07話 幼い少女の未来
「しっかし、よく分かったな。シャルルが動物好きだとは知ってたが、まさか何も聞かれてもないお前が言い当てるなんてすごいなぁ!」
男は九条の頭を何度もたたいて褒める。
「ちょっと、痛いですって。僕は少し観察力が良いだけですよ。誰にでも出来ますよ、こんな事くらい。・・・ところでシャルルって?」
「あぁ、せがれの名前だ。そしてこっちのめめっちいのがアルカ。愛らしいだろ?そして、俺の名前はトルトンだ」
トルトンはそう言うと笑いながら息子たちの頭を撫でる。
だが、九条の頭の中ではそれどころではなかった。
目の前にいる女の子アルカが10日以内に死んでしまう。
それも、どこと分からない兵士に殺されてしまうのだ。
「ん?どうした、まずいか?」
トルトンは九条に心配そうな目でこちらの顔を伺ってきた。
「いえ、おいしいですよ。」
夕飯にパンに似た物が出てきた。それは、何とも不思議な触感で面白い物だった。パンの周りには見たこともない食べ物で、皿の縁にはスプーンが置いてあった。これはあちらの世界と同じ使い方で少しホッとした。
「ねーねーお兄ちゃんの名前って何ー?」
タオが九条に名前を問う。向こうが名乗ったのだから、こちらも名乗らなけらば礼儀に反する。
「僕の名前はレイと言います。よろしくおねg・・・」
〔お腹がすいたよー。レイ君まだー?私死にそー〕
鮎川の声が頭に突き刺さる。
焦った九条は鞄とご飯の乗った皿を持ったまま立ち上がった。
「どこかに行くのか?」
「あ!・・・・・・えーと!犬!昼に犬を見かけてね!大丈夫かなーご飯要るかなーって思ってね。大丈夫、すぐに戻ってくるから!」
九条は急いで家から出ていくと、走って人目の付かない所に移動する。
「ホントにすみませんでした!」
九条は鞄に向かって土下座で謝った。
鞄からは足をふら付かせながら出てくる鮎川の姿があった。
〔もうーー!なんで、上げちゃったの!あと1個だったのに!信じられない!〕
鮎川は九条に睨みつける。そして、皿に盛ってあるご飯をガツガツ食べ始めた。最初は人間の食べるものはグリフォンの体に悪くないか心配になったが、特に変な味がすると言う訳でもないので、黙って見ていた。
〔もう、いいよ。でも、これからはこういう事も覚えといてね!今度忘れてたら、ホントに起こるからね!〕
「はい・・・・・以後気を付けます」
〔どうしたの?ちょっと言い過ぎのかな?〕
「あ、いえ。そういう訳ではないんですが・・・」
言うべきか言わないべきか、九条は悩んだ末。
「いえ、何でもありません。これからどうしようかなぁと」
〔そう。なら良かった。でも、飴を忘れないでね〕
それだけを言うと、鮎川は鞄の中に入ろうとした。
「ちょっと待ってください。センセー」
〔んん?何?ってキャ!〕
「悲鳴を上げないで下さいよ。口が汚いですよ?」
九条は鮎川の口の周りをタオルで念入りに拭く。このまま鞄の中に入られたらたまったもんじゃない。
「すみません。それでは揺れるかもしれませんが、お休みなさい」
〔おやすみ~〕
幸い、タオルは替えが数枚存在する。これは、向こうにいた時にいたサークルのせいだ。九条が入っていたのは登山のサークルは2ヶ月か3ヶ月に一度、登山をするのだが、それ以外は体力造りと言う名の筋トレだった。おかげで見た目は痩せたものの、筋力が付きだが、それが癖になってしまいタオルも何にもない日で何枚か持ってきてしまう。
あの日もそうだった。
鮎川はその何重ものタオルの上で就寝に着いた。
「ただいまー」
「「「おかえり!!!」」」
3人は威勢のいい声で九条に出迎える。
「犬さん元気だった?」
「どんな犬なの?」
「家で飼ってみるか?」
3人は口々に九条に語りかける。
「あの・・・ここに母親っていないんですか?」
その瞬間、嵐が消えたかのように辺りはシンッと静まり返った。
九条は自分が言っちゃいけない事を言ったんだなぁと気付いた。
「す!すみません!気が回らない事を言っちゃって!」
「良いんだ。別に・・・」
トルトンはそう言うと、ご飯をスプーンでかき集め、口に頬張った。
この状況を見て分かった事は、言ってはならない事を言ってしまったという事実だった。
「レイお兄ちゃん!また明日、お話ししようね!」
アルカはそれだけ言うと、別の部屋へと移動してった。
「あぁ!お休み!」
九条は扉を閉めようとしているアルカに急いで返事をした。
向こうはこちらの返事に気付き、手を振ってから扉を閉じた。
それに続いてトルトンも行ってしまう。
「すまないが今晩はそこで寝てくれないか?他の部屋はほとんど荷物置き場でな。毛布とかはそこのタンスの中にあるはずだから」
部屋の端の方にポツンと寂しそうに置かれているタンスが一つ。それは決して豪華な物ではないが、なにか懐かしいものを感じられた。
「お兄ちゃん・・・僕はもう少しここに居ていい?」
「いいよ。この家はあなた方のです。僕が居るか居ないかを決める権利はありません」
九条は優しくシャルルの頭を撫でる。
「お兄ちゃんは他にどんな動物を知ってるの?」
「こんな動物を見たことがあるか?」
九条は鞄からソッとノートと文房具を取り出すと、ノートに首の長いまだら模様の黄色い動物を描く。上手くはないが下手という訳でもないだろう。
「何これー?!どこにいるの!?」
「こいつはアフリk・・・・・お兄ちゃんの知り合いからこいつを教えてもらっただけでお兄ちゃんも知らないんだ」
「ふーん・・・・」
シャルルはノートに書かれている動物に魅了されているようだ。あちらでは見ようと思えば見れるものが、こちらでは存在しないのか?
シャルルはノートを下ろすとこちらの目を見て鞄に指を指した。
「ねーねー!その袋の中に何が入ってるの?なんでモゾモゾ動いてるの?」
「え?モゾモゾって?」
九条が恐る恐る後ろを振り返ると、確かにそれはモゾモゾと動いていた。
セ、センセー!あなたは何をしてるんですか!
「ねーねー。見ーせーて!」
純粋な子供がここまで怖いと思ったのは初めてだ。自分の思ったことは自分に忠実で、自分の欲求が満たされるまでその目の輝きは消えない。
九条はゆっくり鞄に手を差し伸べる。
「僕が開けていい?」
え?
あっという間にシャルルは鞄の傍により、その口を開けてしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
声が聞こえない。
あぁ。終わった。まさかここで終わってしまうなんて。まだ序盤だぞ?
〔ごめん。見つかっちゃった〕
「良いですよ。それぐらい、すみません。僕も不注意でした」
九条はデコに手を付きながらため息をした。
「誰と話してるの?このグリフォン!?すごい!どうやってるの?ねーねー・・・」
あぁ、誰か助けてください・・・・。
こういう未来も見えたなら、本当に欲しい物だと九条は本気で思った。