終結と再会
有村鈴にはやるべきことがあった。
およそ一年前に突如として失踪した幼馴染の捜索である。
高校生活二年目の夏、日常茶飯事的に授業をサボって姿を消した少年は、そのまま夜になり、日をまたいでも家に帰ってこなかった。常に面倒くさいだのなんだのと愚痴をこぼすような不真面目な学生ではあったものの、事情も告げずに行方不明になるなど初めてのことである。携帯もつながらず、当然両親は心配を募らせていた。
そこで鈴は少年の両親と共に夜の街に出向き、あちこちを探して回った。
公園、カラオケボックス、飲食店、ショッピングモール……学生が出歩きそうな場所を片っ端から潰していったが、幼馴染は見つからない。すれ違いになって家に帰っている可能性も考えて一度帰宅したが、それも無駄だった。
健康が取り柄の少年は学校を休んだことがない。授業はよくサボるが、学校にだけはきっとくる。そう信じながら翌日、登校した鈴は空白の席を見て目の前が真っ暗になった。
何日、何週間たっても少年は帰ってこない。
ニュースにまで取り上げられ、事件に巻き込まれた可能性があるとみて警察も動き出し、日本各地で捜索が始まったが目撃情報はいつまでたっても0。死亡説が出てくるのに時間はさほどかからなかった。
しかし、鈴は死亡説を一切信用せず、幼馴染の少年を探し続ける。
高校も休み、無趣味が幸いして中学生のころからたまっていた貯金を切り崩し、あてもなく日本を北は北海道、南は沖縄まで飛んだ。
絶対に生きている。必ずどこかにいる。日本でダメなら海外にだって行ってやる。
そんな覚悟の元での捜索は一年ほどで、突如打ち切られることとなった。
足元から現れた、謎の文様によって。
○○○○
どうやらここは異世界らしい。日本、というより地球、それどころか宇宙までもが違うのかもしれないが、それはともかくとして、科学ではなく魔法が発展した異なる法則で組み上げられている世界。
カルテリオの説明を聞いた鈴は、ある可能性に希望を見出した。
幼馴染は自分と同じように、この世界に無理やり連れてこられてしまったのではないか? そして、帰る方法がわからず途方に暮れてしまっているのではないか? というものだ。
もしそうならば自身も帰れないということになるが、そんなことは今はどうでもいい。問題は幼馴染がこの世界にいるかどうかである。
とはいえ、勇者として召喚された以上、必要最低限のことはしなければならない。使命を果たしつつ、自分のすべきことをする。とりあえずは方針を固めたうえで、鈴は最高傑作らしい甲冑を身にまとい、剣を片手に城の外へ出た。
「っ……」
まず初めに感じたのは肌にねばりつくような湿気と異臭だった。
夕立のように激しく振っている雨と、城を取り囲むようにして大量に押し寄せている魔物が原因だろう。防衛している兵士たちはみな傷つき、地面に倒れている者も少なくない。何名かはすでに死亡しているだろう。
ここが日本ではなく、現状が絶望的な最悪の事態であるということは初見で理解できた。この状況を今の今まで命のやり取りなどしたことのない自分にどうにかできるのかという不安がこみ上げる。
と、同時。
突然のひらめきのように、打開策が思い浮かんだ。
何も考えていないのに勝手に思考が働く。
誰かに操られているかのように、手足が動く。
「『流星矢』」
それが何なのか、鈴にはわからなかった。
右手に剣を持ち、空に満ちる雲に掲げた直後のことだった。
シュッパァァァァァァァァ!! と。切っ先から凄まじい光があふれだした。
それは例えるのならば超強力な光の噴水だ。灰色の濁った雲を一瞬にして貫き、遥か高くまで上がった光の奔流は一定の高さに到達した瞬間、無数に分裂した。
その一つ一つが、先端の鋭く尖った矢の形状をしている。重力に引かれるようにして千にも及ぶ光の矢が城下町全体に雨と代わって降り注ぐ。
ザザザザザザザザザザザザザザザザザザンッ、という音が数えるのも馬鹿らしいほどに連続した。
いったい何が起こったのか。それを最も早く理解したのは警備兵たちだった。
今まで戦闘を繰り広げていた魔物たちが――全滅した。
降り注いだ光の矢は、兵士に一本も命中せず。そして魔物の大群すべての急所を正確に貫き、一撃で屠ったのだ。
遅れて事態を把握した鈴は、自分のしたことに驚きを隠せなかったが、まだ終わっていない。
北と東から、グランモーラトと呼ばれる災害級の魔物が接近している。
すぐさま倒しに向かわなければ。鈴がそう思った時には勝手に体が動いていた。
「『光速移動』」
すると。
北から接近していたグランモーラトの心臓に穴が空いた。
そして全く同じタイミングで、東のグランモーラトが消失した。
たった一秒ほど発動したおそらく魔法らしきもので世界を10周し、その最中に何かとぶつかったということだけはわかったが、具体的にそれで何をしたのかは鈴も理解していなかった。
ただ。カルテリオ城城下町に降りかかった災厄を、ものの十数秒にも満たない時間で解決したという結果だけが残る。
すべての兵が呆然とし、城から見ていた王はあまりのことに顎を外した。
最初の『流星矢』の影響か、貫かれた曇天は霧散し、先ほどまでの雨はいつの間にか止んでいた。
これも魔法の効果なのか、城下町の東部の空中に浮いていた鈴はふと、下を見た。
そこに、三人の人がいるのを見つける。
一人は力なく地面に横たわっていた。出血こそ無いものの重症らしく、意識は失っておりピクリとも動く気配はない。もう一人はメイド服のオレンジ色の髪を持つ少女だった。怪我らしい怪我はしていない様子だが、少女は一人の少年のそばで泣き崩れていた。
そして。
地面に血だまりを作って倒れている、少年は。
「ゆー……ちゃん?」
それは隕石のようだった。
鈴は一直線に、少年の倒れているすぐそばへ着地する。
「えっ……だ、誰、です、か……?」
嗚咽を漏らしながらも、突然空から降ってきた白銀に輝く甲冑をまとった鈴の登場に目を白黒させるメイド少女。しかしそれには目もくれず、鈴はすぐさま少年に向かって手を翳した。
「『完全治療』ッッッッッッッッッ!!!!!!!!」
頭の中に流れ込んだ言葉をすぐさま紡ぐと同時、少年の体を光が包み込む。
あっという間だった。
背中の傷は消え失せ、脇腹の傷が塞がる。
地面に流れていた血はいつの間にかなくなっており、少年は傷一つない体に治る。
いまにも止まりそうだった心臓が、再び正常に力強く鼓動し始める。
青白くなっていた顔に赤みが差し、ほぼ停止していた呼吸が復活する。
意識が、戻る。
「……、……? あ、れ……ここは……死んで、ない……?」
「ゆーちゃん!!」
「ユーヤさん!!」
「おわっ!!??」
まるで寝起きのように起き上がった少年に抱き着く二人の少女。
少年はしばらくの間、困惑し続けた。
ようやく一話にチラッと出てきた幼馴染が登場。あれは伏線だった!




