いざ、未来に紡げ 4
玉座の間から出て、廊下を歩く。
ドアが見えなくなった頃、私は笑顔のまま前を歩くノインの背中になだれ込むように顔をくっつけた。
「アネモネッ!?」
隣にいたマルスが心配して、声をかけてきた。その声に先頭にいたジェルドとアイズが近づく足音がする。
「あぁぁぁぁぁーーーーー、緊張したぁぁぁ。」
私が本音を吐露すると、その場の全員が何故かホッとした様子で一息ついたようだ。
「マルスぅ、もうやらないからね。」
「わかった、わかった。お疲れ。」
ノインの背中からちらっとマルスを睨むと、マルスはポンポンと頭を撫でた。
「マルス、知っていたのか。」
アイズがマルスに話しかけるのを見て、私はノインに礼を言って、アイズに向き直る。
「ああ。」
「そうか。ずいぶん仲がいいみたいだな、マルス。」
そんな会話が終わったタイミングで、私は改めて頭を下げる。
「アイズ様、色々と驚かせてしまって申し訳ないです。」
「あぁ、一生分驚かせてもらったよ。こちらもまさか御使い様とは知らず、無礼な振る舞いを謝罪するよ。」
いつものような固い笑みで返すアイズ。
うん、心のカメラに納めるならこっちだな。
「そろそろ、私から話して良いですかな?」
ジェルドが咳払いしつつ、私達に話し始めた。私はアイズを見上げてニコッとした後に、ジェルドに向き直る。
「最後の試練のことです。」
「ああ、確か魔法金庫を開けるのだったな。」
「そうです。本来ならば、前魔帝王ルドルフからやり方を教わり、アイズ様の魔力で施錠することで上書きをする試練なのですが。」
父親である前魔帝王の名前を聞いて、アイズの顔が曇った。
「そうだな、やり方がわからないんだったな。」
「そうだったのですが、先程、御使いであるアネモネ様からお預かりしたものがあります。」
ジェルドは私にウィンクしたあとに、アイズに鍵と巻物を手渡した。
それを見た後に、私はアイズに話す。
「亡き前魔帝王から預かりました。」
「そんなことができるのか!?」
「私は立場上、エレルドとファレンジアを行き来できますので。 」
アイズは感嘆の声をこぼすと、鍵を見つめた。
「息子達をよろしく、と言われました。」
「そうか、父上は───────いや、なんでもない。」
なにかを言いかけて、アイズは首を横にふった。
「さぁ、最後の試練に挑むとしよう。」
私達は廊下を進み、アッシャルダ城内でも王族しか使わないエリアまでやってきた。
やがて、玉座の間のドアのような大きな金色のドアが見えてきた。
近づくと、文字が羅列した魔力壁に似た結界が張られていた。
「さぁ、アイズ様。」
ジェルドの誘導で、アイズは手に持つ黄金の鍵をドアに近づける。すると結界が緩やかに消えていき、アイズが鍵を開けるとドアは自動的に開いた。
中には、赤いカーペットが敷き詰められ、入ってすぐに王冠と、ロッカーの形をした金庫が見えた。左右には巻物や何かの道具らしきものが陳列されていた。
「ここが魔法金庫?」
「はい、先程の鍵がなくては近づくことすら出来ません。」
ジェルドは懐かしいのか、目を細めながら私の問いに答えた。
アイズはまっすぐロッカーの形をした金庫に向かい、その目の前で立ち止まった。
巻物を広げたアイズを見て、開錠を始めるのだろうと察した私達は、静かに魔法金庫の外に出た。
ここからはアイズ一人の作業になるからだ。
まぁ、私達は中身見ちゃったけど、内容はほぼ覚えてないからいいかな。
待つこと数十分、アイズがドアを開けて出てきた。
頭には王冠を、肩に赤いマントを羽織り、その手には身長を超えるほどの錫杖を持っていた。
その立ち姿は、まさに魔帝王にふさわしくかっこよかった。
あぁぁぁ、何故ここにカメラが、リアルカメラがないんだぁぁぁぁかっこよすぎぃぃぃぃ!!
心の中で嘆きながら、何とか心のカメラに納める。
「アイズ様、よくお似合いです。」
「すまない、開錠に時間がかかった。」
ジェルドの肩を叩き、アイズは笑いながらマルスとエイルに近づいた。
不思議そうな顔の二人に、すっと差し出したのは手紙のようだった。
「父上から、私達宛の手紙だ。」
「ッ!!」
マルスが受け取り、中身を開く。エイルも下からのぞきこむように中身を見る。
私はさすがにのぞくのは無粋と判断して、アイズに向き直る。
「無事、錫杖を手にしたんですね。」
「ああ、何もかも君のお陰だよ。ありがとう、アネモネ。」
アイズから普通に名を呼ばれてドキッとした。
「いえ、使命の内です。」
私はそれを慌てて笑ってごまかした。それを気にせずにアイズはやや真剣な顔つきに変わった。
「アネモネ、君とたくさん話したいことがあるんだ。ただ、これから魔帝王として忙しくなりそうだから、今、手短に話そう。」
アイズはすっと私の目の前でひざまづき、手を胸に置いた。
「偉大なる主神の御使い様。このご恩、命と魂をかけてお返しします。」
ふぇぇぇぇぇ!?なにこの展開ィ!?
心の中でパニックになる私をよそに、アイズは真剣な眼差しで私を見上げる。
「ですが、私はこのアッシャルダを担う魔帝王。お返し出来ることは少ない。それをどうか、ご容赦頂きたい。」
「ふぁ、ふぁい。」
思わず間抜けた声で返してしまったが、小声だったのか誰も気に止めてないようだ。
「さて、積もる話は後程にしよう。ジェルド、この後だが──────。」
アイズは何事もなかったかのように立ち上がり、ジェルドと何か話し合いを始めた。
あ、あふぅ、イケメンにあんなことされてキュン死するかと思ったぁ。
何とか心を落ち着かせてると、マルスとエイルが私に近づいてきた。
次はこっちのイケメンとイケショタか!
「アネモネ様、私からも感謝申し上げます。」
涙で赤く目をはらしながら、エイルが丁寧にお辞儀をした。
「貴女のおかげて、父上の遺してくれた言葉を、知ることが出来ました。」
「俺からも礼を言う。アネモネが鍵をアイズ兄上に渡したからこそ、この手紙を見ることが出来たんだ。」
二人から礼を言われて、私は何だが嬉しくてはにかみながら気にしないで、と言う。
アイズはそんな二人の肩を叩き、アレックスとジェルドはアイズを含めた兄弟達に見守るように微笑みながら、三人にこの後の打ち合わせをし始めた。
「これで、解決かな。」
私は肩にいるライガを撫でながら、その光景を見つめて呟く。
「アネモネ。」
隣に立っていたノインが、そっと私の頭を撫でた。
「頑張ったね。」
「むぅ、なんか嬉しいような子供扱いされたような。」
『ははっ。確かにノインの旦那から見たらアネモネはよちよち歩き出した赤ん坊だろうな。』
「ライガまで言う?」
私はようやく大きな出来事が終わった実感を得て、心の底からホッとした。




