27話 二人
もし、この話の中でR18発言だなーなんて思う箇所があるかもしれません。
もし、そんなものがあった場合、物語上の設定なので許してください。お願いします。
いや、本当に通報とかマジ勘弁してください。
あ、そだ。
※今回の話には性的発言が含まれる発言があります。嫌な場合は飛ばしてください。
ふー……コレデイイダロウ……
半透明な球状の何かは、兄妹を取り囲んでいた。
だが、それはまるで彼らというより、彼を取り囲んでいるかのように見えた。
「こんなこと……痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!」
彼の目にそれは映ったのだろうか。そして、彼を見ている妹ルカに兄は何が映ったのだろうか。
両者の背中または胸には兵士は普遍的に持つ剣が刺されている。イルは必死にそれを抜こうとするが、抜こうとする度に心臓に激痛が走り、力が緩む。
痛いと言いながら、彼女は死が怖いとばかりに自分の兄の腹を蹴ったり胸を殴ったりと、暴力を振るう。
一方、妹の突然の変わりように動揺を隠せない兄は、ただ、妹に殴る蹴るをされるだけだった。
おかしい。その一言だけが彼の頭を覆い尽くす。
妹がこの半年の間。言わなかった言葉。だが、言って欲しくなかった言葉。
自分を呼ぶ声だけが、こうやっていられた唯一の理由だったのに。何処で間違えたんだ?
「いやーダー!死にたくなー、いー!!」
俺は、何をしているんだ?目の前には生きようともがいている妹。
これってどういう事なんだ?今まではまるで、夢にいるような、そう夢の中に自分がいるようなそんな感じだった。
だが、これは何なんだ。
アルは怯える目で、もう少しで彼の胸部から剣を引き抜こうす、あ。
この瞬間、彼の口から大量の血が噴き出したのは言うまでもないだろう。
南から指す太陽に当てられ輝く紅の液体と共に彼女は爽やかな笑顔で立ち上った。
「……な?!」
「ハァ―ハァーハァー……と、も、だち」
彼女の嬉しそうな笑顔に、その兄はもう確信せざるを得なかった。彼女は、分かっていて殺っていた。
確信犯である事を確信した。
それと同時に、安心したのであった。
この場に、殺せる人間など、もう二人しかいなかったからだ。
胸からマグマのように吹き出す血。これを見ると、眩暈がしてきそうだ。そして、自分の寿命がもう半刻もない事を知らせる。
ふと、ボトボトと大げさに同じく血を無駄に零していく。
「あー!!痛い、クッソ痛い!!、痛い痛い痛い痛い!……!!」
彼女が動くと、周りの球体も動く。
それは全てを破壊しつくす。少しでもそれに触れれば、簡単に砕けてしまう。
アルは、そんな危険な物があるのにも関わらず、動かなかった。いや、ここは動けなかったというのが正解だろう。
もう近い寿命の中で、アルは涙を流した。
「俺は……な、何もできなかった」
胸の痛みに暴れのたまう妹が、近くを通った。だが、どうしたことか、彼は自分の足が綺麗になくなってしまっている事さえ、どうでもよくなっていた。
声にもならない鳴き声を負け犬の遠吠えのように叫んだ。
痛いと、死にたくないと、そんな風に命を叫ぶ声も小さくなってきていた。
「…………ァ……ァア…ァァァアアアアアァアアアアア!!」
俺はもう死ぬ。
だから、俺は!
「もう……止めてださい」
ふと誰かの聞いた事のある声が聞こえた。
その声は、崩れた馬車の中からであった。
アルは、限りなく小さな力で、顔をその声のする方に向けた。
「ルカ……ちゃん。っハァ!……ひ、人殺しなんて止めて、くだ、さい」
馬車の下から、誰かが出て来る。馬車には、舌むき出しで横たわりに死んでいる馬。首の当たりが、齧り盗られたように消えている。
そして、その声の持ち主が現れた。
だが、彼もまた、片腕が無くなっており、その無くなった腕の傷口の上部から締め付けたような緊急処置を施した簡単な物だ。
「ぁあ!」
その姿に、ルカは嬉しそうに振り返った。
それは、まるで愛しい何かに久しく会うかのような、そんな笑顔だった。
おい、妹に近づくな!
……声さえ出ないのか、俺にできる事はもう……何もないのか?
「あれ?立派な体つきの人……生きてた!」
妹は嬉しそうな顔で、ゆっくりとゆっくりとその人に近づいていった。
だが、その人はそこに立ったまま、辺り一面に広がる血に映る自分を見つめている。
「だから」
それは少しずつ、早く彼を中心に近づいていく。
妹は、わくわくして、彼のその後の姿を楽しみにしているかのような笑顔だ。
「こっち向いて!」
ふと、耳元に聞きなれない少女の様な声が聞こえた。
だが、自分の耳を信じることすら面倒でしかなかったアルには、それはもはや、ただの空耳と片づけるのに足りない物はなかった。
声のする方を向く。
「だ、誰?」
ぼやける視界には、肌色の何かがいた。
何か。その表現はいささか御幣を産む言葉だろう。
正確には、肌色の誰かがいた。
「や、やっぱりこっち見ないで!」
恥じらいの声。
こっちを見てと言っておいて、何が恥ずかしいんだ?
遠くでは、血の滴る音が聞こえる。まだ、戦闘は始まっていないようだ。
「あなた、それでも呪受者でしょ?」
呪受者?なんだ、それは?
胸元がやけに明るく感じる。それに、暖かくも感じるし、なんだか胸の痛みも引いてるようにも感じる。
そして、なによりも、ぼやける視界も鮮明になって来た。
ドパン・・・
「カハッ!……ゲホッ!ゲホゲホ……ハァーハァー……誰と存じませんが―――」
アルは、命の希望を感じた少年は、咳き込み、深く進化呼吸をしながら、その少女の声のする誰かの方を向こうと、首に力を入れる。
途中、胸元の温もりも、光も途絶えた。
きっとこれは、噂に聞いた魔法なのだろう。この俺の中に無理やり流し込まれた呪いなんかじゃなくて、もっと清らかな何かなのだろう。
「存じ上げませんが、ありがとうございま……あ?」
確かに、そこには少女がいた。
裸だった。体中には鞭で打たれたような形の痣が数十個も、痛々しく残っていた。
体の見た目からして、自分より1つか2つ下だろう。
肌色の肌には、真っ赤な血が上から、ドクドクと流れ出ている。
手の平で覆いつくせそうな、その胸も赤一色に染め上げていた。
少年は、ゆっくりと血の吹き上げる根源に視線を追わせる。
「な、何が?」
少年から出て来る精一杯の言葉は、その一言だけだった。
アルという少年が見た物。それは首のない少女。正確には、少女だった物。
今となっては、それは生き物だったのか。少女だったのか、誰だったのか、疑わしい物だ。
ふと、あちらの戦いについても気になってしまった。
フッと、その人が、妹がいた場所の方に振り向く。
「あ……ああぁあ……あああああああああ……」
棒のように、何か寂しげに立っている妹、ルカはそこにいた。
そして、その妹の視線の先には、首の失くしたその人が崩れた馬車にもたれ掛かって死んでいた。
この場にいるのは。とある兄妹。
呪いを受けし、悲しき運命を無理強いされた悲しき兄妹だけだった。
この世界は、失敗。
今回の一件を鮎川ユキの言葉から借りるのならば、そんなところだろう。




