特注
「さて。まずは俺たちの目標を整理しよう。面倒くさいけど、やっとかないとだしな」
雄哉のその言葉で会議は幕を開けた。
一晩ベッドで熟睡した翌日、宿屋にある食事処で美咲が台所を貸してもらって最高の朝食を食べ終えた後のことである。
丸テーブルを椅子三つで囲むようにして座った雄哉と美咲、そしてヨルキはこれからのことを話し合うこととなった。
「ヨルキの目標はランクAの冒険者になること。俺もとりあえずは同じだ。そして美咲はメイドとして俺に付き添ってもらう以上、必然的に同じ目標を持つことになる。ここまではいいか?」
「大丈夫です」
『はい』
ヨルキと美咲は雄哉の目を見てしっかりとうなずく。
「で。そもそもこの町に来た理由は、ランクAになるために必要な剣術なり武術なりの『戦闘技術』を身に着けるための師匠を探して、だ。まず、美咲が言っていた山から見えた港町ってのはここで間違いないか?」
『はい。馬車から見た風景がかつて見た風景とよく似ていました。間違いないと思います』
「つまり、俺達が求めている師匠はこの町から見える山のどこかにいる可能性が高い」
「でも、やみくもに探したってすぐに見つかるとは限りませんよね?」
ヨルキが雄哉のセリフに口をはさむ。
雄哉は反発せずに受け止めた。
「その通りだ。山って言ってもこの辺には6つぐらいあるし、どれも大きい。そのどこかにいるってだけじゃ、片っ端に探してると無駄に時間を食う事になる。そこで提案だ」
雄哉は一息入れ、
「まず、美咲の冒険者ランクをBにしよう。結局はやらなくちゃいけないことだからな。んで、それと並行して情報収集をする。依頼をこなしながら、山の中に籠ってる爺さんがいないか、って聞いて回るんだ。絶対に見つかるって保証はないけど、今できるのはこれが限界だろう」
「そうですね……ミサキさんはユーヤさんの専属メイドということですし。僕も急いでランクAになりたいわけではありませんから、構いません」
『頑張ります』
文句は出ない。これで、センスタでの行動が決まった。
「よし。そんじゃさっそく、服を買いに行こう」
「え?」
ヨルキが素っ頓狂な声を上げる。
雄哉はにやりと口の端を釣り上げた。
◇◇◇◇
さて、雄哉は実のところ、かなりの貯金を有している。
冒険者ランクBを目指して依頼をこなしていた時、散々【ドワールベアー】などの凶悪な魔物を倒しては素材を剥ぎ取り売却していたわけだが、それが一か月も続けば当然大量の金が入ってくる。ヨルキと二人で報酬は山分けにしていたが、それでも貯金は700万リアンを超えていた。贅沢をしなければかなりの長期間生活を維持できる程度の金である。
で、あるからして。
実は、割と贅沢ができる。
「フリルだよフリル。そうそう、そんな感じのやつ。色は白と黒。もちろんデザインはそのままで動きやすくないとダメだ。防御力が落ちる? 金は出すんだから少しぐらい無茶は通してくれよ。ああ、ヘッドドレスも忘れないで。それから――」
「あの、ミサキさん。あんなユーヤさん、今までに見たことがないんですけど……」
『私もです』
3人がやってきたのは服屋――ではなかった。
防具屋である。そこの女性店員に、雄哉はあれこれと防具のデザインを指示しているのだ。
防具は特注で作ることも可能である。だが防刃、衝撃吸収素材の加工は難しく、凝ったデザインにすればするほど金がかかり、冒険者の中でも一部の人間しかやらないのが現実だ。
しかし今、金のある雄哉にブレーキは無い。せっかく美咲にメイド服を着せるのだから、どうせならば最高にかわいく、最高に防御力の高い、見た目と機能の両方を兼ね備える完璧な防具を作らせようとしていた。その結果。
「あ、あの。これを作ろうとしたらお値段は500万リアンはくだらないと思われますが……」
「一向に構わん。やれ」
「ユーヤさん、なんかキャラ変わってませんか!?」
