23話
響華が死んだ。
佑京のスキルで化物になってしまった者は、佑京が死んだ後も化物のままだった。
響華の身体のそばまで行くと脚に力が入らなくなり、その場で膝から崩れ落ちた。
「だ、大丈夫ですか?」
「……」
化物の身体になってしまった響華の身体から目が離せない。
身体を揺すってみるが動く気配もない。
目と瞼や歯がないと不気味だな。
綺麗な顔が台無しだ。
「燈黒さん!しっかりしてください!」
「……」
「燈黒さん!」
守れなかった。
どうすれば守れたんだろうな。
ずっと見ていると、響華が特別報酬で獲得した杖が落ちているのを見つけた。
魔術師の杖 知能+20
ははっ、性能いいじゃん。
インベントリにいれておこう。
「燈黒さん!」
「わかってる」
今日はもうなにもしたくない気分だ。
でも、行くしかない。
ここで心を折ってたら響華に怒られそうだしな。
「あんたらはどうする、最後までついてくるのか?」
「はい。響華ちゃんの分も見届けるつもりです」
「さっきのでわかったと思うけど、俺は誰も守れないからな」
「燈黒さん…」
「燈黒さん、あなたは俺達のことをしっかり守ってくれているよ。響華さんは…事故だ。しょうがない」
事故。
言い訳ならいくらでもできる。
姉弟の感動の再会だから予測できなくて油断したとかな。
年長者として俺のことを慰めてくれてるんだろう。
事故だから割り切れって。
「わかってるよ。行こう。さっさとここのボスを殺す」
「俺は君の勇姿をみんなに届けるよ」
「それは別にいらないんだけど…」
「そうかい?男なら目立ちたいものじゃないのかい?」
この人…。昨日はずっと俺にビビってたくせに…
響華のことを考えさせないように気を使ってくれてるのか?
「俺はそういうのに興味ない。行くぞ」
「そうかい。ついて行かせてもらうね」
この階にはもうモンスターの気配がない。
すぐに6階へ行こう。
6階への階段を上がるとモンスターの気配が少しだけした。
「佑京がほとんど倒したのかモンスターの気配が少ない。でも気をつけろよ」
「はい!わかりました!」
「頼りにしているよ」
なんか距離感が近くなったか?
俺に怯えなくなっている。
この階に来てようやくわかったが人間がたくさんいる。
「モンスターを倒しながら人を助けにいこう。たくさん気配がする」
「そんなにいるんですか?」
「覚醒者が守ってるんだと思う。優しい空気を感じるんだよな」
「優しい空気?」
「イメージだよ。言葉にするのが難しいんだ」
「なるほど」
優しい空気を感じる方へ進んでいくとモンスターも集まっていた。
グリズリーナイトだ。
だが中ボスのグリズリーナイトよりも身体が小さかった。
「おい」
「グゥ?」
「こっちこいよ」
「ガルルルルァッ!」
6体ほど倒すと、モンスターの気配を感じなくなった。
「この先に人がいる」
「は、はい!」
「ますます強くなっていないかい?」
「加減をする必要がなくなったからな」
「え、今まで手を抜いていたのかい!?」
「実戦経験は大事だからな」
「あー…そう、だね。たしかに大事だ」
また気を使わせてしまったな。
優しい気配がする方へ進むと中華のお店の中から人の気配がたくさんした。
何故かドアが開かないのでノックをしてみる。
「助けに来たぞー」
ドアの向こうから此方に寄ってくる気配がする。
そしてドアを開いたのは如月さんに見せてもらった写真の女の子だった。
「君は如月 彩葉かな?」
「どうして名前を…。とにかく、中に入ってください。化物達が来ます」
「わかった」
中に通されると老若男女、様々な人達がいた。
すると気さくそうなおじさんが話しかけてきた。
「兄ちゃん、燈黒翔琉じゃないか?もしかして、助けにきてくれたのか?」
「そうだけど…」
「おぉ、やっぱり!みんな!もう大丈夫だ!救世主様が助けに来てくれたぞ!」
おじさんがそう言うと近くにいた人達の顔が明るくなった。
でも、救世主って呼ぶのやめてくれないか?
