今はその想いを抱いて眠れ 4
本日、作者は誕生日を迎えました。
◯4才です、歳は取りたくないですな!
晩餐会が終わり、シュヴァルツァからもらったブローチを大切にしまうと、寝間着を出していた頃に部屋のドアがノックされた。
「アネモネ、エイルが来た。」
ノインに呼ばれて部屋から出ると、エイルがゲストルームにあった机に座っていた。
先に座ったのかマルスと仲良く話をしていたが、私が来たらこちらに視線を向けた。
「お休みの時間に来てしまい申し訳ないです。」
「気になさらないで下さい。それより、アイズ様から預かった物とは?」
「こちらです。」
エイルが胸元から手紙と、長細い箱だった。そのまま流れるようにエイルがふたを開けて見せてくれたのは、小さな宝石のついたネックレスだ。
「手紙はマルス兄様も目を通してほしい、と言付かってます。」
「ん、アネモネ。先に読むぞ。」
マルスからの提案を頷くと、私は箱のネックレスを手に取った。銀のチェーンに小さな宝石とは随分と質素なものだと思ったが、よく見たら宝石の真ん中に雪の結晶が見えた。
「アイズ兄様は毎日、魔法で宝石に雪の結晶を刻んでいました。あんなお優しい笑みをしたアイズ兄様を見たのは初めてです。」
そう語るエイルを見たら、微笑ましくその光景を見ていたのがわかる。
「大事にします、とお伝えください。」
ぎゅっと箱を握って私は笑った。エイルは承りました、と嬉しそうに胸を張った。
「アネモネ、手紙を。」
マルスがさっと渡してきた手紙を見る。
『ヴァーレデルド王国から、散り散りになった魔人族を保護してるなら護送するように、と書類がきた。確認中と流したが、情報として知っておいてくれ。』
短い走り書きのようなその手紙は、急いで書いてくれたのだとわかる。
「アイズ兄上には、見たことを伝えてくれ。」
「わかりました。」
「俺達は明日、ヴァーレデルド王国に入る。また何かあれば連絡する。」
マルスは真剣な表情で話すと、エイルも頭を下げた。
「お気を付けて、マルス兄様。」
「あぁ、アイズ兄上達によろしく。」
用件が済み、エイルは名残惜しそうに部屋から出ていった。
「────ツェルクには。」
「明日、道中で話そう。今日は色々ありすぎた。すまん、先に休ませてくれ。」
何故か早口で切り上げられ、マルスはさっさと部屋に帰っていった。
ん、何だろ?あまり疲れてるような顔はしてなかったけどな。
「アネモネ、お風呂。」
「あ、今日はゆっくり浸かりたい!」
と私は部屋に駆け込む。ワクワクしながら寝間着や手入れ道具を持って、ゲストルームから出る。
昨日から楽しみにしてた露天風呂へ向かうためだ。
ドラゴンズキャッスルの立地上、良い源泉が沸き出すらしく、龍人族の集落は温泉街らしき場所もある。
そこには、行商人や冒険者が体を癒しに通いに来るらしい。
ドラゴンズキャッスル内には源泉かけ流しと、直源泉の二つの露天風呂がある。
モモやシュヴァルツァ、ガラードは直源泉に浸かるらしいが、流石に私は無理だと察して、昨日から源泉かけ流しの方に入った。
「あぁ~、生き返るんじゃぁあ~。」
昨日と同じセリフを、誰もいないことを良いことに口に出す私。
やっぱり日本人が染み付いちゃってるんだね、温泉はサイコーです!
「はぁぁ~、また浸かりたくなったら帰ってこよ。」
温泉にとろけながら、私は一人マーシャットに入ってから今までを振り返る。
テントと言う名の一軒家、懐かしい実家の内装、主神からの使命、龍人族・魔人族7人の兄姉に素敵なお祖父様、ブラックトレント掃討作戦、エイルとの再会、アイズからのプレゼント。
毎日が色々ありすぎて、昔の私から絶対考えられなかった。
羨ましくても届かないから諦めて、努力してもなれなくて、無理しても自分が辛いだけ。
今は全く違う。
羨ましいと思えば手に入るし、努力したら望む以上のことになり、無理しなくても周りがそうなっていく。
─────今考えたら、相当すごいことになってませんかね?
