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明るくなった森の道 2

集落から出た私達はまず地図を広げて、道のりを確認する。


「こっから、ヴァーレデルド領のコレット村に向かうのね。」


「うん。」


ノインに聞きながら、地図に指を滑らせる。街道が敷かれているのでそこに指を当てている。


「この道を進めば、いつ頃つきそう?」


「明日の昼。」


「なら、今日は野宿だね。」


そう話して地図を腕輪にしまうと、横で聞いていたツェルクがおっ、と声をあげる。


「さっき話したテントならぬ一軒家だな!」


「あ、でもノイン。ツェルク兄さんはあの家のどこで寝てもらうの?」


「屋根裏。」


とノインが言った瞬間、ツェルクがぱあっと目が輝いて笑顔になった。


「いいのか!?屋根裏なんて良い部屋借りて良いのか!?」


────あ、そういうの好きなんだ。たまにいるよね、屋根裏好き。


「ツェルク兄さんが好きで良かったよ。ベッドとかはあるの?」


「布団しかない。」


「布団なのか!そっちのが助かる!」


さらにキラキラした目のツェルク。


────なんだろ、この申し訳ないということが本人にめちゃくちゃ喜ばれるという言い表せない複雑な気持ち。


「ツェルク兄さん、狭いとこ好き?」


「好きだな!」


嬉しそうに今日の野宿を楽しみにしているツェルク。私はそれ以上何も言えなくなった。


「アネモネ。」


ノインが腰の剣を構え、私を短く呼ぶ。私とツェルクはすぐに警戒体制になり、マルスも杖を構える。


見晴らしのよくなった森の木々の隙間から、ブラックトレントがワサワサとこちらに向かってきた。


「まだいたの?」


私は長剣を鞘から引き抜くが、それよりも先にライガがブラックトレントに向かって飛びかかる。


「ライガ!」


呼んだ瞬間に、ライガの身体が光りだした。


「があぁぁっ!」


虎のような咆哮にビックリしてる間に、光が大きく伸び収まると、まるで別の生き物のように変化していた。

その勢いのままライガは、ブラックトレントの根を前足で叩き潰した。

その隙にノインが鋭い一撃で、幹と根を細切れにした。


「はっ、ぼーっと見てる場合じゃなかった。」


私は我に返り、慌てて戦況を確認する。

前から来たのは三匹、すでにノインとライガがコンビネーションを決めて倒していた。

ただ、気配はこちらに近づいてる。私は一番近くに迫るブラックトレントの方を向き、長剣を構える。


マルスとツェルクは魔法士だから、ノインとライガが正面をおさえているなら、私が二人を守るように戦う中衛の立ち位置になる。


バッと左側から現れたブラックトレントに、私は根を狙って切りつける。

良い位置に飛びかかるように来たため、たった一閃で幹と根を分断した。

大木が倒れる音を響かせたのを聞いて、私は次の気配の方へ向き直る。


「らぁっ!」


ツェルクの威勢の良い声で、手の平から光の鎖を出してブラックトレントを拘束する。

マルスが杖を向け、そのブラックトレントの根に複数の光の矢を放って一匹仕留めた。


その一匹で最後だったらしく、ブラックトレントの気配を感じなくなったので、私はノインをチラ見してから長剣を鞘にしまった。


「ふぅ、もう来ないか?」


ツェルクの言葉にノインが頷くと、私は大丈夫みたいと答えた。


「なかなか良い連携だったな。」


とツェルクがマルスに感想を述べているのも気にせず、私は真っ先にライガの元に駆け寄った。


「ライガ!」


「お、アネモネ!見てくれよ。俺、進化したみたいだぜ!」


喉をならしながら、ライガが私に顔を擦り付ける。その顔は私の頭よりも大きく、豹のようなしなやかな体躯に映える白銀の毛並みは、きらびやかに光っている。足は私の足並に長くてスラッとしているが、ついている筋肉や足先はバランスがいい。