「はぁ…それで?どうして救世主様が助けにきてくださったのですか?」
「君のお母さんに頼まれたから」
「え、それだけですか?」
「それだけだけど」
「ならお金目当てですか?」
「はぁ?」
なんなんだこの子。
「たしかにお金をくれるって言ってたけどさ」
「いくらですか?」
「知らねーよ。金額の話は俺の母親がしてたからな」
「そんな適当な…」
「まぁ君が生きててくれてよかったよ」
「お金がもらえるからですか?」
「お金お金って…なんなんだお前は?」
そろそろムカついてきた。
なんなんだこのクソガキ。
「お金がほしいからわざわざこのような危険な場所に来たのでしょう?」
こんな奴を助けるために俺はここに来たのか?
俺が来なければ響華もこの場所に入らなかったかもしれない。
こんな奴のせいで…。
「もういい、話にならん。黙れ」
「ひっ…だ、誰に向かってそんなことを言ってるかわかってるの!?」
「お前はここにいる人達を守っておけ。ここのボスは俺が殺してくる」
「聞いてるの!?」
ボスは近い。
さっさと倒しに行こう。
「まぁまぁお嬢ちゃんも救世主様も落ち着いて。ボスを倒してくれるのはありがたいが、まずはご飯を食べてからにしないか?」
「その救世主様って呼ぶのやめてくれないか?」
「じゃあ翔琉くんって呼ぶからね」
「その方がいい」
「後藤さん!この人に食事を出すつもりですか!?もうすぐ材料がなくなるって言ってたでしょう!?」
「腹が減っては戦はできぬって言うだろう?」
40人ぐらいか?毎回その食事を作ってたらそりゃなくなるか。
「腹も減ってないし俺はいらないよ」
「そうか?ならボスを倒したらご馳走するからさ、また店に来てくれよ!」
「楽しみにしてるよ」
「俺も楽しみにしてるぜ!」
店長みたいに優しい人だな。
「俺がボスを倒すまで、あんたはただこの場所を守っておけ」
「言われなくてもそうしますが?」
「あっそ」
このクソガキはぶん殴っても許されるだろうか。
この場所にいたら本当に殴りそうになるのですぐに店から出た。
「俺はボスを殺しに行くけど、どうする?」
「私も行きます!」
「最後まで見届けるよ」
「はぁ…死んでも知らないからな」
「はい!」
「わかってるさ」
最初と比べるとこの2人はかなり変わったな。
7階へ上がると、モンスターが眠っていた。
名前はキメラ。
身体と顔はライオンのようで、背中には翼があり、尻尾は3つに分かれていて、先には蛇の頭のようになっている。
身体のデカさは像並か?
「2人はできるだけ離れてろ」
「「はい」」
2人が離れたのを確認したあとは、いつもの先手必勝、短刀に火と風を纏わせ全力で投げた。
「グギャァァァァァァァッ!」
「元気いっぱいだな」
爆煙を吹き飛ばし現れたキメラの身体は少し焦げていた。
「悪いけど、俺は今機嫌が悪いんだ」
「グルルルルッ」
「すぐに終わらせてやるよ」
「グガアアアアアッ!」
キメラが炎を吐いてきた。
「水よ」
巨大な盾のように水を展開させ受け止める。
「火よ、風よ」
足に風を纏わせ、黒刀には炎を纏わせた。
キメラに向かって突っ込んでいくと尻尾の蛇が毒のようなものを吐いてきたが、顔を水で包んで守り、蛇の頭を斬り落とした。
「ギャオォォォォォォォッ!」
キメラが痛みで叫んでるうちに片方の翼も斬り落とした。
「グォォォォォォッ!」
「水よ」
炎を吐き出してきたのを水で受け止める。
知性のない獣は動きが単純でやりやすいな。
短刀を回収し、火と風を纏わせて投げ爆発させる。
「良いとこに当たったみたいだな?」
「グゥゥ…」
片目が潰れた。
今がチャンスだな。
ゴブリンを倒して集めたボロボロのナイフを大量に取り出し、全てに火と風を纏わせて投げる。
「ギャアアアアアアアアアッ!」
最後に黒刀に纏わせ、全力で投げる。
ドガァァァァァァンッ!