『すごく真剣ですね。私のことをしっかり考えてくださっているのが伝わってきます』
「あれっ、そう解釈するの!?」
結局、2時間以上デザイン案や性能を煮詰めた雄哉と店員。
雄哉は満足げな顔で、店員は「ほ、本当にこんなの作るの……? いや、でもお金は前払いでいただいちゃったし……やるわ、やって見せる……!」などとぶつぶつ呟きながら現れる。
「いやー、完成が楽しみだぜ。そんじゃ、美咲の冒険者ランク上げといきますか」
「は、はい……」
『頑張ります』
ヨルキはともかく、美咲の気合は十分だった。
◇◇◇◇
冒険者ランクがDからCに上がる最大の要因は知名度にある。
『町のどこかで見たことがある人物』という具合に人々に知られれば、それだけで勝手にランクが上がるのだ。他にもすでに実力がある程度認められている者ならば、登録の際にランクCから始まる場合もあるが、それは美咲には当てはまらない。
ただ、雄哉がランクCに上がるのに2か月以上かかったのに対し、美咲がランクCに上がるのに要した時間はたったの一週間だった。
「納得いかねー」
「ユーヤさんは影が薄いですからねー。逆にミサキさんは顔立ちが整ってますし、筆談しかできないというのはデメリットでもありますが、印象に残るという点ではメリットです。雑用の仕事もそつなくこなしますから、あっという間に知名度が集まったってことでしょう」
「にしたって早すぎだろ。俺の時の八分の一だ。どんだけ俺の影は薄いんだよ」
「人ごみにまぎれた瞬間、僕も見失いますからね。正直、ユーヤさんが闇属性魔法を多用するようになってからは一層影が薄くなったような気がします」
「マジか!? そんなこと今まで聞いたことねぇぞ」
「言ってませんでしたからね」
雑談をしながらも雄哉はセンスタ周辺の山間部地図を広げ、印をつけていく。
今、美咲はギルドでランクCへの昇格手続き中だった。その間に、一週間で集めた山の中に住むお爺さんの目撃情報をまとめているのだ。
と言っても、その情報は極端に少ない。誰に聞いても知らぬ存ぜぬの連発だった。
そもそも6つの巨大な山にはかなり凶悪な魔物が住み着いており、冒険者ですらあまり立ち寄らないのだ。馬車でこの町にやってくるときも、山の麓を大きく迂回するようなルートで魔物との接触を極力避けていた。
「これなら自分達の足で探した方が早そうだな……」
「そうですね。魔物の強さは標高に比例しているらしいですから、ミサキさんと依頼をこなしながら経験を積んで、少しずつ探索範囲を広げていけば効率は良くなると思います」
「それでいくしかねーか」
『お待たせいたしました』
美咲が雄哉とヨルキの待つテーブルへ戻ってくる。
彼女の背には武器屋で雄哉が購入した弓があった。しかし、一つ足りないものがある。
「武器はそれで登録できたか?」
『はい。「魔法の矢」でも認めてもらえました』
そう、美咲は弓を持っているにも関わらず、矢をどこにも持っていなかった。
しかしこれには理由がある。美咲はどうにも魔力量が少なく、強化魔法を使うだけではろくに直接戦闘ができないのだ。
そこで魔力消費を抑えつつ強い威力を発揮させるため、メインの武器として『魔法の矢』を使うことに決めた。武器屋には『魔法の矢』を番えるための専用弓、『魔弓』が存在し、それを美咲の武器としたわけである。ちなみにお値段は100万リアン。
必然的に、美咲はこれから後方支援の戦力としてその力を伸ばすことになる。
「それじゃあさっそく、適当にCランクの依頼を受けて魔物との戦闘に慣れてもらうとするか。まずは弓を扱えるようになろう」
『分かりました』
「例のお爺さん探しも同時に、ですね」
「もちろん」
手始めにはやはり【アングボア】の討伐を選択。
雄哉一行はセンスタ西部にある6つの山に向けて、歩き出した。
美咲は後方支援。装備はメイド服一択




