黒木駆除作戦 3
「うおおおおおおーーーーー!」
マルスの絶叫が響く。
私達は今、龍の姿に変わったミーゲルの背中にいる。
時間がないと言うことで、ミーゲルが龍形態でぶっ飛ばす形になった。
龍の背中に乗る初体験に、マルスは絶叫しているが私は正直、走る車の窓を全快にした感覚であまり怖さがなかった。
多分、ミーゲルがその辺り配慮してくれてそうだから黙っている。
「うはぁー!気持ちいい!」
と私が呑気にそんなことをいうと、マルスが必死の形相でミーゲルの背中にある角に捕まりながら睨んできた。
「あとどれくらいだ?」
いつもは冗談を口にするツェルクが、ドラゴンズキャッスルを出てから一切言わなくなっていた。
余裕がないのが明白だ。
『そろそろ見えるよ!』
ミーゲルの声がエコーがかった地響きに似た感じに聞こえる。
前を向けば、黒い塊がある一点に集まっているのを確認した直後。
ごおおおっ!と噴火が起きたような音が響き、黒い塊から黒い炎が上がる。その黒炎に包まれるように赤黒い鱗の龍が咆哮を上げたのを確認する。
『いたっ!ガラードだ!』
「無事か!?」
ミーゲルはそこへ滑空していくように高度を下げていく。ツェルクの心配に私がノインをチラ見すると、彼が頷いたのでまだガラードは無事なようだ。
「まだ無事なようです!急ぎましょう!」
私の声にさらに速度をあげ、滑空していくミーゲル。私は片手に構えた杖を黒い塊の方へ向ける。
「周りのブラックトレントを減らしますね!"聖炎鞭ッ!"」
杖から伸びた白い炎が鞭のようにしなりながら、ブラックトレントの根に叩き込まれる。根が燃え上がり、あわてふためくブラックトレントを見た赤黒い鱗の龍はこちらを向いた。
『ガラード!助けに来たよ!』
『────必要ない。』
「はっ!笑えない冗談だ!俺にはお前が無茶し過ぎてピンチに見えるぜ!」
ツェルクも私と似たような光の鞭を手から放ち、ブラックトレントを仕留めていく。
『ツェルク!ガラード捕まえて!』
「あいよ!」
『待てッ!撤退は、ぐっ!』
ツェルクの光の鞭にからめとられて、赤黒い鱗の龍は呻き声をあげてもがき出す。私もツェルクと同じ光の鞭を杖から出して、拘束を手伝う。
『やめろ!離せ!』
『ダメだよ、ガラード!一旦退くよ!』
もがく龍をミーゲルが翼に足をかけ、ガッチリと掴んで飛び上がる。一気に上昇するミーゲルに、背中にいる私達は慌てて背中の角に捕まった。
『離せ!助けはいらない!』
「バカかッ!単独で戦って勝てる数じゃない!」
『うるさいッ!』
ガラードがもがくので、ミーゲルもその背中にいる私達もバランスを崩しそうになる。
「落ち着け!この後ちゃんと取り返しに来る!今は一旦退くんだ!」
『それじゃ遅すぎる!これ以上、この集落をあんな奴らに汚されてたまるかッ!!』
もう怒りやらなんやでパニックに近いガラードに、私はツェルクの顔を見る。彼はどうにか説得しなきゃと必死に話しかけていて、私すら眼中にない。
むぅ、仕方がない。私はすぅと息を吸い込んだ。
「落ち着きなさいッ!今はその時じゃないッ!」
普段の声量よりも増した一喝をすると、ガラードだけでなくツェルクもミーゲルもビックリした。
「貴方の気持ちはわかります。ですがここで死力を尽くす必要はないんです。」
『──はっ!余所者の人間族が何を言い出す?!引っ込んでろ!』
「必ずこの集落は私が取り戻します。」
私はわざとミーゲルの背中から飛び降りる。周りが止める間もなく、ガラードの目の前まで落下する。
アネモネの髪飾りに触れながら御使いのドレスに変わり、背に六対の光の翼を展開し、ガラードの顔近くで浮遊する。
『ッ!』
「我らが偉大なる主神の名の元に貴方に約束しましょう。だから今は退いてください。」
軽く放心状態になったガラードに私は片手を差し出して誓った。
『─────わかった。』
ようやく話を飲み込んだガラードは、もがくのをやめてミーゲルを見上げた。
『離せ、ミーゲル。』
『離したら、戻ったりしない?』
『あぁ、この女が約束したからな。』
その言葉を聞いて、私とツェルクが光の鞭を解くとガラードはミーゲルの背中側へ回り込み、龍の姿を縮ませるように人化した。
「ッ!」
すとん、と軽く背中に着地したそのガラードを見て、同じく背中に戻った私は思わず息を飲んだ。
「あっ。」
