いざ、未来に紡げ 5
新しい魔帝王の誕生の知らせは玉座の間に響き、圧倒しそうな歓声で迎えられた。
この後の打ち合わせとして、玉座に座るアイズの元に様々な人が集まり、その場で会議が始まっていた。
私はそれをぼぅっと見ながら、この後のことを考えていた時。
「アネモネ様。」
呼ばれてそちらを向くと、白髪の男性と初老の青い髪の男性、茶髪の美女の三人が立っていた。白く足元までの丈のポンチョのようなものを身に付けていた。
それを確認した後すぐに、ノインがサッと私と男性達の間に割り込んだ。
「何か?」
ノインの不機嫌そうな声と男性達の着ていた衣装で、私は男性達が何者かを薄々察した。
「お初にお目にかかりまする。私はファレンジア神教、アッシャルダ支部教会の神官長のバルマ・エンズ・ラークエルドと申します。」
「同じく、神官長補佐のジル・エンズ・ラークエルドです。」
「同じく、アッシャルダ支部長、ラーファ・ジェナ・ファイスハルトです。」
順に自己紹介され、私は一人づつ会釈して返す。
やっぱり教会の人だったのか。
ん?そういえば、ファレンジア神教って初めて聞くなぁ。
『ねぇ、ノイン。ファレンジア神教って?』
『我らが偉大なる主神を崇める宗教。』
『あー、ノイン的には関わりたくない人達?』
『うん、うざい。』
どうやら、この人達がノイン曰くうざい宗教の人達の模様。
「我らが偉大なる主神の御使い様。この地に降臨頂き、光栄でございます。」
膝を床につけ、深々と頭を下げる三人。私はなんとなく引いていると、それを察知したノインが三人に言う。
「我が主に、過度な敬意は不要。」
ノインに我が主とか言われた瞬間に、背筋がぞわっとした。最初に会った時のような、冷たくて無機質なしゃべり方になっていた。
「そうでしたか。では、失礼して。老体には石の床は堪えますなぁ。」
バルマは杖をついて立ち上がると、隣にいたジルがそっと背中を支える。
この二人は見た目も似てるし、年齢的には親子なのかな?
「用件を聞く。」
バルマの話もどこ吹く風のごとくすっ飛ばして、ノインは簡潔に話をふった。
「私から。」
そう話し出したのはジルだ。
「御使い様がこの地にご降臨なされたのは、やはりファレンジアの世界に危機が迫っているのでしょうか?」
私はノインの後ろから、彼の肩をかるく触れた。
その後、隣に移動しつつ質問に答える。
「ええ。いつとは言えませんが、滅びの危機は確実に迫っています。」
「そう、ですか。」
ジルは滅亡が事実と知って落胆したのか、トーンダウンした。
「やはり、危機は避けられぬのですな。」
落ち込んだジルの横で、バルマは深いため息をこぼした。
「何かありましたか?」
私が二人を見ながら聞くと、バルマがはい、と重たい空気で話し始めた。
「この周辺で近年、魔物が狂暴化しましてな。普段大人しいはずのマッシュカウや用心深いブラックパイソンが、次々と他の魔物や動物、果てには人を襲うようになりましてな。」
あー、それか。ダルクの邪法が原因、とは言えないしなぁ。
「─────それは、"闇潜者"が原因だ。」
返答に困っていた私の横にいたノインが、バルマに話す。
「"闇潜者"、と申しますと魔物の?」
「ああ。」
バルマたちはなるほど、と納得してるようだったが、私は初めて聞くのでノインに念話に飛ばす。
『ノイン、そのだーくすとーかー?って何?』
『ベゼルズに憑いてた影。』
『ああ、それね。』
という短い説明で理解した。
「あやつらは、より強い生命体に乗り移りますからな。」
バルマの説明に、ジルはうむ、と頷く。
どうやら納得してもらえたようで、私は心の中でホッとした。
「ベゼルズが参加したあの第二試合の後、ノインが退治しました。もう危機は去りました。」
「なんとっ!さすがは御使い様、もう解決していただいたとは!」
さらに安堵の様子でバルマとジルが顔を見合わせた。
本当の理由は別だけど、らしい理由で誤魔化しちゃったな。
「これはバルマ神官長、お久しぶりです。」
