幕間:大人の話
コンコンコン、と執務室のドアがノックされた。
村瀬がドアを開けると先生がいた。
「村瀬さん、お疲れ様です。あおいちゃんのことについて隊長さんに報告したいんですが、今よろしいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。どうぞ」
「失礼します」
「隊長さん、お忙しいところごめんなさいね」
「いえ。今ちょうど終わったところですから。むしろ、先生にはあおいのことまで調べさせてしまって、申し訳ないわね」
隊長がそれまで見ていた資料を片付けて、来客用のソファへ移動する。
先生も向かい側に腰を下ろした。
「そんなことないですよ。私はそういう立場なので。だけど、研究所を探るのは骨が折れますね。協力者を総動員してもまだ全容はわかりません。謎が深まるばかりですよ」
「本当に先生には頭が上がりません。あおいのことがなければ研究所で人体実験が行われていることを知りませんでしたからね。あそこでは、武器の開発ばかりだと思っていました」
「わたしもです。というか、第一部隊以外知らされていませんよね」
「ええ、上からも遠回しに口外するなと圧力をかけられました。あおいを取り返そうともしてるみたいですし……」
村瀬はコーヒーを淹れている。
先生の分には砂糖入りを、隊長の分には何も入れずにそれぞれの前に置く。
「村瀬さん、ありがとうございます」
先生が一口飲むと、資料を取り出してテーブルに置く。
「今回は2つほど、判明したことがあります。
まず、予想通り第一部隊研究所にいたことが確定しました。検査結果で、研究所出身者特有の数値が記録されたそうです。
また、管理番号はDW-094。以前、あおいちゃんが言っていたものとも一致します。
DW-094の検査結果は通常の方法では見られませんが、ある方法で閲覧することができました。そこには、およそ5年分のバイタルの記録が残っていました。
まだ全てに目を通せてはいませんが、読み終わり次第ご報告します。
それと――記録は5年分ですが、あおいちゃんが5歳とは考えにくいですね。身長だけで判断するなら7〜8歳程度ですが、成長が止められた痕跡があります。
他の検査結果から判断すると、本来の年齢は10〜15歳ほどではないかと思われます。本人は年齢を覚えていないため、確かめる方法はありませんが……」
「なるほど。7〜8歳くらい、もしくは、もっと幼い頃に研究所に連れて来られて成長を止められた可能性があるということですか」
「そうです。それに加えて、脳の働きが普通の子供とは違うところがあるみたいですね。それが壁を作る能力に関係しているのか、成長を止めている原因なのかは調べているところです」
「そう。引き続きお願いね」
「分かりました。それから、今回新たに判明したのは研究用の子供の入手方法ですね。まだ確定ではありませんが、あおいちゃんもそのルートで研究所に連れてこられたものと思われます。
……正直、嘘であって欲しいと思う方法ですが、お聞きになりますか?」
「……ええ、もちろん」
「では、まずこちらをご覧ください。」
別の資料が机の上に置かれた。
「研究所ができて3年後くらいから、とある地域の子供の行方不明数および死亡者数が増えています。近年は、行方不明者は減っていますが、それでも7〜15歳の子供の死亡者数が国の平均より明らかに高い状態です。
実際に、この地域に足を運んだ協力者によると研究所の職員らしき人たちが親と話している姿を何度か見たそうです」
「それは……」
「おそらく、貧困層の親に多額の金を渡し、引き換えに子供を買っているんでしょう。その地域には無戸籍の子供もいるため最初はその子供たちを。その子供たちがいなくなったから、今は買ったり攫ったりしているのだと考えられます。
死亡届が出されていることから、研究所のみならずもっと上の機関が関与している可能性もありますね」
「だから、口外禁止と圧力をかけられているわけね」
「ええ、たぶんそうです。それで、買い取った後、研究所内で何らかの方法で記憶を操作し特殊能力を与えるのではないかというのが仮説として挙がっています。今は、その記憶操作や能力を与える方法も調査しているところです」
「最後に、こちらです。唯一手に入ったあおいちゃんの研究所時代の報告書になります。なんというか、すごい環境にいたんだなと思わされます」
「先生がそういうのならよっぽどのところなのね、あの研究所は。今までの資料も含めてあとでゆっくりと見させてもらうわ。いつもありがとう」
「いえ、私の仕事ですから。でも、あおいちゃんかわいいところもあるんですよ……」
そうして、話題はあおいの日常に移っていった。
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[報告書No.542]
識別番号:DW-094
高さ3m、幅5kmの壁を7時間維持(18回目)
4時間まではバイタルに変化なし。
壁の強度は通常時と変わりなし。
5時間を超えた時、DW-094のバイタル変化あり。
脈拍数、呼吸数ともに上昇(別紙参照)。
額に汗が滲み始める。
集中力低下の兆候あり。
壁の強度は維持されている。
6時間23分、壁崩壊。
不足分の37分はランニング追加。
ランニング中に2度の転倒
→体力不足が壁崩壊の原因と推定。
転倒時、意識を失っていたため鞭による刺激を与えたところすぐに立ち上がる。
痛みで顔を顰めることはなし→痛覚変容の兆候
能力評価A
体力評価B
規律遵守A+
来月より体力向上のため体力フェーズ5に移行。
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