33話
「……ん〜、今何時だ?」
めちゃくちゃ寝た気がする。
外は暗いな。
時計を見ると夜中の3時。
昼と夜ご飯を食べずにずっと寝てたのか。
スマホを見るとみかから大量のメッセージがきていた。
「うわー、電話もかけてきてたのか」
次会うときが怖いな。
昔、女友達からのメッセージを今回みたいに返さなかったとき刺されたんだよな…。
流石にみかは刺さないと思うけど、怒られそうだ。
最後のメッセージは、『いっぱいメッセージ送ってごめんね、疲れてるもんね。私なんかにかまってられないよね…。一緒にご飯食べたかっただけだから嫌いにならないでね』
…病んでね?
とりあえずメッセージを送っておこう。
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翔琉:ごめん、寝てた。
みか:知ってる。
翔琉:朝になったら一緒にご飯を食べないか?
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既読無視。
どうしよう、このままでいいのか?
みかも寝るよな?
「散歩でもするか」
初めての東京、そしてこの辺りのことも全く知らない。
旅行先で散歩をすることが好きなので出かけることにした。
服も用意してもらえていたし、奇抜な服ではなく、シンプルな黒色のシャツだったのでありがたい。
「涼しくていいな〜」
夜中の涼しい風が好きだ。
この辺が静かなのもいいな。
みかも呼べばよかったかな。
財布も持ってきたし、適当に開いてる店に入るのもいいな。
夜中なので閉店中の店が多いけど、居酒屋や焼肉屋は開いている。
普段外食なんてしないし、居酒屋なんて行ったこともないし入ってみるか。
お店の中に入ってみると、狭すぎない広さで何人か客がいた。
「いらっしゃいませ!1名様ですか?…って、え!?」
「はい、1人です。大丈夫ですか?」
「え、えーと、はい…!大丈夫です!こちらへどうぞ!」
1人でこういう場所に来るの大人になったのを実感するな〜!
何を頼もう?焼き鳥?焼きおにぎりもいいな。
「お客さん!違ったら申し訳ないんだが、もしかして、燈黒 翔琉っていう人じゃないか?」
「え?」
このお店の店長らしき人が話しかけてきた。
え、なんで知ってるの?
もしかしてテレビを見てたのか?
「朝テレビを見てたときの人とお客さんが似てる人!ってウチの娘がはしゃいでんだよ。だから聞いてきてくれって言われてな」
「あー、なるほど…」
「それでどうなんだい?燈黒 翔琉なのか?」
「い、いえ、似てるだけだと思います…」
「やっぱそうだよなー!娘には俺から言っとくからよ、ゆっくりしていってくれ!変なこと聞いた詫びにこれはサービスな!」
乱雑に切られた魚の刺身をもらった。
「いいんですか?」
「余ったやつだからいいぜ!」
「ありがとうございます」
嬉しい。
居酒屋っていいな!
「注文いいですか?」
「おうよ!」
瓶ビールと焼き鳥と焼きおにぎり、あとだし巻き玉子を頼んだ。
瓶ビールも大人が飲んでいるイメージなので頼んでみた。
お酒はいつも家でしか飲まないし、おつまみも自分で作るから全てが新鮮でいい!
「お、おおお、お待たせしました!」
「ありがとうございます」
きたー!
どれも美味そうだ。
店長の娘さん?が離れてくれないので食べにくい。
「なんですか?」
「ひやぁっ!す、すみません!すみません!」
謝るなら下がってくれないかな。
せっかくの料理が冷めてしまう。
「か、翔琉さんですよね!?」
「人違いです」
もういいや、食べてしまおう。
うん、だし巻き玉子はふわふわで美味しい!