のぼせそうになったので、温泉から一旦出て近くにおいてあった棚からタオルを取り、軽く体を拭いてそのまま巻き付ける。
足だけ温泉に入れて、棚においてあったビンを開けてそのまま口つける。
中身は温泉街で好評だというフルーツ炭酸水だ。
「くぅー、こっちきても炭酸が飲めるとは!」
味わい的にはピーチサイダーが近いかな、あとで明日の出立するときに立ち寄って買っておこう。
「んー、まぁ深く考えるのはよそう。」
星空を見上げながら呟く。
「おや、アネモネ。」
声がかかって振り返れば、金髪美少女の龍人族モリスだった。頭にタオルを巻き、タオルやビンを持って近づいてきた。
「モリス姉さん。」
「ふふっ、やっとゆっくり話が出来るね。」
そう言われてモリスとは話が中々出来なかったことに気づく。
まぁ、色々ありすぎてそれどころじゃなかった。
「あっちの源泉には入らないんですか?」
と私はからかい半分で上を指差した。神山を少し登った所に直源泉の露天風呂があるので、それのことをいったのだ。
モリスは手をパタパタさせながら、
「私は無理よ。いくら地属性だからって熱いのはイヤよ。」
とやんわり断った。
うん、実はノインはそっちにいるんだよね。なんであんなマグマのようなお湯に入ろうと思うんだろうな。
「良かった、最後に話せて。」
モリスは私の近くで肩までゆっくりと浸かった。その隣で私はフルーツ炭酸水を飲みきった。
「あぁ、美味しかったなぁ。」
「ふふっ、気に入った?」
私が持ってたビンを見て、モリスは口元に手を当てて上品に笑った。
「うん。明日買ってから行くよ。」
「酸味が強いけどさっぱりするレモンスカッシュもオススメよ。」
「なにそれ?飲みたい!」
そんな話をしながら、温泉での談笑は続く。
騎士団長のモモの妹であるモリスは、昔から戦闘は苦手なんだそうだ。
魔法も確かに駆使は出来るが、戦闘向けには応用出来なかった。
神龍の一族の恥さらしだ、と龍人族の偉い人たちから非難されたこともあったそうだ。
その度に家族であるモモ達が慰めてくれていてらしい。
モモ達の母親である前代"神龍の巫女"が亡くなり、次代の巫女を決める試練にも挑んだ。
最後の試練、神山の頂上にある祭壇に祈りを捧げることで、主神の了解を得るというところで。
「私には、何も下りなかったんです。」
モリスには何も起こらず、後から来たサラが祈りを捧げたら、空から一筋の光が差してサラを照らした。
"神龍の巫女"はサラが担うことになった。
また、モリスは何も出来ずに一時期、ドラゴンズキャッスルから出ようともしたらしい。
何か出来ないか必死にもがいていたモリスが作ったものが、集落で大ヒットしたのだ。
「それが、これ?」
私は空になったビンを振る。モリスはクスッと笑って頷いた。
「どうやらこちらに才があったのね。」
そう、炭酸水だ。
修行の一貫で神山の洞窟にいた際に、偶然発見した炭酸泉。
これを何かに利用できないかと持ち帰り、色々試した結果、フルーツ炭酸水が出来たのだ。
最初は家族や騎士団員に振る舞っていたが、商魂たくましい行商人が目をつけ、商品化して集落で大ヒットしたのだ。
その収益の一部を集落の温泉設備や、ドラゴンズキャッスルの保守等に当てたので、モリスのことを嫌っていた一部の龍人族は、手のひらを返したように態度を変えたそうだ。
「む、なんかムカつくな。どいつなの?代わりにボコろうか?」
「もうモモやお祖父様が追い出しちゃったわ。」
「あら、残念。」
ペロッと舌を出して私が笑うと、モリスもふふっと柔らかい笑みを見せる。
その後も炭酸泉もいくつも見つけたり、過程でミスリルが採掘できる鉱山も見つけたりしたそうだ。
「あのときに、確かに祈りは通じていたの。巫女の役目はサラになったけど、私にはこの方が性に合ってたわ。」
笑って話をしてるモリスを見ていると、もう本人が乗り越えた感じだったので、余計なことは言わずに黙って聞いていた。
「だから、アネモネも困ったことがあったら言ってね?お金のこととか、商人ギルドにもツテがあるから!」
たくましいモリスに、私はありがとうといって苦笑いした。
いや、ノインがいるからお金には困ることはないんだよねぇ。
「寂しくなっちゃうな。」
モリスは悲しげに目を伏せる。私は見られないようにそっぽを向きながら話す。
「また帰ってくるよ。使命が終わったら、アッシャルダに行く予定あるし。」
言ってから星空にアイズの顔が浮かんで見えた。そうだ、ちゃんとあっちの約束も守らないと。
意外と先のことが山ほどあることに、私は気を引き閉め直した。