声に意識を向けると、アレックスがマルスをつれて近づいてきていた。
バルマがやや渋い顔をしながら、アレックスに向き直る。
「アレックス殿、久しぶりですな。」
「挨拶が遅れました。今回の祭りは体調が優れないと不参加と聞いていたので、いらっしゃるとは思いませんでした。」
アレックスがとりあえず笑っとけ的な顔で挨拶をする。
どうやら互いにあまり仲はよくない様子。
「御使い様が降臨なされた、と知らせを受けて居てもたってもいられなくてな。老体をひきずって来たわけだ。」
バルマが杖に寄りかかりながら片手で腰を押さえていた。
神官長って大変なんだね。
「なるほど。ところで何やら込み入った話をされてたようですか?」
「それは─────。」
「魔物の狂暴化のことです。私から原因は闇潜者だと説明しました。」
言いにくそうにバルマが濁したので、私が割り込んでアレックスに説明したあと、バルマ達に見えないようにサッと両手を合わせて謝った。
アレックスとマルスは察してくれたらしく、恭しく頭を下げてみせた。
「そうでしたか。我々も調査に参加しましたが、特定できなかった件でした。さすが御使い様、もう解決していただいたんですね。」
「ええ。」
「うちのマルスも手伝ったようですが、お役にたちましたか?」
アレックスがチラッと私にそう話をふったので、バルマ達が聞いてない、と唖然とした。
「勿論です。まだ降臨したばかりの不慣れな私をサポートしてくれました。大変助かりました、感謝します。」
私が満面の笑みで答えると、アレックスはしてやったり、とバルマ達にドヤってた。それを苦々しく見つめるバルマ達をみていると、何故か居たたまれない気持ちになっていく。
うう、高校時代の派閥を見ているようで、なんか気分悪い。
というのが、私の顔に出てたらしく、アレックスとバルマが互いに咳払いして引き下がった。
「さて、アネモネ様。この後はいかがされますかな?」
バルマからそんな話になり、私はノインに視線を向けると、ノインはしかめっ面になる。
ああ、本当に好きじゃないらしい。
「宿をとってますので、そちらに帰るつもりです。」
「もしよろしければ、私どもの教会に来ていただきたいのですが。あぁ、勿論お時間は取らせませぬ。」
とお誘いを受けたが、ここまでノインが毛嫌いしてる神教に行ってみるべきか、否か。
返答に迷ってノインを見ていると、彼が小さくため息をこぼすと、バルマに向き直る。
「多少ならば構わない。」
「おぉ、ありがとうございます!早速、ご案内致します。」
バルマ達が背を向けて、玉座の間の出入り口に向かうのを見て、私はノインに話しかける。
「ごめんね、嫌な思いするのに。」
「構わない。知っておくのも必要。」
「それ終わったら、また美味しいもの食べに行こ?」
お詫びの私の提案に、ノインは目をキラキラさせて頷いた。
ご機嫌がなおったのを確認して、アレックスとマルスの方へ向き直る。
「じゃ、先に帰るね。」
「気をつけて。」
アレックスがにこやかに挨拶を返す。すぐ隣のマルスは、私に近づいて話す。
「明日、旅支度をしたいから、買い出しに付き合ってもらえるか?」
「ああ、そうよね。わかった、宿で待ってるわ。」
「それと、明日の夕食はアッシャルダ城内で祝賀会をする。アネモネ達も参加してくれ。」
マルスはこれを、と招待状らしき手紙を手渡した。
「わかったわ。」
「じゃ、また明日。」
私が片手を上げて挨拶をしたあと、出入り口に向かったバルマ達を追いかける。
合流した辺りで、バルマがふと私を話しかける。
「マルス殿とは仲がよろしいのですな。」
「ええ。近々、彼の護衛を兼ねて別の地に向かうので準備の話をしてました。」
「もう、行かれてしまうのですか?」
ジルと共に非常にがっかりした様子で問いかけられたので、私は頬をかきながら答える。
「急ぐ旅、という訳ではないですが、やはり留まってはいられないので。」
「そうでしたか。」
出入り口のドアをジルとラーファが両方開け放つと、バルマと私達は玉座の間を後にした。




