第八話 気分転換
「キルケーは王女様らしくドレスとかは着ないの?」
四人で朝食の配膳をしながら素朴な質問をしてしまった。
フウカとライカはメイド服を着ていることが多いのだが、それは何となく頷ける。
ただ、キルケーの服装は謎なのだ。
昨日も今日も、上下共に白を基調にしたスリムで動きやすそうな服を着ていて、それはそれで好感が持てるのだけど王女様っぽくは無いのだ。
詰襟で首周りはキュッと締まって見えるけど、肩周りやウエスト周りはゆとりがあって動きやすそうだ。
腰や太もも周りも少しゆったりしているが、足元に向かって細くなっているので全体的にはスリムに見える。
腕と足には金・銀・ブルーの三本のラインが描かれており、デザイン的にも体全体のシルエットを細長く見せる効果が窺える。
動きやすさ重視の服装なのは何となく分かるのだが、王女様の衣装ってもっと煌びやかなイメージだったのに……。
王女様が着る衣装って、ウエストはキュッと締め付けられて、床を擦るくらいの長い丈のドレスじゃ無いのだろうか?
「ドレスなんて滅多に着ないよ。これは訓練用の服なの。軽くて動きやすいから普段着としても愛用してるのよ」
少し手を広げながら動きやすさを表現してくれた。
「あぁ、なるほどね。オレの服も体を動かす用なんだ。軽くて動きやすいって最高だよね」
なんてことは無かった。オレがジャージをこよなく愛用しているのと同じだ。
軽くて動きやすい。これ以上の服があるだろうか……。
「キルケーのドレス姿も見てみたい気持ちはあるけど……。バッサリ切った短い髪に今の服装はよく似合ってるね」
「「!?」」
「そう? ありがとう!」
キルケーは嬉しそうに笑顔で答えてくれた。
思えば、キルケーがバッサリ髪を切った理由ついて聞いていなかったから、短くなった髪の話をさりげなく振ってみたのだが……。
フウカとライカから刺すような視線が飛んできていることに、オレは気付かず見落としていた。
「キルケー、なんで髪を切ったの? ドラゴン戦であちこち焦げてたから?
それとも、単なる気分転換で……とか?」
どちらかと言えば、オレはショートカットの女性が好きだ。
キルケーがバッサリ髪を切ってくれたことで、好感度はマックスになっていると言ってもいい。
それに、今の淡く輝く露草色の髪と短いヘアースタイルはとても良く似合ってると思った。
「マサヤ! 女性が長年大切に育ててきた髪をバッサリ切るということがどういうことか分かっていないようですね」
ライカが突っかかるような口調でオレたちの会話に割って入ってきた。
「マサヤ! 気分転換くらいの理由で女性が長年大切に育ててきた髪をバッサリ切ったりはしないのです」
続けてフウカも棘があるような言い方で切り込んできた。
「えぇ? オレ、何か悪いこと言っちゃいました……?」
二人の様子がおかしいことに気づいたオレは、二人のご機嫌を損なわないように慎重に聞き返した。
「女性が長年大切に育ててきた髪をバッサリ切るということは、自分の身を切り刻むことに等しいのです!」
(えぇ、そんなに大袈裟なことか?)
ライカの思わぬ言葉に声が出ない……。
「キルケー様が断腸の思いで長年大切に育ててきた髪をバッサリ切ったというのに、マサヤは呑気過ぎますね!」
フウカも強烈な言葉を返してくる。
オレ、そんなにヤバい発言をしただろうか……。
「そ、そんなに……?」
思わずキルケーの方を向いて、バッサリ切った本人の反応を確かめた。
だが、キルケーはそんなオレの気持ちには答えてくれず、いつものようにニコニコ話を聞いているだけだった。
(『長年大切に育ててきた髪』ってことに拘り過ぎてないか……?)
『ガチャッ』
「「おはよう」」
「「おはようございます」」
オレとの話を中断してフウカとライカが一礼をした。
ドアからはソロモンを先頭にしてみんながゾロゾロと入ってきた。
「女性が長年大切に育ててきた髪をバッサリ切るということは、男性に例えるとチ◯コをちょん切ることと同じです!」
「そうです。キルケー様が長くて美しい髪をバッサリ切ったことは、マサヤのチン○をちょん切ることよりも大きな事件なのです!」
「ふぁっ? ちょ、お前ら何言ってんの……?」
思いもよらぬ言葉にオレはちょっと裏返った声を出してしまった。
この二人はいきなり何を言い出しているのだろうか?
しかも結構本気で言ってるところが怖い。
「マサヤは気分転換をする時、チ◯コをちょん切るのですか?」
ライカが二本の指をハサミのように動かしながらオレに迫ってくる。
「さぁ、マサヤ! 気分転換にチン○をちょん切りなさい!」
フウカも同じ動きをしながらオレに迫ってくる。
「ちょっと待て、ちょっと待て! どういう事なんだよっ!」
二人の真剣な眼差しに気圧されて、オレは後退りしてしまった。
「キ、キルケー……」
情けないけど、オレはキルケーに助けを求めてしまった。
「ちょっと大袈裟だけど、ふふふっ、でもだいたい合っているわ」
「え!? ちょっとっ! 合ってるの!?」
キルケーはとても楽しそうに笑っていた。
いつも笑顔を絶やさないキルケーは好きだけど、こんな時でも嬉しそうに笑ってるのは勘弁してほしいと思った。
「どうしたマサヤ。とうとうチ◯コをちょん切るのか?」
ソロモンも楽しそうに話に入ってきた。
「あらぁ、若いのに大変ねぇ」
アンジェリーナも楽しそうに会話に加わってくる。
何ていうか、この家族は本当に“悪ノリ”が好きだ……。
「えっ、違いますよ! っていうか誰か助けてくださいっ」
パーソロンとカディスとヘロドの三人は『残念』と言わんばかりに首を横に振っている。
オレは単純にキルケーの髪を褒めたかっただけなのに、思わぬ方向に話が脱線してしまっている……。
「フウカとライカはね、子供の頃から私の長い髪が大好きだったの。私がバッサリ切っちゃったから、ずっと不満をぶつけることが出来ないでいたのよ」
「え、何それ? トバッチリじゃんか!」
『気分転換』などと安易な言葉を言い放ったために、オレは二人の“地雷”を踏んでしまったようだ……。
「まあ、それなりの覚悟を持って髪を切ったのは事実だけどね」
キルケーは全く動じることなく、ニコニコしながらオレを座席へと誘導した。
無表情のままでハサミのジェスチャーをしながら、フウカとライカもオレの隣の席へ着く。
「もう、オレが悪かったから! その”ハサミ”はしまってくれ!」
ついさっき二人の心の傷について話を聞いたところなのに、今のフウカとライカには心の傷を負っているような悲壮感は窺えない。
そう見せないように彼女たちが演じているのかもしれないが、本当のところどう考えているのかを窺い知ることは出来そうにない。
どちらにしても、これからのオレはこの二人とどう付き合っていけば良いのかを考えなければいけない。
このギャップを前に大いに悩まされそうだなと思った……。
本エピソードのバックストーリーもお楽しみください。
BS2冒険から始まる『異世界”友情”物語』
第七話『嫉妬?』




