第31話 真島の婚活大作戦③
「あ。電話だ。電池ないのにこの野郎。聡子ちゃん、ちょっと出てくるね」
「はーい。お電話誰からですか?」
「②」
「②??」
レンは電話で②と話し、すぐに走り出した。
あら、レンさん行っちゃった。もうすぐバスケ男子の決勝試合、大和君の出番なのに。
聡子がそんなことを考えている横で、安田はいつになく真剣な顔でアップを始めている。そこに走ってきた大和も合流した。
電話で弟子②に言われた通り、レンは体育倉庫にやってきた。戸は開いていて、中に教師が一人。何かを探している。
レンがあのー、と声をかけると、その教師は振り返って目を見開いた。
「さふぁりぃ……」
「……あの、よかったら一緒に探しますよ。何を探してるんですか?」
「あ、あぁ。すみません、得点板を探していて……」
「もしかして!さっきバレーの試合ではしゃぎすぎて、得点板に突っ込んで壊しちゃった先生ですか?」
「あ……そうです、自分です。恥ずかしながら」
「やっぱり!」
レンはその光景を思い出し楽しそうに笑って、倉庫内に入り、ぐるりと中を眺め始めた。真島は横目でチラチラとレンを見る。
さふぁりぃ……
さふぁりだ。
「手伝います!得点板探し。どこら辺にあるんでしょうね」
「自分もわからなくて……。すみません、助かります」
突如現れたサファリルックな妙齢の女に、真島は密かに胸を躍らせていた。
さっき見かけたピチピチニットのセクシーねーちゃんとは真逆な雰囲気ではあるが……
この探検家ルックの下にはナイスバディが隠されている!気がする。
あと顔もいい!派手な可愛さはないが、愛嬌のある綺麗で可愛らしい顔!な気がする。
サファリだけど。なぜサファリ?
でも可愛ければよし!
真島がそんな不埒な目でレンを見ていると、突然、倉庫の戸が勢いよく閉じられた。そして間髪あけず、ガチャガチャと鍵を掛けられた音がした。
真島とレンはしばしフリーズし、それから首を動かして、互いに顔を見合わせた。
「閉じ込められました?」
「閉じ込められました。……おーい!誰だ鍵かけたやつ!開けろー!おーい!誰かいるかー!……」
「先生、携帯電話あります?」
「自分、職員室に置いてきてしまって」
「私の携帯は……そうだ、爽やか青春組の動画を撮りまくったせいで電池が死んでました。でもしばらく待っていれば……だれか探しに来ますよね。少し待ちましょうか」
「すみません、面倒なことに巻き込んでしまって……」
「気にしないでください!バスケの決勝に間に合えばいいんですが…………ん?あ!ありましたよ得点板!これじゃないですか?」
「ほんとだ!これですこれです!ありがとうございます!よかった、あとはここを出られれば……」
「ですねぇ。……でもここ、締め切ってるからか暑いですね。ずっといたら熱中症になっちゃいそう。エアコンなんてないですよね?」
「ないので、もしよければそこにある冷たい飲み物、飲んでください。自分、半分くらい飲んだんですけど、口はつけないで、こう、口から浮かせて飲んだので!そうやって飲んじゃう癖があって」
必死に説明する真島が可愛らしく見えて、レンは笑う。それじゃあお言葉に甘えて、私も口を浮かせて飲みます。
そういってレンは重ねられたマットの上にぺたんと座り、汗ばんだ体に冷たい水分を補給し始めた。
真島もその側に座り、休憩をとる。なぜだか、その呼吸は早い。
喉を潤すレン。目を瞑り、ゴク、ゴク、ゴク、とそれを気持ちよさそうに飲みこむレンの首元は汗で濡れ、ポニーテールの後れ毛が張り付いている。その姿に、真島はいつのまにか見とれていた。
「はぁ。冷たくて美味しかったです!ごちそうさまです」
「とんでもない!……あの、もしよろしければ、お名前うかがってもいいですか」
「神野レン、25歳です」
「真島裕也!29歳です!今日は誰かを応援しにいらしたんですか?」
「2年A組を応援しにきたんです。橘大和くんの勇姿を見たくって」
「橘……彼、かっこいいですもんね。お知り合いですか?」
「いえ、師匠です」
「師匠」
真島は、なるほど?という顔をして首を縦にふる。
「俺、あ、自分、体育教師なんですが、2年A組の担任もやっていまして。橘のことはよく知っています」
「そうでしたか!大和くん、最近学校ではどんな感じですか?」
「橘は……夏休み前は不登校気味でしたが、最近は毎日学校に来ていて。この前はテストで素晴らしい点数を叩き出したりしたもんで、生徒も教師もみんな驚いています。今日の球技祭もえらく燃えていて、率先して練習に参加していました」
「そうなんですね。ほんとに頑張ってるんですね」
「彼にとっていいきっかけがあったんでしょうか。師匠は何かご存知ですか?」
「どうでしょう。でも大和くんは最初から、優しくてカッコいい男の子でしたよ。…………ん?」
ふとレンが、顔をしかめる。それから先ほど飲んだペットボトルを手に取って、まじまじと見つめた。
「師匠、どうかしました?」
「……真島先生、これ、この飲み物、どうしました?誰かにもらいました?」
「これですか? 実はさっき、生徒のものを間違って飲んでしまって。それをそのままもらったんです」
「もしかして、それって青木さん?青木美玖さんですか?」
「そうですけど、青木ともお知り合いですか?」
「いえ、師匠です」
「師匠」
「……と、思っていたのですが、そう思っていたのは私だけだったのかな……」
古畑任三郎のようなポーズをとり顔をしかめるレンを、真島は心配そうにのぞき込む。
「師匠、大丈夫ですか?」
「先生は大丈夫ですか?!」
「え?俺は……」
突如レンは勢いよく体を起こし、マットの上に膝を立て、真島にグッと近寄った。その距離感と眼差しに、真島の鼓動が早まった。
「師匠?」
「真島先生!」
「はい!」
「失礼します!」
「え?!」
その勢いとは裏腹に、レンは両手で真島の頬を、優しく柔く、包み込んだ。そして手をゆっくりと滑らせ、真島の唇に、両親指で優しく触れた。
「あ、あの……んッ」
ジ……っとレンに見つめられ、フニフニと唇を刺激され、真島は体が熱くなるのを感じていた。
そして、衝動。唇に触れるその指に、噛みつきたくなるような衝動が、フツフツと腹の底に湧き上がってきた。
真島はそれをぐっと抑え込み、心なしかトロンとした顔をする目の前の女を、熱っぽく見つめた。
「レン、さん……」
「先生、落ち着いて聞いてください」
「なんでしょう……?」
「私たち、媚薬を飲んでしまいました……」
「びやく……」
うっとりと、どこか夢見心地でその単語を口にする真島。そして自分の頬に触れるレンの手に、しっとりと自身の手を重ねた。
びやく……
「媚薬って実在するんですか??」