焼き鳥は肉が1つ1つが大きいしタレも美味くて最高だ。
「えー!?翔琉さんですよね!?モンスター達と戦ってる燈黒 翔琉さんですよね!?」
「人違いですよ」
ビールも美味しいな〜。
このお店は覚えておこう、また来たい。
東京にいる間は毎日来てもいいな、違うメニューも食べてみたい。
「に、兄ちゃん?心ちゃんが泣きそうになってるし、相手してやってもいいんじゃないか?」
「そうだぜー、人違いならしょうがないと思うけどさ。兄ちゃんは救世主って言われてるあの燈黒 翔琉本人だろ?」
「そうだそうだ!女の子を泣かせるなー!」
なんだこの酔っ払い達。
多分この店の常連なんだろうけど、絡んでくるのか。
心ちゃんと呼ばれた子はたしかに涙ぐんでいる。
このお店にはまた来るつもりだし、できるだけかまっておいた方がいいか。
「翔琉さん…」
「はぁ…なに?」
「あ、あの!どうすれば翔琉さんみたいに強くなれますか!」
「強く?」
覚醒者なのか?もしそうなら災厄でモンスターを戦うのがいいけど、そんなの勧められないしな。
「覚醒者なのか?」
「はい、職業は狩人なんです。どうすれば強くなれますか!やっぱり、モンスターと戦うことなんでしょうか?」
「そもそも強くなんてならなくていいと思うけど…」
「ほらな、救世主様が言ってんだ!心ちゃんは戦わなくていい!だよな、大将!」
「あぁ、心は心のままでいい」
え、なに?
空気が重くなったけど訳ありか?
俺はご飯を食べに来ただけなのに…。
「私、変わりたい!せっかく変われるチャンスが来たの!翔琉さんみたいに強くなって、皆を助けられるようになりたい!」
わぁお、ご立派じゃん。
「だからって心が戦う必要はねぇ!」
「お父さんのわからず屋!」
ドラマを見ている気分だな。
酒と料理が美味い。
「もう知らない!」
「水よ」
「あれ、なにこれ、開かない!」
飛び出して行きそうだったのでドアを水で囲んで外に行けないようにした。
さすがにこれ以上ややこしい事に巻き込まれるのはごめんだ。
常連の1人が話しかけにきた。
「兄ちゃんがドアに細工したのか?」
「そうだよ」
「さすが救世主様だな!」
「その救世主様って言うのやめてくれない?」
笑って流された…。
そろそろ慣れてきたし、まぁいいか。
心はドアの前で気まずそうにしている。
「どうした、出て行かないのか?」
「う、うるさい!」
親子喧嘩か。
そういえば父さんと母さんと喧嘩なんてしたことないな。
「出て行かないなら仕事に戻れ!」
「わかったよ!」
案外あっさり終わるもんなんだな。
「悪かったな、お客さん。騒がしくしちまってよ」
「気にしなくていいですよ」
「今日は金はいらねぇからさ。また来てくれないか?」
「いいんですか?」
「妻を助けてくれた礼だよ」
助けた覚えはないけど、あの会社にいたのか。助かってよかったな。
それからまたサービスだと言って枝豆をもらった。
やっぱり居酒屋はいいな、いっぱいサービスしてもらえる!
