表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
若君は吸血鬼  作者: 関川二尋
第二章 内羽一族の秘密
14/130

さつき、血を吸われる

 なんで、若君が照れているのだろう?

 今のやり取りのどこに照れる要素があったのだろう?


   †


「つまり、その。おぬしが言っておるのは、じゃな……人目につかんところを噛んで欲しいと、そういうことなのだな?」

「え? ええ。まぁ、その方がいいかな、と」


「今のおなごは……だ、大胆なのだな」

 まだ床を見つめたまま、若君のほうが恥ずかしそうに告げた。


「は?」


 なにか勘違いしてるのかな?

 いや、勘違いしてる気がする。


「いや、ワシはべつにかまわんのだが。その、キモノを脱ぐあいだ、ワシは目を閉じたほうがよいのか?」


 若君にそう言われて、あたしは自分が何を言ったのか、若君がそれをどう受け取ったかに気がついた。


   †


「ち、ち、ち、ちがいますっ!」

 思わず声が震えてしまった。恥ずかしさのせいだった。

「……そーいう意味じゃありませんっ!」


 もうダメ。もう無理。もう限界。


 そしてあたしに得体の知れない勇気がわいた。


 なんかもう、全部がめんどくさくなってしまった。

 なんかもう、全部がどうでもいい気分になってしまった。

 そしてこの瞬間、あたしの心の切り替えが完了した。


 パチッ。こうなると女の子は強い。


()()()()()

 あたしは大胆にもまっすぐ若君の目を覗き込んだ。


()()()()()()()()()()

 そのまま冷たい口調でそう告げた。


   †


「たとえば手首です。そこならリストバンドとかで隠せますからね。それか、肩です。肩なら袖で隠せますから」

 若君は考え込むように天井を見上げた。

「うむ。その『りすとばんど』とやらが、なにかはよくわからんが……まぁ仕方ないかの」


 勝った! ちょっとだけ優越感。


「……それならば、そうだな、肩がよいかの?」


「わかりました。肩ですね」

 それであたしは着物の袖をぐいとまくった。そのまま丸めていって、肩まで引っ張りあげる。

 ずいぶんと細っこいあたしの腕。なんだか注射でも打つような気分だった。


   †


「では、どうぞ」

 今度はあたしからそう言った。


「うむ。すまんな」


 若君はあたしに向かって体を傾け、畳に右手をついた。それからゆっくりと顔をあたしに近づけてきた。前髪が落ちて、その顔はほとんど隠れている。さらに若君の左手が、あたしの肘をそっとつかんだ。


 血を吸われる覚悟はできていたけど、実はあたしは注射が苦手だった。だからその瞬間、あたしは顔をそむけた。

 若君の顔がさらに近づいてくる気配がして、それから冷たい吐息が肌にかかり、柔らかく唇が触れた。


 あたしはなんだか妙な気持ちになって、ギュッと目を閉じた。


   †


 そういえばヴァンパイアにかまれると、仲間にされたり、ゾンビみたいなのにされたりするんだよなぁ。そんなことを思いだした。


 小説や映画、コミックならたいてい犠牲者はそうなる。現実の場合はどうなるんだろう? 若君は大丈夫だって言ってたけど、本当に大丈夫かな? もしちがってたら、やっぱり吸血鬼になるのかな? それともゾンビになるのかな? どっちかっていうと、吸血鬼になるほうがいいけど。


   †


 そして肩のあたりに柔らかな痛みが走った。

 二本の牙が当たる、かすかな痛み。

 それからプツッと皮膚が破られる感覚。


 それはなんというか、甘い痛みだった。


 そして血が吸われていく感覚。ストローみたいなもので血液がどんどんと抜かれていく感覚。

 怖くて見られないけど、どんどんと吸われていく。一リットルのペットボトルの水をがぶ飲みしているみたいに、どんどん吸われていく。


 あれれ。どうやら貧血になってきたみたいだ。急に頭がしびれてきた。目を閉じているのに、視界がさらに黒くぬりつぶされていく。手足もしびれて力がぬけていく。


 あたしどうなっちゃうのかな?


 視界がさらに暗くなって、ふっと思考がとんだ。


   †


 そしてあたしは気を失った……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