2.きらきら光れなくなったお星さま
さて、まず皆さんにお伝えしたいのが、このマルメロという女の子の姿についてです。
年の頃はヘカッテと同じくらいか少しだけ年下というくらいの小さな女の子です。ヘカッテはお父さんやお母さんと一緒に暮らしているときからお洒落な格好が好きな女の子で、今でも外国のお人形さんみたいな恰好をしながら魔女になるための修行をしています。
まさに可愛い女の子って感じの姿をしているのがヘカッテなのです。
では、マルメロはどうかというと、ちょっとばっかりヘカッテとは違った見た目の女の子でした。
どちらかといえば風来坊という言葉が似合うような恰好をしていて、お洒落よりも便利で着心地がいいことを大事に思っているようです。
迷宮を端から端まで歩く格好としては正しいのですが、そういう場面ではなくても、マルメロはそういう格好が好きな女の子だったのです。
それに、怪物たちを恐れずに冒険できる強さが備わっていたからでしょう。恐れなしの態度は、初対面のヘカッテたちを大変驚かせました。
片手で数えられるか、ようやく両手で数えられるかという年齢にしか見えないのに、まるでとても偉いどこかの王さまのような貫禄もありました。
「ここは年の割にスゴイ魔法が使える魔女っ子が暮らしているって聞いたものだから、アタシたち、何週間も歩いてきたの」
出してもらった甘いハチミツのお茶を飲みながら、マルメロは興奮気味に言いました。
「なんたって魔法っていえば、アタシには逆立ちしたって出来ない芸当ですもの。きっとこちらのお星さまだってきらきら光れるに違いないわ」
何故かマルメロの方が自信満々にそう言うものですから、ヘカッテはすっかり緊張してしまいました。
たしかに、魔法が一切使えないマルメロに比べたら、ヘカッテにはできることがいっぱいあるに違いありません。しかし、光れなくなったお星さまの力を取り戻すという魔法はどんな本にも書いてなかったので全く知らなかったのです。
さて、何と言って分かってもらえばいいだろうか。
はるばる歩いてきた小さな子たちを前に、ヘカッテが一生懸命考えていますと、助け舟を出すようにカロンが口を開きました。
「マルメロさんだったね。まず分かって欲しいのは、どんなにスゴイ魔法使いも万能じゃないってことだ。魔法にも魔法なりのルールがあるんだ。それに、失敗や限界だってある。その中で、限りなく人々の願いに近い結果を手繰り寄せるのが魔法なんだ……って、こないだ図書館で読んだ本に書いていたんだけどね」
「だから何だっていうの?」
とげとげしい言葉と共にマルメロが唇をうんと尖らせると、カロンは頭をかきながら困ったような顔で続けました。
「つまりだね……ええと」
と、カロンが言葉につまったところで、ヘカッテはようやく自分の口を開きました。
「まずお聞きしたいことがあるの」
「どうぞ」
マルメロの短いお許しの後で、ヘカッテは軽く咳払いをしてから質問しました。
「こちらのお星さまのことをもっと聞かせて欲しいの。それに、マルメロさんとお星さまの関係についてもよかったら……」
「それって魔法を成功させることと何か関係があるのかしら?」
「──そうだね。うん。関係ある」
強い態度に怯まずにヘカッテが堂々と頷くと、マルメロも納得したのか強く頷いてから答えてくれました。
「では、お話させていだたくわ。お星さまとアタシのことについて」
◇
ヘカッテたちの暮らす天然の迷宮は、とても暗い冥界のようで、外の光が乏しい場所の多い闇の世界ともいえる場所ですが、迷宮で繋がった先の世界はさまざまです。
見晴らしのいい丘に繋がったところでは、星空を楽しむことができます。マルメロのお家があるのもそういう場所でした。
お星さまというものも色々ありまして、私たちが普段楽しむようにお空できらきら輝いているだけの静かな性格のお星さまもあったり、流れ星もあったりするわけですが、今回、マルメロが連れてきたお星さまのように、心を持っていて、あちこちに気ままに動くお星さまもいるのです。
マルメロの暮らしていた場所では、そういった賑やかなお星さまがたくさんいました。
お星さまたちは、いずれもお空を自由に飛んで、きらきらと色とりどりの光を放ちながらお空で歌い、踊り、地上からながめる人達を楽しませてきたのです。
