魔の森に住まう者 2
気づけば魔の森の中に入っていた。
茂る森の中は時々日差しがさす程度で、やや薄暗い景色が広がる。
「早速いたな。」
街道の右奥に、禍々しいオーラを纏った黒の葉を持つ木────ブラックトレントがゆらゆらと揺れていた。
風が吹いてもないのに、葉を揺らし枝を動かし、根は獲物を捕らえるように、ガサガサと音を立てていた。
「───気持ち悪い。」
私はブラックトレントが纏ったオーラを実際に近くで感じて顔をしかめた。
「全くだ。」
マルスも顔をしかめている。ノインは鞘に手をかけているので、私は右手にスナイパーライフルを構える。
「燃やす?」
「あー、出来れば素材を確保したい。」
「わかった。」
私は銃の形状をサブマシンガンに変えて、風の魔法を弾丸に込めて、根を狙う。
タタタタタッと軽い発射音が響き、ブラックトレントの根はパンッパンッとこれまた軽い音で弾けていく。
まるでダンスを踊るように動くブラックトレントは、なす術なく轟音を立てて倒れた。
「ん、離れていれば意外と問題ないね。」
「強くはないが、油断はできないな。」
マルスは倒れたブラックトレントに近づき、ささっと葉や枝を回収する。
「根はどうする?」
回収するマルスの横で、ブラックトレントの根を見つつも聞く。
「確かに研究したいが、過去の事例が正しいなら手をつけるべきじゃないな。」
「じゃ、燃やそう。」
と私が手をブラックトレントに向けて、火の魔法を放つ。パチパチと音をたて燃え始めたら、あっという間に炭に変わってしまった。
「火の回りが早いね。」
「そうだな、焼き払う時は細心の注意をしないとな。」
街道に戻ると、マルスが回収した素材をバックにしまいこむのを待っている間に、
『アネモネ、ちょっといいか?』
ライガが念話で私を呼ぶ声が聞こえた。
ノインをチラ見してから、ライガの近くに移動すると、先程燃やしたブラックトレントの近くでライガがいたのに気づいた。
「どうしたの?ライガ。」
『しっ!』
ライガは顎で先程のブラックトレントの方を指すので、私はそっとそちらを見る。
そこには炭になったブラックトレントを囲むように、他のブラックトレントが数体集まっていた。ただ、どれも茂みに隠れるほど小さかった。
『えっ、なに?』
念話でライガに話すも、答えはすぐわかった。
小さなブラックトレント達は炭になったブラックトレントに根を這わすと、まるで食事をするようにバリバリと炭を砕く音が響いた。
『うわ、もしかして食べてる?』
『群生する理由はこれ。』
いつの間にノインとマルスも息を潜めて近づいていた。マルスは見慣れているのか、観察する目には特に揺れない。
「燃やしたとしても、死体を吸収するのか。」
「吸収はしてない。」
「なら、あれは習慣的なものか?」
小さなブラックトレントは炭がなくなると、ガサガサと音をだしながら森の中に去っていった。
「はぁ、ビックリしたぁ。」
「一網打尽には出来そうだが、炭でも吸収しに集まるのは中々面倒だ。」
マルスはふむ、と考えこんだ。そのまま街道を歩き出すので私はあわてて横についていくと、ノインもマルスを追い越して先頭になる。
私達はさほど変わらない魔の森の景色を、ひたすら土がむき出しの街道を歩きだした。
太陽が真上に差し掛かって、そろそろ昼食にしようという話になったのだが。
「豪華な旅飯だな。」
テーブルに並んだ料理にマルスはノインを見るが、本人は目をキラキラさせて"いただきます"を待っている。
野菜と干し肉のスープ、焼いたチーズとハムを挟んだ堅焼きパン、切り分けられた果物、紅茶がグラスに注がれている。
そして、デザートにヨーグルトにいくつかジャムの瓶が並んでいる。
確かに旅の昼食にしては豪華かもしれない。
「さ、早く食べよ?いただきます。」
私は焼いたチーズとハムのパンを手に取り、口に運ぶ。とろけるチーズの旨味とハムの塩味が聞いて、顔がほころんでしまう。
マルスもスープを口にして、同じく顔が緩んだ。
『ノインの旦那、肉少なくねぇか?』
『バランスよく盛った。』
『ライガ。足りなかったら、私のスープのお肉あげるよ。』
私がスープから干し肉を取り出すと、ライガの器に入れてあげる。ライガはさすがアネモネ!と喉をならして喜ぶので、嬉しくなる。
「マルス。」
ノインがマルスの食べ終わった器を手に取り、さっとスープを盛りつけて、マルスに返す。
「確かにもう少し食べたいとは思ったが、さすがノインだな。」
受け取った器を眺めたあと、マルスはありがとうとノインに言う。何だかんだで仲良くしてる銀髪と金髪のイケメンが──────あ、あぶね。薄い本が厚くなる展開を想像しかけた。
「あ。このイチゴジャムって。」
誤魔化すようにヨーグルトを食べようと、ジャムを手に取って気づいた。イズリールの市場の隅で、お母さんのためにイチゴを売りにきた少年から買い占めた、あのイチゴを使ったジャムだった。
「うん、あのイチゴ。」
「あの子、ちゃんと薬買えたかな。」
と言いながら、ヨーグルトにジャムをかける。よく混ぜてから、すくって口に運ぶ。
「ん、あまぁい。でもちょうどいい酸味が残っていいね!」
私はヨーグルトに舌鼓するのを見て、マルスもヨーグルトにイチゴジャムをかけて一口食べる。
「うまいな。確かにイチゴジャムがいいアクセントになる。」
マルスも気に入ったようで、ヨーグルトをゆっくり味わっていた。
『アネモネ、俺もー。』
『はいはい。どのジャムがいい?』
『俺もイチゴがいい。』
ライガの器にもヨーグルトとジャムをかけて差し出すと、嬉しそうに食べ始める。
「ご馳走さま。でだ、このまま進めば明後日には龍人族の集落に着けるはずだ。」
「ご馳走さまでした。そうだね、野宿になるのは仕方がないかな?」
私がノインに聞くと、昼食に使ったテーブルを片付けながら頷いた。
「じゃ、片付けして行けるところまで行こう。」
まだ名残惜しく器をなめるライガの器を取り上げて、ささっと水の魔法で洗い流す。
─────それをじぃっとマルスが見つめていたのに、この時は全く気づかなかった。




