プレイ時間:35.5時間〜
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昼間は忙しくてログインする余裕がなかった。
文房具なんかを買い揃えていて、あとは母さんと秋穂がスイーツを食べに行くというので、それにくっついて行った。
スイーツと言ってもちょっとしたパフェみたいなもので、店だって新しいところではなく、ただの喫茶店だ。
それをスイーツなどと表現するのは、都会に憧れる田舎の人間の特徴かもしれない。
そんなわけで、21時過ぎに約束していた場所、中央広場にたどり着くと、ベンチにすでにデギオンが腰掛けていた。服装が青地に金色で特徴的な刺繍がある服なので、すぐわかる。
今は何も武装していないので、ちょっと派手なNPC、と見えなくもないけど。
ただ髪型や顔の作りをしっかり見れば、プレイヤーが作った個性的なアバターなのは歴然だ。
「おう、坊や、アカリアはまだだぞ」
「お待たせして、すみません」
「気にするな」
僕は彼の横に腰かける。そうか、武装は必要ないのか。
コントローラーで武装状態の騎兵槍と戦士の盾と鉄鎧を携行の欄に移した。
これで僕とデギオンは似た服を着たアバター二人になって、どういう関係に見えるかといえば、現実だったら年の離れた兄弟、という感じだと思う。
「なんだ、荷物を減らしてきたのか?」
デギオンがこちらを見てそういうので、テキストを素早く入力した。
「携行に移動させました」
「いや、それは見ればわかる。しかし、槍と盾と鎧を全部放り込んだのか?」
うーん、どう答えればいいだろう。
「余裕があったので」
そう答えると、ふーん、と言いながら、デギオンはまだこちらを見ている。アバターの視線なので何の意識も乗らないはずが、不思議とその映像には興味を持っている心理が如実だ。
「そういえば」
デギオンが視線を外しながら、声だけは続ける。
「回復するとき、大量の緑草を食ったよな。いくつ、持っていた?」
「忘れましたけど」
「今はいくつ持っている?」
僕はアイテム欄を表示させる。緑草はだいぶ減ったけど、それでも十分にある。
「今はちょうど40ですね」
「は?」
急にデギオンがこちらに向き直る。現実世界でこちらを振り返ったのが、HMDの機能で反映されたのだ。
「なんだって? 40? 40個、持っているのか?」
何かおかしなことを言っただろうか。
そう、もしかして、僕の身に起きているバグのことか。
携行の分母は今も表示されていない。
つまり……。
「緑草でも持ち歩けるのはせいぜい30だぞ、坊や。俺をからかっているのか?」
どうも僕は、墓穴を掘ったらしい。
今、デギオンに本当のことを言わないと、きっと関係が終わってしまう。
それだけは絶対に嫌だった。
僕は心を決めて、テキストを入力した。
(続く)