同じくそのガラードの姿を見て、声を上げたのはマルスだった。
「なんだ?」
訝しげに私達を見るガラード。
「あ、ああっ。」
マルスの震える声が漏れる。
そう、マルスにとって今のガラードの姿はとある人物と重なって見えただろう。
癖毛のある髪、褐色の肌はまさしくあの"堕ちた王子"ダルクと同じだったからだ。
ただ、髪の長さはガラードの方が長くやや赤みがかっていて、瞳は金色の龍眼だ。
当然ながら顔は似てないが、パッと見た時にダルクと重なる部分が多かった。
だから、マルスが青ざめて震えているんだろう。
「マルス、落ち着いて。」
私が近づいてマルスの肩を叩く。ビクッと肩を震わせて私を見るマルスは不安げな顔つきだった。
「よく見て、彼はダルクと似ても似つかないわ。髪も目も、顔だって似てないじゃない。」
そう話す私からガラードの方へ向き直るマルス。嫌そうに眉をつり上がるガラードを見た後、深呼吸をしてマルスは落ち着いた。
「すまん、取り乱した。」
「大丈夫、私も一瞬焦ったくらいだから。」
ニコッと笑う私を見て、マルスはフードを深くかぶり直した。
「おい。」
ガラードが物凄く不満げに睨んできている。
「あぁ、ごめんなさい。とりあえず、ドラゴンズキャッスルに戻りましょう。ここは落ち着かないし。」
『あ、あぁ。そうだね。皆、掴まっててね。』
ドラゴンズキャッスルに戻った私達は、まずシュヴァルツァにガラードを会わせた。
シュヴァルツァが緩んだ顔でガラードの頭を撫で、それをガラードが払って睨む姿にほっこりする一面を見れた。
報告が済んだ後私達が使ったゲストルームに戻り、一同昼食を取ることになった。
「先程は失礼した。」
すっかり調子を取り戻したマルスが、ガラードに頭を下げた。私も一緒に頭を下げて謝るのに加わった。
「不快にさせて申し訳ないです。」
ガラードは鼻でそれを受け止め、すっとその場から離れようとしたがガッチリとサラに抱きつかれて身動き取れなかった。
「ガッくん!もう内緒で出かけないでね!みんな心配したんだよ!」
ガッくんと呼ばれたガラードが嫌そうな顔をして、サラに抱きつかれている。
「やめろ!離せ!関係ないだろ!」
「関係あるよ!私達、家族なんだよ?心配だってするよ!」
「違う!俺は魔人族の長の息子だ!」
「ガラード!」
ごっ!
サラとガラードのケンカじみた言い合いが始まりかけた頃、ツェルクが近づいてガラードの頭に力一杯げんこつをする。
「俺達は家族だ。親父達はあんなことを言ってるが、俺達には両方の血が流れてる。それに今は龍人族とか魔人族とか関係ないだろ。」
痛そうに頭を抱えるガラードに、ツェルクは真剣な表情で語る。
どうやらハーフならではの悩みがありそうだ。
「その証拠に普段は嫌悪して不干渉だった魔人族を、じいさんは快く迎えてくれたじゃないか。」
「困ったときはお互い様、だよ?」
ツェルクの肩を叩き、ミーゲルがガラードに笑みを向ける。しかし、ガラードはぎぃっと睨んだままだった。
「はい、それでおしまい。」
私はガラードの前にさっとラムネやアメが入った器を差し出す。
「ケンカは後にしてください。すぐブラックトレントの掃討作戦が始まりますから、今は休むときです。」
「お?ラムネか!いただくぜ。」
何事もなかったかのようにツェルクはラムネを手にとって口に放り込んだ。
「────なんだ、これは。」
ガラードもラムネが気になるのか、お菓子の器を指差した。
「お菓子です。たくさんありますからおひとつどうぞ?」
「いや、だから今はそんな────。」
「わーい!一個ちょうだい!」
ガラードからパッと離れたサラが、器からアメをとって包みを取って食べ始めた。解放されたガラードは服装と整えて咳払いする。
「おいしーー!!ねぇねぇアネモネ、これどこで買ったの!?」
「アッシャルダでだよ。」
「ミーくん、今度アッシャルダ行こう!」
サラが無邪気におねだりし、ミーゲルは苦笑しながらもその頭を撫でる。
「もうお役目はないし、ゆっくり出来るね。」
「うん!」
二人は頷き合いながら嬉しそうだった。
「役目がない、ってどういうことだ?」
あの場にいなかったガラードがきょとんとした顔で隣にいるツェルクに話しかける。
「あぁ、お前は出かけてたから知らないか。なら彼女達のことも話さないとな。」
そんな出だしから事情説明会が、昼食と共に始まった。




