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第6話:探検


次の日。

休みということで、紗夏が基地内を案内することになっていた。


「まずは、みんなの部屋ね。右が女子、左が男子部屋。男子部屋は立ち入り禁止だから気をつけてね」

「……わかった」

「うん、よろしい! それで、壮馬とかに用事がある時は入り口の呼び出し機を使えば大丈夫。……試しに匡矢でも呼び出してみよっか?」

「……やる」

「匡矢の部屋は――なんだけど、押せないよね」

「……たかい」

ボタンは紗夏の目線の高さにある。

あおいがどんなに背伸びをしても届かない。

今日は紗夏が抱っこして押すことにした。


「……そう、部屋番号を押して………受話器のボタンを押せば繋がるから」

あおいがボタンを押すと、呼び出し音が鳴る。

数回聞こえると、ピッという音とともに声がした。


「はーい、匡矢です」

「……きょうや?」

「あ、あおいちゃん? おはよう! どうしたの?」

あおいは振り返り紗夏に言う。

「……きょうや でた」

「よかったねー。匡矢が、あおい『どうしたの?』だって」

「……いま たんけん」

「探検してるの? いいね! 楽しんでねー!」

「……うん」

「ところで、紗夏いる?」

「はーい、いるよー」

「陸斗たちが張り切ってるから期待してて」

「あー、はいはい。了解です。あおい、切るからなんか言ってあげて」

「……きょうや たんけんする?」

「…………え、めっちゃ魅力的なお誘い。行きたいんだけど、ごめん。今日はこれから出かけるんだ」

「……だめ ってこと?」

「そう……」

「……じゃあ ばいばい」

「え? ばいばいなの?」

「ふふ。匡矢、ばいばーい」

通信が切られる。

あおいが降ろされる。

「陸斗と壮馬は部屋が一緒だから、今のところ2部屋分覚えれば大丈夫。これで、あおいも使えるね」

「……うん。できた」

あとで踏み台を持ってこなきゃ、と思う紗夏。


後日、基地の至る所に踏み台が置かれるようになるのはまた別の話。


――――――――――――――――――――――

「次はどこに行こうか」


紗夏が一歩踏み出そうとした時、床がわずかに傾く。

どこかで金属が軋むような音がした。

すぐに揺れは収まったが、あおいはきょとんとしている。

「……ゆれた?」

「そうね。今日は波があるからね」

「……なみ」

「ほら、外見てごらん」

通路の途中に丸い窓がある。

そこからあおいが覗くと、窓の外には、白波が立つ青い海が広がっていた。

「……おぉ」

「初めて見る? これは、海だよー。今日は波が高い日なんだよね。ところどころ白く見えるでしょ? わかる? それがある日は波が高いの。本当は甲板に連れて行きたかったんだけれど、危ないからまたあとでね」

「……わかった」


――――――――――――――――――――――

「ここが、談話室。いつでも使える場所だから。飲み物も食べ物もいくらでも食べていいし、あとは……あそこのスペースは土足厳禁! 靴を脱いで使うくらいかな」

紗夏が指差したところには、他よりも一段下がった畳のスペースがあった。

「……くつ ぬぐ」

「そう。他に決まりはないよね……ないはず。本当に自由に使えるからみんな結構ここにいるね」


あおいは、ぐるっと談話室を見回すと「あっ」と声を上げて畳のスペースに駆け寄る。

靴を急いで脱ぎ、人をダメにしそうな大きいクッションにばふっと飛び乗る。

そのまま体を預けると、あおいの姿が完全にクッションに埋もれた。


「ちょっと、あおい?! 生きてる?」

「……いきてる」

「よかった。ふかふかでしょ?」

「……ふかふかぁ」


――――――――――――――――――――――

「他には隊長の執務室とか、倉庫とかあるけれどそこは用事があるときにね。最後は、使ったことあるけれど食堂ね。食事は全部専門の人が作ってくれるから美味しいよ。ご飯の時間は、入り口のドアに書いているから後で見ようね。基本は、私と一緒に食べようね」

「……うん」

何度か利用しているからか、興味が薄い。


食堂に入ると見慣れた姿があった。

「……あ、りくと」

「おう。ちょうどよかった。このイス座ってくれるか?」

「うん?」

食堂には、イスを作っている陸斗と数人の隊員がいた。

あおいは陸斗に抱き上げられて、座らされる。

足が宙に浮き、自然とぶらぶらする。

やや高いイスで食堂のテーブルとの高さが合う。


陸斗と一緒に作業している隊員が高さを見る。

「少し高いかもしれないな」

「あと2cmくらい下げれば食べやすそうだな」

「階段と足置きも必要だな」

そんな会話が聞こえる。


確認が終わるとあおいがイスから降ろされた。

「ありがとな、あおい」

「……うん」


あおいが紗夏の元にてちてちと戻る。

イスを指差して、聞く。

「……あれは?」

「あれはね、あおいのイス。ずっと匡矢の膝の上だと、食べづらいでしょ。だから、専用のイスを作ってるの」

「……………………! わたしの!?」

「そう」

自分用と聞いたあおいの目が輝く。


もう一度イスの方を見る。

「……あれ、わたしの?」

「うん、あおいのだよ」

「……わぁ」

その顔は喜びが隠せていなかった。


「……りくと、わたしの?」

「うん? ああ、おまえのだな」

「……わたしの、いす」


そのままあおいはイスの隣に座り、じっと見る。

「……ずっと みる」

「邪魔だよ」

陸斗が被せるように言う。

「……じゃま じゃない」

少しほっぺを膨らませながらあおいが言う。

その光景を見ていた紗夏が笑いながらあおいに話しかける。

「さすがに近すぎるよ。少し離れて。ここなら邪魔にならないし、見てられるでしょ」

「……はい」

大人しく引き剥がされる。

それでも、あおいの顔から不満は感じられなかった。


目を輝かせながら、時折、陸斗に話しかけながらあおいは自分のイスが完成するまで見ていたのだった。

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