けれど、大変気まぐれですので、地上へとそのまま降りてくるお星さまもいました。流れ星のようにひらりと落ちてくるのです。
そうしたお星さまは、今度は地上で楽しいダンスを披露してくれます。同じく地上で暮らすことにしたお星さまたちと手を繋ぎ、歌い、踊り、近くに暮らす人々と楽しく交流するのです。
マルメロはお家の近くで楽しめるそんな光景が本当に大好きでした。だから、迷宮のあちらこちらを好奇心のままに冒険し、素敵な場所にたどり着いたとしても、絶対にお家に帰る事だけは譲らなかったのです。
けれど、ある日の事です。長い冒険を終え、いつものようにお家に帰ってきたマルメロは、お星さまたちのダンスを楽しんでいる途中で、全く光れなくなったお星さまを見つけました。
一体どうしたのだろう。そう思って、その光らなくなったお星さまを抱き上げてみるなり驚きました。何故なら、そのお星さまはマルメロがもっともっと小さい頃に、ひときわ綺麗に輝いていたお星さまだったからです。
七色の光が自慢で、ついこの間までは誰よりも目立っていました。マルメロにとってのお気に入りのお友達でもありました。
「まあ、アナタ。どうして光れなくなっちゃったの?」
マルメロが質問しても、そのお星さまは悲しそうにしょんぼりするばかり。どうやら、お星さま自身にもよく分からないようでした。
「何か嫌な事でもあったの? それともまさか病気かしら……」
あれこれ考えているうちに、マルメロはどんどん不安になっていきました。しかし、その不安に心が潰されてしまいそうになるより前に、ふと冒険の途中で小耳に挟んだウワサ話を思い出したのです。
迷宮の果てには小さな魔女がいるらしい。黒い猫のぬいぐるみと美しい花と一緒に暮らす女の子で、色んな魔法を使いこなして迷宮の人達を助けてくれるのだとか。
マルメロは光らなくなったお星さまに訊ねました。
「ねえ、アナタ。また光りたい?」
すると、お星さまは悲しそうにうつむきました。
きっとうなずいているのでしょう。
そう思ったマルメロはさっそく冒険のための荷物をまとめました。そして、しょんぼりしてしまったお気に入りのお星さまに言いました。
「では、行きましょう。アナタをまた光らせてくれる人の所へ」
そうして、マルメロとお星さまの迷宮の冒険が始まったのでした。
◇
マルメロはその後も明るく元気よくヘカッテのお家につくまでの大変な冒険の話を誇り高く語ってくれました。
どれだけ大変な道のりで、どれだけ怖い怪物たちがいたのかを、やや大袈裟に語る間、しかしお星さまの方はずっとしょんぼりしていました。
ヘカッテはマルメロのお話にたびたび相槌をうちながらも、たびたびお星さまの様子をそっと見つめました。
マルメロのお話では、お星さまもかつては七色に光ることができたとのことですが、今はまるで燃え尽きてしまった花火のように灰色です。
そのことが少し恥ずかしいのでしょうか。時々、ぎゅっと星形の体を縮め、まるで顔を手で覆うような仕草をしていました。
お星さまはしゃべりません。けれど、マルメロがどうにかしてあげたいと思った通り、ヘカッテにも確かにお星さまが光れなくて困っているように見えました。
それに、忘れてはいません。
ヘカッテの頭の中には両親からのお手紙のこともありました。
──きっと、あのお手紙にあったお星さまってこの子の事ね。
「さあ、これでお話は終わりよ。さっそく魔法を使ってちょうだい」
マルメロは強い口調でそう言いました。断るなんて許さないような剣幕に、ヘカッテとカロンはすっかり怯んでしまいました。
しかし、メンテだけはどうやら冷静だったようです。ポロロン、と、綺麗な竪琴の音をならしてヘカッテに声をかけました。
「メンテは何と言ったんだい?」
こっそりカロンが話しかけると、ヘカッテは答えました。
「お星さまのお医者さんなら『冥界の丘』にいるよ……だって」
その言葉を聞くなり、カロンもまた思い出したように尻尾を揺らしました。
「ああ、その話なら聞いたことがあるね。たしか、図書館の案内にもあった」
「そこへ行けば、マルメロさんのお友達がもう一度光るきっかけが見つかるかな?」
「おそらくね」
カロンとヘカッテの会話を聞きながら、マルメロは首を傾げました。
しかし、はっと我に返ると、うんと身を乗り出して二人に言いました。
「魔法が無理なら、その人のいるところを詳しく教えて!」




