオリビアさんがやられるのを見ていたのに……
僕は黒い瞳に視力を奪われた。こうなっては攻撃できない……
立ちすくむ僕を掴む黒い瞳。
「ぐあぁぁッ!」
肉体強化のおかげでなんとか握り潰されずにすんだが、とんでもない力だ……
(どうする……目玉が出てるうちは近づけないのか……まてよ? 目玉?)
僕はイチかバチかの賭けに出る。
「おい……黒い瞳……その目玉でしっかり見てろよ……!」
【光魔法】
僕は光魔法で強烈な発光をさせた。
『ギャーーーーッ』
黒い瞳はうめき声をあげている。無数の目玉でこの光を見てしまったのだ。眩しくてしょうがないはずだ。
黒い瞳は堪らず目玉を閉じると、僕の視力は元に戻った。
「よし! 今しかチャンスはない!」
【肉体強化・全力】
体を抑えている黒い瞳の指を吹き飛ばした。
僕はすかさず殴りかかる。
「うおぉぉおッ!」
強烈なパンチを黒い瞳の顔面に叩きこむ。
『グワァァァア』
顔面を砕かれ、黒い瞳は倒れて動かなくなった。
全身が煙のように消えていく。なんとか倒せたようだ。
「はぁはぁ、よし……」
「すごい……よくやったペルーサ!」
よかった。オリビアさんも無事のようだ。
黒い瞳は消え去り、後には宝玉が落ちていた。
「これがこのダンジョンの宝物かな?」
僕は宝玉を拾い上げる。
その時……
「いやーお見事!」
拍手をしながらディランが近づいてくる。
「……あなたはなんであんな状況でも助けてくれなかったんですか?」
僕をディランに怒りをぶつける。危うく2人とも死にかけたのだ。
どうして王宮魔法使いのこいつは何もしなかったんだ?
「すごいよペルーサ。ゴーレムを倒したのは間違いないだろう。疑ってすまなかった」
こんな時でもニヤニヤ笑うディラン。
「なあペルーサ。俺たちの……いや、デーモン様の仲間に入らないか?」
「えっ!?」
呆然とする僕。やはりディランは敵だった!?
それもカノン様に呪いをかけたデーモンの仲間か!?
ボスを倒した僕らだが、すんなりこのダンジョンを脱出できそうにはない。




