明るくなった森の道 1
翌朝、サラの寝起きどっきりではなく、ライガが顔をなめて起こすパターンで目が覚めた。
『起きろーアネモネー。そろそろ支度しないと間に合わないってノインの旦那が言ってるぞー。』
「ふわぁ、ごめ、起きる。」
近くにある簡易洗面台で顔を洗って、ささっと手入れをする。
「おぉー、温泉効果か。ツルツルだぁ。」
と軽く感動していた辺りで、私は何となく気配を察知する。
────ん?これは、モモとミーゲル、かな?
こんな感じにゆるーい感覚で誰かが近づいてるのがわかる程度だ。
これが契りの効果、ただ普通の契りはここまでは感じない。私と龍人族・魔人族だからこその効果である。
なら早く支度しなきゃ!
慌ててタンスから服を選び出す。あまり選んでいられないから、目について変なコーディネートにならないように気を付ける。
白のフリルカットソーの下に、腕から袖にかけて青の刺繍が入った長袖を着てみた。
濃い青色のハーフパンツに、黒のニーハイソックス、パンツと同色の歩きやすいショートブーツ。
マントはショールにして、左側にシュヴァルツァからもらったブローチを留めた。
長剣と短剣を左右に分けてに腰から下げ、今日の出番は無さそうな杖は腕輪にしまった。
最後にヘルム以外の鎧を装着する。1日ぶりなのに懐かしい感じがした。
髪型はサイドを編み込みにして、ひとつにまとめた。髪留めがなかなか合わなかったので、青いリボンだけで結った。
一度、姿見を確認してから荷物をすべて腕輪にしまい、部屋から出る。
「お待たせ。」
すでにノイン、マルスは旅支度で待っていた。その近くで椅子に座っていたツェルクが立ち上がった。
「お、その格好も可愛いな。」
速攻で誉め言葉が出てくるのがさすがはツェルクだな。
「ありがとう!お祖父様から貰ったブローチを付けたくて。」
そんな会話をしたあと、近くで待っていたモモとミーゲルが私に近づいた。
「あらあら、お祖父様に先を越されてたのね。」
モモがニコニコしながら、私の頭を撫でた。聞こうとしたところで、ミーゲルが私に向かってハイ、と言って何かを差し出した。
「僕達の魔力を込めた組紐だよ。みんなお揃いで持ってるんだよ。」
それは水色のキラキラした組紐だった。全体を見れば水色なのだが、よくみると他の色も混ざっている。
「うわぁ、キレイ!」
「おお、随分と様になったな。間に合ったようで良かったぜ。」
ツェルクが横から見ていて、ミーゲル達にサムズアップしていた。
兄姉達の優しい魔力がこもった組紐から暖かさを感じた。確かにみんな髪留めとして使っているのを思い出して、私は組紐につけ直そうとリボンを外したのを見て、
「やる。」
ノインが組紐を受け取って、結んでくれた。きゅっとしまった音を聴いたら、体から暖かい気持ちがわいてきた。
「似合ってる。」
微笑ましく小さな笑みを見せるノイン。マルスもチラッと見て頷いてるし、周りの反応が良くて嬉しくなってニヤけてしまう。
「大事にするね。」
「気を付けてね、アネモネちゃん。」
ぎゅっとモモが私を抱き寄せ、ミーゲルも重なるように抱き締める。
「何かあればすぐ駆けつけるからね。」
優しい声音は別れを惜しむようで、私は堪らなくなる。でも、行かなきゃいけないので名残惜しそうに離れた。
「行こう。」
ノインがポンと肩を叩く。私は頷くと、ゲストルームを出る。モモ達は最後まで見送りをしてくれるらしく、ドラゴンズキャッスルの出入口まで来てくれた。
「わざわざありがとう。」
「ううん、気を付けてね。」
私は後ろ髪引かれながら、ドラゴンズキャッスルから集落へ下りる。
サラ達が見送りに来なかったのは、部屋から動かない気配を察知したので心の中で納得した。
「いやぁ、久々の旅だな。」
──────ん?