「ご馳走様でした」
「おう!また来てくれ!」
「はい、それでは」
店を出ると、外は明るくなってきていた。
心って子とはあのあと話す機会はなかったが、常連の人達とは仲良くなった。
名前は和田さん、丸山さん、豊中さんといって、いつも3人で呑みに来ているらしい。
居酒屋に行くと知らない人と仲良くなることがあるって聞いたことがあるけど、まさか本当にあるなんてな。
全員違う会社のようだがアラサーで歳が近いらしく、たまたま出会ったときに仲良くなってから飲み友になったらしい。
正直羨ましいなぁ。
1人で飲むのも好きだったけど、今日みたいに誰かとお酒を飲むのもいいな。
コンビニで軽くお酒などを買ってホテルまで戻ってくると、ホテルの前にカゲツとみかがいた。
「どこ行ってたの?」
怖い。目は笑ってないのに口は笑っている。怖いんだけど。
「あー、ちょっと散歩をね?してて…」
「お酒臭いけど?」
「小腹がすいて居酒屋に…」
「なんで誘ってくれなかったの?」
「夜中だし、もう寝たかなー?って…」
「ふーん。その袋は?」
「お菓子とジュース」
「見せてみて」
「つまみとお酒です…」
ホテルの前で話していると邪魔になりそうなので俺の部屋まできた。
「私も飲んでみたい!」
「ダメだ」
「もうすぐ20歳だもん!」
「20歳になってから飲もうな」
部屋の中に戻ってくるとみかの機嫌が元に戻った。
「居酒屋って近くにあったの?」
「ここから20分ぐらいの場所だ。料理も美味しかったぞ」
「ずるい!」
「ワンッ!」
「今日の夜食べに行こう」
「やったー!」
「ワンワーン!」
みかとカゲツは俺が寝ている間にめちゃくちゃ仲良しになったんだな。息ピッタリだ。
ホテルの朝食の時間になるまで俺の部屋で待つことになった。
ここのホテルはビュッフェ形式で食べるらしいが、ペットを連れて入ることは禁止なので部屋まで持ってきてくれるらしい。
「カゲツって犬用のご飯を食べたのか?」
「私と同じものを食べてたよ」
「なんでも食べるんだな」
「ワン!」
カゲツはご飯がくるのが待ち遠しいようでドアの方をずっと見ている。
ご飯を持ってきてもらうとカゲツが喜んで食べている。
「嫌いなものはないのか」
「なさそうだね」
「ワン!」
パンやスープに卵料理など色々ある。
どれも美味しい。
さっき食べたばっかりだけどまだまだ食べられる。
どこかに出かける予定もないし、さっき買ってきたお酒もあけちゃおうかな〜。
袋からお酒を取り出そうとするとみかに止められた。
「なに?」
「朝からお酒飲むつもりなの?」
「朝から飲むお酒も美味いんだよ」
「ダメ人間になっちゃうよ!」
ダメ人間だからいいんですって言ったら怒られそうだしやめておくか。
「わかったよ。昼ぐらいから飲むよ」
「せめて夕方からにしなさい」
「オカンか」
「ガキすぎ」
お酒の袋を取り上げられてしまった…。
「今日の予定は?」
「ないからお酒を飲もうとしてたんだよ」
「もう!身体の調子は?」
「まだダルいからゆっくりしたいな」
「レベルが上がっても疲れはとれないもんね」
運動なんて学生の頃しかしていないからこの数日は俺としてはかなり頑張った。
モンスターとの戦いを思い出したら疲れてきた気がする。
「食べ終わったら寝ようかな」
「ゆっくり休んでねー」
「みかは何かするのか?」
「アニメとゲームかな」
「良い休日って感じだな」
俺もゲームしたいな。
でもスマホゲームはやってないんだよな。
ご飯を食べ終えたのでベッドで寝転がると、カゲツが隣にきた。
「カゲツもここのベッドが気に入ったみたいなんだよね」
「あんまり高い物を覚えてほしくないな。高級ベッドじゃないと寝たくないとか言いだしたらどうしよう」
「大丈夫じゃない?それにお金ももらったし買えるじゃん」
「そうだけどさ、部屋を片付けるのが面倒」
「実家暮らしでしょ?引っ越せばいいじゃん」
「どっちにしろ部屋を片付けないとダメだろ。でも引越しかー、しようかな」
大金も入ったし、いい感じの物件を探すか。
「一緒に暮らす?」
「バカなこと言ってないで部屋に戻れよ」
「戻りませーん!翔琉は連絡を返さないのでここにいまーす!」
「カーゲーツー。このバカ女を部屋に返してくれ」
「ワン!」
この駄犬、俺の頭に前足を置いてきやがった。
みかの味方しやがって…!
「カゲツだって昨日寂しかったもんねー?翔琉と一緒にいたいよねー?」
「ワン!」
「もう…わかったよ…」
「やったー!」
「ワーンッ!」
1人で静かに過ごすつもりが騒がしくなってしまった。
退屈じゃないしいいか。




