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やる気なし勇者の異世界道  作者: 国衣任谷
二章
27/57

完成

□□□□


 美咲は産まれてすぐに両親を失った。

 原因は強盗に入られたからだ。出産を終えたばかりの母と付き添っていた父は、何者かに殺されその命を奪われた。美咲が生き残った理由は不明である。殺人を犯すような凶悪犯でも赤ん坊は殺せなかったのか、二人殺した時点で自分の犯した罪を後悔したのか。どちらにせよその犯人は今もつかまっておらず、事件は迷宮入りしたままだ。

 祖父母は母方も父方もすでに亡くなっており、両親を失った美咲は親戚の家に引き取られることとなる。しかしそのとき、親戚夫婦はすでに一人の子供を持ち、経済的に苦しい状態でもあった。なんとか4歳まで育てた時点でついに限界を迎えた夫婦は、あろうことか自分たちの抱える借金を返済するためにまだ幼い美咲を奴隷商に売ってしまった。


 結果、美咲は奴隷商の下で、徹底的に奴隷としての生き方を叩き込まれることとなる。その過程で口をきけなくなり、商品としての価値が下がったのは幸か不幸か。美咲は売れ残り続け、あらゆる国を転々とした。

 そして、今から数年前。

 美咲は奴隷商に連れられ、センスタ港町西部の山の麓近くを歩いていたところを魔物に襲われた。

 山に住みつく魔物が麓まで降りてくるのは滅多にないことではあったが、逆に言えばまれに起こるということである。奴隷商人達と美咲は運が悪かったとしか言えない。

 出くわした魔物はランクAの冒険者が数人いても命の危機にさらされると言われる【デビルテール】。体長10メートルを超える巨体と漆黒の鱗を持つ怪物である。

 数秒後には辺り一帯が血の海になっていてもおかしくない絶望的な状況で、その男は現れた。


 見た目は60歳を過ぎた老人。しかし背筋はピンと伸びており、筋肉に衰えは全く見えず、纏う雰囲気は尋常ではない。

 百戦錬磨をそのまま体現したかのような、凄まじい殺気と威圧感。

 目つきは鉄を貫きそうなほど鋭く、睨まれただけで弱い魔物なら絶命してしまいかねない。

 肩に担ぐようにして手に握るのは自身の身長を軽く上回る巨大な大剣。重量は計り知れず、一般的な冒険者が強化魔法を行使しても持つことができるかすら怪しい。

 どこからともなく現れ、奴隷商たちを守るように魔物の前へ歩み出たその男がやったことは至極単純だった。大剣を大上段に構えてただ打ち下ろすのみ。


 その動作に、音は無かった。


 一拍遅れて、暴風が吹き荒れる。それを知覚したとき、すでに魔物はその体を()()()おろされていた。

 魔物の体内から噴水のように血が大量に吹き出し、周囲に降りしきる。そんな中で振り返った老人はこう言った。


「すまんな、私のせいであなたたちを危険な目に遭わせてしまった。お詫びをさせて欲しい」


 そうして連れてこられたのが山を四分の三は上った場所にある横穴。たどり着くまでの過程で襲い掛かってきた魔物は一匹もいなかった。

 山の中にある横穴なのにもかかわらず豪華なもてなしを受け、様々な話をしてから奴隷商と美咲は山を後にすることとなる。



 □□□□



『その時、お爺さんはあの山で修行をしていたようです。確か目標は頂上に住みついている魔物の討伐、だったかと。実力不足で、目標達成にはあと10年はかかる、とも言っていました』


 簡潔に話を書き終えた美咲だったが、雄哉とヨルキは渋い顔をする。


「どう考えても俺たちの実力じゃ出会えそうにないんだが」

「確かに……。話に出てきた魔物も、たぶん僕たちなら瞬殺されるでしょうね。強さのレベルが根本的に違うような」


 雄哉たちはまだ、山の中腹で出てきた【ロッキーティラン】に対し三人がかりで戦って苦戦する程度の実力だ。そのお爺さんに出会うためには圧倒的に実力が足りていない。


「つっても他にあてがないし。その師匠候補がたまたまある程度下山してきている時に、たまたま俺たちが出会う、って状況を待つしかないだろうな。どっちにしろ、あの山の魔物は強いから俺たちの地力を上げる修行にもなる。気長にやろうぜ」

『それがいいと思います』

「焦っても仕方ないですからね。実力は確かみたいですし、それまでは地力を鍛えておきましょうか」


 とりあえず、しばらくは山に籠って武者修行をするという方針で固める。

 その時、キンコーンと部屋のチャイムが鳴った。


「んぁ? 新聞の勧誘か何かか?」

「『新聞』ってなんですか?」

「ああいや、こっちの話」


 この世界に新聞は無いのでヨルキには話が伝わらなかった。なんにせよ来客なので出ないわけにはいかない。雄哉はソファから立ち上がって玄関のドアを開ける。

 そこではどこかで見かけた覚えのある男が荷物を持ってスマイルで立っていた。


「センスタ防具店の者です。商品をお届けに参りました。ユーヤ様のお宅でお間違いないでしょうか?」

「商品? ……あー!! あれか!! やっと完成したんだな!?」


 センスタ防具店で購入した商品。

 そう、美咲の特注メイド服である。見かけた覚えがあったのは、店内で視界の端に移していたからだった。雄哉は身分証明のプレートを見せて商品を受け取り、部屋に引っ込む。今日の魔物討伐の疲れはすでにどこかへ吹き飛んでいた。


「うおおお、テンションあがってきた!!」

『どうされたのですか?』

「やけに嬉しそうですね」

「美咲のメイド服が届いたんだよ、さっそく見てみようぜ!」


 雄哉は興奮しながら梱包されていた商品を取りだす。

 出てきたのは――雄哉の注文通り、完璧に仕上がった戦闘メイド服とヘッドドレス。

 ギラッ、と雄哉の目が光り、美咲を射抜く。


「さっそく着替えてみてくれ、美咲!」

『はい。わかりました』

「お二人とも楽しそうで何よりです……。それじゃあ、晩御飯の時間まで僕は休んでますね」


 ヨルキが呆れながら立ち上がり、自室に戻る。

 美咲は雄哉からメイド服を受け取り、着替えるため自室に籠った。

 待つこと数分。


『いかがでしょうか?』

「うお……!」


 明るいオレンジの髪にかぶった純白のヘッドドレス。

 メイド服の方は上品ながらもフリルとレースがあしらわれ、大きなリボンタイがかわいらしいデザインとなっている。ふわりと広がるロングスカートも素晴らしい。

 雄哉の注文通り、いやそれ以上の出来栄えだった。これで防御面もかなり優れているというのだから、500万リアンの価値は十分にあるだろう。


「いいよ、すげー似合ってる。着心地はどうだ?」

『いいです。とても。サイズもぴったりです』

「完璧だな」


 そんなわけで、美咲は防具となるメイド服をようやく手に入れた。


土日は書けなくてつらいです

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