第九話 処遇
やっと朝食だ。
今朝はいろいろな事があり過ぎた……。
ライン隊から謝罪をされて、フウカとライカと子供たちが元奴隷だったことを聞かされて、キルケーの髪のことで二人の“地雷”を踏んでしまって……。
いろいろな事を知れたのは良かったんだけど、もうすでに疲れた気分だ。
「「いただきます」」
昨日と同じように、みんなで『いただきます』をして朝食を食べ始める。
オレがキルケーに教えた事だけど、こうしてみんなで『いただきます』をするのは何だかとても良い気分だ。
「マサヤ、ドラゴン討伐式典のことは覚えているのか?」
朝食を摂りながらソロモンが式典のことについて聞いてきた。
ソロモンは気を遣ってくれているのだろうか。よく話しかけてくれるし色々な話題を振ってくれるから、よそ者のオレでも自然と会話の輪の中に入ることができる。
「いえ。飛び飛びの記憶ですね。覚えているところもあれば、記憶があやふやなところもあります」
実際のところ、ソロモンがキルケーの事を王女認定したあたりからは記憶がハッキリしているんだが、それ以前のことはぼんやりとしか記憶できていない……。
「あの、一つ確認して良いですか?」
「ん? なんだ?」
あの式典のことで、オレは一つだけどうしても確認しておきたいことがあった。
「勇者リゲルたち三人を国外追放したことなんですけど、処刑にしなくて本当に良かったのかなって思いまして……」
あの時、リゲルたちに処刑だけはさせたくないという個人的な望みを伝えてしまったことに、少しだけ罪悪感を持っていた。
国のことを考えるのなら、あの場で処刑しておくことが正解だったはずだ。
そのことをハッキリと確認しておきたかった。
「あれで良い。ワシも処刑させるつもりは無かった。拷問を受けた直後のマサヤなら処刑は望まないと言うだろうと睨んだ上での確認だった」
「えぇ? はじめから追放するつもりだったのですか?」
「そうじゃよ。それに、マサヤがダメだったとしてもキルケーが処刑を拒否していただろう」
「そうなんですか……」
もともと処刑をするつもりじゃ無かったと言うことなのか?
どう言うことだろう……。
「国の安全を考えるのなら、処刑することが一番じゃないのですか? 彼らが生きていれば復讐されることもあるのでは……?」
「まあ、その時はその時だ。どちらにしても、処刑は一番幸せな処分なんだよ。あっさり死ぬのは罪の償いにはならない。生きて苦しんでこそ罪を償わせることができる。そのことはここにいる全員が理解していることだ。拷問中は早く死にたいと思っただろ?」
「ええ、確かに。今すぐにでも殺してくれと思ってました……」
全てお見通しだったと言うことか。
拷問される者の気持ちも理解したうえでの事だったとは。
「ただの犯罪者ならあのまま処刑をしても良かったのだが、何せ奴らはキルケーを殺そうとした張本人じゃ。それに城内へ侵入して何かを企んでおった訳だし。思う存分に苦しみを味あわせてやらないとダメだろう?」
ソロモンが少し悪い顔をして語りかけてくる……。
「ええ、まぁそうですけど……」
結構、個人的な感情も加味されているのだと思った。
自分の娘を殺そうとした犯人なのだから、じわじわと痛ぶってやりたい気持ちは分からないでもない。
「本来なら拷問の刑に処すのだがな。まあ群衆の前だったから国外追放にしただけだ。国民は”処刑”か”追放”かという分かりやすい結論を求めている。あの場で”拷問の刑に処す”と言っても群衆たちはピンとこなかったはずだ」
「そんなものなんですね……」
ソロモンはあっけらかんとした話し方をするので『実は何も考えていないのでは?』なんて思うこともあるが、やっぱり色々と考えたうえで行動しているのだ。
当たり前だけど……。
「ちなにみ、拷問を受けた気分はどうだった?」
「え? 拷問ですか……?」