私はチラッと横を見る。
「で、集落出る前にフルーツ炭酸水だったな。確か商店街のタンザの店が一番品揃えが。」
「いや、待ってよ。なんでツェルクがいるの?」
あまりにも自然にいるので、私は驚くよりもやや固まったまま問いかけていた。
「ん?なんだよ、知らなかったのか?マルス、伝えてなかったのか?」
「すまん、忘れていた。」
マルスは片手をあげて謝り、ツェルクがおいおいとたしなめていた。
「何も言ってこないから、てっきり了解してるのかと思ったぜ。」
「え、ごめん。話が読めない。」
プチパニックになってる私に、ノインがそっと肩を叩いて簡潔に説明する。
「一緒に行く。行き先はマルスと同じ。」
「おぅ、よろしくな。」
「えええっ!?なんでツェルク兄さんが魔法研究所に?」
私が驚きながらも理由を問いかけると、ツェルクはふっと真剣な表情に変わる。
「昨日のブラックトレントが群がったあの水晶に閉じ込められた魔人族を助けたいんだ。」
私はハッと思い出し、そのまま話の続きをきく。
「ノインもいったろ?別の器を用意しないといけない。けど、ここだとそう言ったものは作れない。で、昨日マルスに話したら、魔法研究所なら出来るんじゃないかってことになってな。」
「なるほど。けど、突然行って大丈夫なの?」
私は不安になってマルスに聞くと、彼はあぁ、と頷いた。
「昨日のうちに文鳥で、魔法研究所に確認したら使えそうなものはあるらしい。後は実際に使って確認してみるしかないそうだ。」
「そうなんだ!良かった。」
「という訳で、俺も同行するぜ。改めてよろしくな、アネモネ。」
にぃっと笑ったツェルクに、少しほっとした私。そうか、何か目的があってついてくるなら納得できる。
「あ、ヴァーレデルド領に入ったら魔人族とは名乗らずに、アネモネの兄で通すつもりだ。確か、君ら人間族の冒険者なんだろ?」
「うん。ツェルク兄さんは冒険者登録とかそういうものはないの?」
「ない。」
やけにツェルクが自信満々に答える。言い切ったのはいいが、身分証明書がないと町や村に入れないこともある。
「えっ、村にはどうやって入るの?」
「それはだな、これだ。」
私に見せてくれたのは、以前ゲームとかで見た認識票───ドッグタグだった。
よく見れば、名前の他に"ヴァーレデルド王国第二商人ギルド内龍人族集落支店所属"と書かれていた。
「モリスに頼んで用意して貰った。身分証明に使えるから、これを見せれば入れるぜ。」
「なるほど、その手があったんだ。」
良かった。どうしようもなかったら、ノインに頼もうかと思ったけど、なんとかなったみたい。
「なるべく迷惑かけないようにはするぜ。いざとなったら戦闘だって炊事だって見張りだってやるぜ。」
「あ、その辺りはツェルク兄さんに話さないとね。」
私達の旅は特殊すぎるから。事前に説明しないとマルスみたいに困惑通り越して呆れることになりそうだ。
ちょうどツェルクオススメの店につく前にそれらの話も終わり、私はフルーツ炭酸水を買い漁った。
さらにノインが追加購入し、しばらくは困らなくてすみそうだ。
「ノイン。ツェルク兄さんも加わったし、食材とかの買い出しは大丈夫?」
商店街を歩きつつ私が問いかけると、ノインは頷いた。
「問題ない。」
「それに最悪俺は魔力が補充出来れば、メシは食わなくても大丈夫だぜ。」
と隣でツェルクが笑う。
「あ、そうなの?」
「最悪な?ただ、食事や休眠は魔力回復になるから、出来ればある方が助かるな。」
「ツェルク兄さんだけナシ、なんて寂しいことは言わないよ。ね?ノイン。」
話をふった先にいるノインも頷く。
「作るから、食べて。」
「お?なら、ご相伴に預かるぜ。」
嬉しそうに笑うツェルク。
旅の仲間が一人増え、4人と一匹になった私達は龍人族の集落を後にした。