「グギャッ!」
あれを耐えたのか。
片脚を失い、身体の半分が丸見えになっているキメラが大きな口を開けて飛んできた。
「空蝉」
キメラは俺の抜け殻のような分身に噛み付いた。
「これで最後だ」
真上に跳んでいた俺はキメラの顔を殴りつけ、地面に叩きつけた。
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
【レベルアップしました】
【ボスを討伐しました】
【特別報酬:魔獣肉×50を獲得しました】
【特別報酬:黒のネックレスを獲得しました】
【特別報酬:魔獣の卵を入手しました】
【ゲートの主を倒したことにより、入場制限を解除します】
【日本のゲートの主は残り3/5体です】
ボスを倒したあとの通知はすごいな。
魔獣肉はどうでもいい。
まずは黒のネックレスだな。
効果は影を操ることができること。
影を操るか。厨二病全開だな…
もう1つは魔獣の卵か。
手に持ってみる。
けっこうでかいな。
【孵化させますか?】
え?大丈夫なの?
【孵化をさせたモンスターは主の言うことを聞きます】
疑問に思ったら答えてくれた。
じゃあ孵化させる。
おっ、卵にヒビが。
その場に置くとヒビが広がっていった。
見守っていると黒い犬のような生き物がでてきた。
全身は真っ黒だが額に三日月のような模様がある。
モンスター名はシャドウウルフ?
「ワゥン?」
俺のことを見て首を傾げている。
卵から犬?魔獣だしそういうものなのか?
「燈黒さん!やりましたね!」
「燈黒さんが本気をだすと目で追えませんね。流石です。…その子犬は?」
「ボスを倒したときの報酬って言ってわかる?」
「覚醒者関係のものですか」
「そういうこと」
子犬が俺の足に擦り寄ってきた。
「ワンッ!」
「なんだ?」
【名前を決めてください】
「名前?」
「名前がどうしたんですか?」
「名前を決めてほしいみたいなんだよ」
「燈黒さんのことを親だと思っていそうですもんね」
「おやぁ?」
シャドウウルフは俺の足元で大人しくおすわりしている。
尻尾もぶんぶん振っている。
「名前かぁ」
黒い…シャドウ…月…う〜ん。
「じゃあカゲツで」
「ワンッ!」
【シャドウウルフの名前が【カゲツ】になりました】
「気に入ったみたいですね!」
「走り回って元気だな」
勝手にパーティメンバーに追加された。
ステータスも見れるのか。
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名前:カゲツ レベル:1
種族:シャドウウルフ
HP:150 MP:150
筋力:10 防御力:10
速度:15 知能:5
感覚:20 運:7
<スキル>
影 シャドウスピア
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魔獣だからかスキルポイントはなく、ステータスは高い。
スキルには影がある。
今回手に入れたネックレスと同じスキルか。
影はこいつから色々学んでもいいな。
「ワンッ!」
「ただの犬にしか見えないな」
俺が乗れるぐらい大きくなるかな?
背中に乗れるぐらい大きくなってくれたらいいな。
「鶴橋、渡辺さん。先に戻っていてくれないか?」
「え?どうしたんですか?」
「燈黒さん、今回はありがとう。君のおかげで良い経験ができたよ。行こうか鶴橋さん」
「え?ちょっと、渡辺さん!」
渡辺さんは察してくれたらしい。
2人が下の階に行ったのを確認すると、限界がきた。
「くそっ…くそっ、クソがぁぁぁぁぁっ!」
床を何度も殴りつけた。
守れなかった…
「響華…」
最後に「助けて」って言っていた。
あの声が何度も頭の中に響き、響華の胸が触手に貫かれたときのことも何度も思い出してしまう。
ボスを倒すまではなんとか気を紛らわすことができた。
でも、倒してからは響華が殺されたときのことが何度もフラッシュバックしてしまう。
「クゥン…」
カゲツが俺の顔をペロペロ舐め始めた。
「なんだよ…」
「ワン…」
ぐぅぅぅぅ
「…ふふ、ははははっ!お前さぁ、少しは空気読めよ!」
「ワゥン…」
「わかったよ、腹減ったんだよな?これでも食え」
「ワン!」
魔獣肉を出すと美味しそうに食べはじめた。
慰めてくれてるのかと思ったら腹が減ってただけかよ!
でも、笑ったら落ちつけた。
「ありがとな」
「ワン?」
「なんでもないよ。まだ食べるか?」
「ワンッ!」
カゲツが満足するまで魔獣肉を食べさせた。




