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第11話:援軍


ブルルルルと遠くからエンジン音が聞こえてくる。

少しずつ近づいてきて雪を噛む音も聞こえてきた。


それらはあおいたちを追い越し、――壁――の前で臨戦態勢を取る。


壮馬があおいに近づいてくる。

「あおい、お疲れ様。もう大丈夫だ」

「……もう いいの?」

「ああ」

「……よかった」

壮馬が手を挙げる。

大きく息を吐いたあおいが、後ろに倒れていく。

――壁――が消えたと同時に、壮馬の手が振り下ろされる。

「打て!!!」


急に放たれた銃弾に敵は全く反応できない。

反撃の隙を一瞬も与えない完璧な攻撃だ。


「あおい!」

後ろに倒れたあおいを紗夏が受け止める。


「壮馬、早かったな。まだ、4時間経ってないだろ」

「まあな。あおいがこっちを抑えているって聞いてから士気が上がって早く終わったんだ。なんとか間に合ったようだな」

「ギリギリな」


「あおい! あおい!」

紗夏がずっと呼びかけていたが、反応がない

倒れたあおいは意識を失っていた。

かろうじて胸が上下しているのが見える。


「ここはいいから、早くあおいを先生に」

「あぁ、任せたぞ」

「もちろん」

壮馬が戦場に戻る。


「紗夏行くぞ」

「うん」


ブルルルルと、あおいを乗せたスノーモービルが戦場から離れていった。



スノーモービルが基地の玄関前に滑り込む。

エンジン音が止まるより早く、紗夏があおいを抱えて飛び降りる。

靴も脱がず、医務室のドアを勢いよく開ける。

「先生! あおいが!!」


「すぐベッドに寝かせて」

意識のないあおいをベッドに寝かせ、コートや手袋を脱がせていく。

顔だけではなく、指先も白くなっていた。

それに、抱えている時には気が付かなかったが、手だけではなく体全体が震えていた。


薄着になったあおいの腕に血圧計がまかれる。

逆側の脇には体温計が挟まれ、指にはパルスオキシメーターがつけられた。


数十秒の待機時間さえもどかしい。

ピピピピと測定完了の音が鳴る。


血圧は85/45、心拍数は172、体温は34.0度、SpO2は測定エラーを示していた。


「血圧と体温が低いわね。紗夏、基地内にあるありったけの毛布を持ってきてくれる?」

「わかりました!!」

まるで、短距離選手のようなスタートを決め、医務室を出ていく。

「靴を脱いでから行くのよー。まったく、すごいわね……」


紗夏が探している間、先生はあおいの腕に点滴を繋げていた。

中身は生理食塩水。

脱水していると考えられるための処置だ。


5分後、前が見えないほどの毛布を抱えて紗夏が戻ってきた。

「先生、これで足りますか?」

「十分よ。今、お湯を沸かしているから湯たんぽもしましょう」

「分かりました。毛布はかけていけばいいですか?」

「うん、そうね。かける毛布と周りを囲んで風が入らないようにする毛布にしてちょうだい」

毛布を丁寧にあおいにかけながら紗夏は聞く。

「あの、先生。あおいは大丈夫なんですか?」

「うん、命に別状はないわ。軽い低体温症と脱水ってところかな。この吹雪の中4時間もいたのにこれで済んだのだから大丈夫よ」

「よかったー」


毛布をかけ、湯たんぽで動脈を温めると少しずつあおいの呼吸が戻ってきた。

「先生! あおいの呼吸が落ち着いてきました!」

「それは、いい兆しね。いつ目覚めるかはわからないけれど、心配いらないわ」

「ほんとですか! あおいー、寒かったら教えてね」


「ところで、紗夏さんは戻らなくていいの?」

「あ! たしかに! 一度隊長に報告しにいきます」


「その必要はないわよ」

隊長が、医務室に入ってきた。

「紗夏、ご苦労様。先生、あおいの様子はどんな感じですか」

紗夏は、複雑そうな顔をして一言「ありがとうございます」とだけ言い俯いてしまった。


「軽い低体温症と脱水ですね。血圧も低いですが、温まれば戻ると思います。点滴もしていますし、湯たんぽや毛布で温めていますので心配は入りません」

「そう、よかったわ。目覚めたら教えてちょうだいね」

「わかりました」

そう言い隊長が医務室から出ようとするが、一歩踏み出して止まる。

「……あと、紗夏」

「はい」

「あおいがいつ目覚めてもいいように、このままそばにいてあげなさい」

「え、でも……」

「あなたがいなくても、私の部隊は優秀なんだから」

「ありがとうございます。もし、何かあればすぐ呼んでください」

「ええ、もちろんそうするわ」


バタンとドアが閉まる。

「隊長さん、優しいわね」

「本当にそうですね」


紗夏があおいの冷たい手の指先を握り、マッサージをする。

あおいを見つめる顔は優しさそのものだった。

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