未来の夫と私
変態と別れたことで振り出しに戻ったステファニーは出会いを求めて積極的に夜会に参加することにした。
もう形振り構っていられない。こうなったら手当り次第に夜会に出席して早く結婚してしまおう。
今日も父親のグレープ侯爵にエスコートされファーストダンスを終えたばかりだ。
より多くの人と出会う為、連日のように夜会に行くステファニーは王子の婚約者時代とは別の意味で有名になっていた。
「おい、この誇り高き俺様が寂しく一人でいる貴様にダンスに誘ってやる。」
「ステファニー嬢、こんな悪意しかない魔窟にいるより、あちらのテラスで二人の将来について語り合わないかい?」
「月の女神も勝てない美貌の僕に会えなくて寂しかったろう。さあ、もう寂しくないよ。僕と踊ろう。」
「ステファニー、私とやり直そう。殿下と私とステファニー三人が一緒に幸せになる道を探そう。」
「マシュー、言っている意味が分からないよ。彼女が嫌がるし、さり気なく三人とか俺を入れるのは気持ち悪いから視界から消えてくれ。ステフ、こんな奴らの言う事なんて聞かなくていいから、俺の手を取って。」
「帰る。」
ステファニーは目の前の男達なんて視界に入ってないとばかりにくるりと向きを変えて会場の出口へ歩いた。
「「「「「待ってくれ!」」」」」
慌ててステファニーの行く手を阻む五人の男達。
五人の男達を見てステファニーはうんざりした。
ステファニーが夜会に頻繁に参加するようなってから、どこから聞きつけたのか目の前の男達も夜会にやって来て、こうして彼女に声を掛けるのだ。
傍から見ると、ステファニーの周りには常にアクの強いハイスペックな男達が付きまとっているという図になっている。
お陰でステファニーは他の男性に近付く事すら出来ないので結婚は遠のくばかりである。
ハッキリ言って営業妨害だ。
全く毎回毎回、執拗い人達ね。
参加する夜会もギリギリまで秘密にしてるのに必ず居るんだから邸内に内通者が居るのかもしれない。これは由々しき問題だわ。
ステファニーは邸に帰ったら内通者を洗い出そうと心に決めると男達に微笑み、言葉を発する為に息を吸い込んだ。
「アルフレッド様、ハッキリとお断りしたのに相変わらず人の話を聞いてないみたいですね。それとも耳が遠くなりましたか?少し早いですが老化ですか? いい医師を紹介しますよ。
カール様、夜会には有象無象の魔物が居るから参加しないんじゃなかったのですか? 幸運の珍獣のレアリティが駄々下がりですよ。
エリック様、煌びやかな方々が私の周りにいて会場中の視線を集めてるのは分かります。私をダシに注目されようとするのはやめてください。
マシュー様、殿下付きから王妃様付きの近衛騎士に配置替えされたそうですね。愛しの殿下と離されてさぞかし気落ちしてるかと思いきや、なかなかのポジティブ思考でドン引きです。つか、ヨリを戻すとか絶っっっ対有り得ないから。本当無理。
ルド、爽やか王子からヘタレわんこ属性への華麗なる転身に驚いてます。そっちから婚約破棄したのに、今では私の後をついて歩いて以前とは正反対の関係に周りが戸惑っているのでやめてください、私が飼い主みたいな感じになってます。最近は私の言葉に従って脳筋紳士のブートキャンプにも積極的に参加して根性を叩き直してるらしいですね。これからも精進して私の事なんかさっさと忘れてください。
全員、私の婚活の邪魔だからどっか行って!」
ステファニーは一気に言い終わると出口に向かうのはやめて会場の奥へまだ見ぬ未来の夫を探しに行った。
「置いていかないで、ステフ!」
「あっ貴様!」
「ステファニー、私も一緒に!」
「待って、ステファニー嬢!」
「おやおや、ステファニー嬢は僕の人気に嫉妬しているね。」
それぞれ声を掛けると、五人の(自称)未来の夫達はステファニーの後を追いかけた。
こんな調子で繰り広げられる茶番を周りの人間は生暖かい目で見ている。
更には、ステファニーが誰と結婚するか賭けまで始まって、悪評よりも変態共に好かれた可哀想な子という認識になりつつあった。
因みに一番人気は王子で大穴はエリックだ。
父親のグレープ侯爵は複雑な心境でステファニー達を眺めていた。
一人の父親としては娘の望む相手と結婚して欲しいが、侯爵としては、出来れば王子かネクター公爵がいい。
大穴だけはやめてくれ、賭け金がパアになる。
父親も大概クズである。
本音はこれだけ引っ掻き回したのだからあの五人の中から誰でもいいから結婚して欲しい。
これ以上自分の髪がストレスで散っていくのを見たくない。
どこまでも髪の毛が大切な侯爵だった。
「ステフ、待って!」
「嫌です。」
「せめて一曲だけでも踊って貰えないかな?」
いち早くステファニーに追い付いた王子は叱られたワンコの様におずおずと手を差し出して御主人様の返事を待機している。
ステファニーに啖呵を切られて以来、彼女には無理強いはしないで全て彼女の言いなりになっている。
ステファニーも大型犬に懐かれたように感じているので、最近は「殿下」から昔のように「ルド」と愛称で呼んでいる。
大の大人が、それも王族が小娘の後を付いて回って愛を乞う姿はなんとも憐れで大雨の日に捨てられた大型犬を彷彿とさせて、ステファニーは段々絆されている自分に危機を感じていた。
結婚はしたいが王子妃は色々面倒だから嫌だ。
「し、仕方ないですから一曲だけですよ、ルド。」
そう言って王子の差し出された手の上に自分の手を重ねる。
パアァァっと曇り空に太陽が出たような笑顔になり尻尾があればブンブンと全力で振ってるであろう王子は嬉しさを前面に出してステファニーとダンスホールへ向った。
「一曲、一曲だけですからね!」
何度も念を押すステファニーにこの世の春が来たかのようにウキウキとする王子。
「ああ、勿論。一曲だけでも嬉しいよ。」
そう言いながらも、この手を二度と離さないと王子は心の中で黒い笑み深めた。
新人独身貴族の婚活が終わるのはもうすぐ。
最後までお付きいしていただきありがとうございました。
皆様はどの候補者がマシでしたか?それが気になります。