こうやって普通なら聞きにくいこともズバッと聞いてくるのがこの家族たちの特徴だなと思った。
そもそもオレに拷問の刑を言い渡したのはソロモンのはずだ。
本来なら負い目を感じていても良いのだけれど……。
「まあ、何というか……。まさに地獄でしたね。時間の感覚は分からなくなるし、痛さで気絶して痛さで目が覚めて……。最後の方は全ての感覚がおかしくなってあまり覚えていません……」
思い出すだけでも気が狂いそうなくらいトラウマ級の出来事だ。
何十回、何百回も死にたいと思った。殺してくれと思った。
二度と味わいたくない地獄のような時間……。
「そうか。でも、あれくらいの拷問は笑って乗り越えられるようにならないとダメだな。マサヤが受けた拷問はごくごく軽い内容だったのだからな」
「ヘぇっ?」
軽い内容? 笑って乗り越えろ? そんなこと出来るわけ無いじゃないか……。
「投獄初日はキルケーを殺した犯罪者として扱っておったが、キルケーが戻ってきたことが分かってから本格的な拷問は保留にしておったのだ」
「へ……。そうなんですか……?」
でも、それだとなんか変だ。
キルケーが戻ってきたことが分かっているのなら、オレは釈放されていないとおかしいはずだ。
キルケーが戻ってきてまで犯人扱いされるはずがない……。
でも、拷問は続いていたよな……。
「キルケーが目覚めるまでは真実が分からなかったからな。勇者たちが他国の間者だったとしても目的を探るために泳がせておく必要もあった。まぁ、あの拷問は訓練みたいなものだよ。言ったろ? あれくらいは笑って乗り越えなければダメだ! はっはっはっ」
(な、何がそんなに可笑しいんだ???)
横を向けばキルケーもニコニコ笑顔だ。
笑い事ではないのに……。
でも、言われてみれば確かにドラゴン戦のキルケーは異常だったとも言える。
あれだけの傷を負いながら意識はあったわけだし、オレへのサポートもしてくれていた。
ドラゴン戦であれだけの怪我を負いながらオレも戦えたかと言えば、おそらくは無理だろう。
「本気で拷問をするのなら、回復魔法と拷問を延々と繰り返すからな。そう考えればマサヤが受けた拷問なんか軽い内容だったとは思わんか?」
「あぁ、やっぱり……」
回復魔法と拷問の繰り返し……。
考えただけでも気が狂いそうだ。
いや、あの時、処刑台でキルケーから回復魔法を受けた時は本当に気が狂っていたような気もする。
まさに想像することすらで出来ない、延々と続く地獄の時間だ。
「結局、彼らの真の目的は分からずじまいだったわけだが……。おそらくはゴドルフィン王国の間者だったのだろう。我が国に敵対する国と言えばあの国しか無いからな」
「はぁぁぁ、全然見抜けなかったわ……」
横で話を聞いていたキルケーが溜息混じりにつぶやいた。
一ヶ月近くリゲルたちと一緒に行動をしていたわけだから、見抜けなかった事を悔やんでいるのだろう。
それだけ奴らは侮れない存在だったという事だろうか。
「まあ良い。見抜けなかったのはワシもパーソロンも同じだ。結果的には二人とも生きているわけだし、彼らの企みも阻止できた。そのことに感謝するべきだ」
この前向きな考え方はキルケーそっくりだ。
あまり過去のことをクヨクヨ考えない。
「ゴドルフィン王国というのは隣国ですか?」
「あー、ちょっと離れておる。山脈を超えた向こう側に位置する北方の小さな国だ。我が国とは国交もない。好戦的な民族でどの国とも国交は結んでいないな」
(山脈? 山脈なんてあったかな?)
そういえば、オレはこの世界のことをまだ何も知らない。
初めて聞く他国の名前。
この世界の地理はどうなっているのだろうか。
大陸の地図でも見てみたいな。
いや……、そんなことを考えるのはまだ早いようにも思う。
この国、この王城のこともろくに知らないのだから……。
このまま王城でスローライフを満喫できるのなら良いのだけど、どうやらそんな平和な世界では無さそうだ。