身に付けていたイヤーカフやマフラーは成長と共にサイズが合うように、大きくなっていることに気づく。


さすがノインが作った魔法道具、成長もコミコミでしたか。


あちこち見ながら撫でる私が気になったのは、私達だけじゃなかった。


「今、ライガが喋ったぞ。」


ツェルクがこちらに近づいきて、そんなことを言った。


「え?」


「ん?ツェルクの旦那、俺の言ってることがわかるのか?」


「おお!ちゃんとわかるぞ。」


私とライガが顔を見合わせた後、嬉しくなってライガの顔を抱き締める。


「良かったね!これで皆と話せるね!」


「おぅ!」


スリスリとライガが顔を押し付けて嬉しさをアピールしている。

ノインも小さな笑みを見せ、ライガの身体を撫でている。


「でも、なんで急に進化したの?」


隣でライガを撫でるノインに私が話しかける。


「急じゃないよ。」


「そうなの?」


「下地は出来てた。あとは経験と意志。」


ノインの言葉にビックリしながらも、甘えるライガをなで続ける。


「ん?もしかして、昨日のブラックトレント掃討が効いてる?」


「うん。」


そりゃそうか、かなり大量のブラックトレントが押し寄せたもんね。

最初は数えてたけど、20越えた辺りで2倍も3倍も増え出してきたので数えてなかったなぁ。


「そっか。ちなみに種族名は?」


「シルバーパンサー。」


「シルバーパンサーだと!?」


その名前に反応したのはマルスだ。慌てて荷物から本やらメモを取り出して調べ始める。


「フォレストキャットが進化するのもあり得ないが、それがシルバーパンサーになるのも信じられないことだぞ!?」


「そ、そうなの?」


「あぁ。しかも、シルバーパンサーは目撃例も少ない幻の魔物だ。生態があまり知られていない上に、従魔になったという例すら聞いたことがない。」


そこまで力説したあと、マルスはやや目をキラキラさせた。

あ、未知の発見にワクテカが止まらない様子。


「ライガ!アネモネ!すまん、抜けたもので良い!毛か爪を分けてくれ!」


「言うと思った。」


私がライガを撫でながらどうするか聞くと、しばしの沈黙の後にライガは答えた。


「いいぜ、マルスの旦那。」


「ありがたい!」


「ただ、無理やり取っていくなよ?アネモネの許可取れよ?」


わかった、と嬉しそうに笑うマルスに、ライガは色々注文をつけている。

ライガがアメを要求すれば、マルスが鞄から慌ててお菓子を出している。


なんか、面白くてクスッと笑ってしまった。


「ライガ、ほどほどにしてね?」


「ははっ、わかってらぁ。それに進化したてだから俺もまだわからないことがあるしな。シルバーパンサーのことを調べてもらえるなら、いいことだろ?」


ライガの言葉に私は手をポンとうって納得した。


「でも、このままだとアネモネは乗せられても、アネモネの肩に乗れねぇな。」


と愚痴るライガに、身体を撫でていたノインがポツッと呟いた。


「小さくなりたい?」


「ん?あぁ、時々な。」


「─────明日までに用意しとく。」


さすかみっ!ジョ◯ンニ並に早いね!


そんな話でようやく落ち着いた私達は、街道を再び歩き始める。


目的地まではまだまだ道のりは長いのだ。









魔の森に入った時は鬱蒼とした不気味な森だな、と顔をしかめた。


今は全く違う。

森と言うよりは、時々な林らしきものがある程度の平野になっている。


「いやぁ、随分と見晴らしが良くなったな。」


ツェルクは昼御飯であるおにぎりを手に、景色を堪能している。


昨日のブラックトレント掃討で、臭いが残るかと思いきや、炭すら残ってない。

作戦を決行した付近の草木にも火が燃え移ったからあるかと思っていたが、この辺りはそう言ったものはない。

あるのは所々掘り起こされた感じの穴くらいだ。


「しっかし、うまいな。和国の米ってのは。」


ツェルクはしきりにおにぎりと緑茶を気に入り、ひたすら食べていた。


「ツェルク兄さんも気に入ってくれて助かるよ。」


「ははっ、基本的に何でも食べるぞ?」


ペロッとおにぎりを食べきると、緑茶を飲んで一息つくツェルク。

それを待っていた私達は一緒に食事を終わらせる。


「片付ける。」


ノインがささっと手早く片付けていくのを、ツェルクが感心した様子で見つめている。


「手際が良いな、ミーゲルみたいだ。」


「ミーゲル兄さん、家庭的だもんね。」


「あんなツラして家庭的だと、彼女になったやつは苦労するだろうな。」


と兄妹で他の家族の話をしている中、マルスはライガのブラッシングに勤しんでいた。


「だいぶ集まった。ありがとう、ライガ。」


「おぅ、爪と牙は抜けたらな。」


「すまない、無理を言ったか?」


「ぜーんぜんっ。」


すっかりあちらも仲良しになっていて、楽しげに会話をしたりしていた。


「行くよ。」


ノインの一声で全員が集まり、再び街道を歩き出す。


ずっとこんなゆったりした旅路なら良かったが、平和だったのはこの辺りだけだった。


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