いざ、未来に紡げ 2
開始と同時に私は動いた。
両腕を交差して両手に魔力をためる。広げると同時に詠唱する。
「"聖雨"ッ!」
広げた腕を追いかけるように野球ボール位の光の玉がいくつも浮かび、矢の形に変わって射出させた。
出たのを確認したらすぐに、石の床に右手をつける為にしゃがみこむ。左側へ手を滑らせ、床に弧を描きながら詠唱する。
「"聖波"ッ!」
右手を追いかけるように、光の壁が床から溢れ出ると、アイズに向かって波のようにうねりながら動き出す。
さらにそれを見ながら、両手を天に掲げて詠唱する。
「"聖球"ッ!」
両手のすぐ上にバレーボール3つ位の大きさの光の玉を浮かべて、両手をアイズに向けるとやや遅めのスピードで動き出した。
「おおおっ!!」
魔力壁の向こうの人達から歓声が上がった。
アイズは表情を動かさずに、だんっと床を踏みつける。
「"氷壁"ッ!」
アイズの目線ギリギリの高さで、氷の壁がアイズの前の床から生える。
「迎え撃てッ!"氷雨"ッ!」
氷の壁から氷の矢が射出され、私の光の矢を打ち消すようにかち合い、霧散した。
矢を打ち出した氷の壁の高さが下がるが、光の波はその氷の壁と波が打ち付ける音ともにぶつかって、ビキビキっとヒビが入った。
そして、上空から向かってきた光の玉にキィッと睨み付けたアイズは片手をそれに向ける。
「"氷槍"ッ!」
片手から放たれた氷の槍が、光の玉を貫くと同時に消滅した。
壁の向こうの人達が魔法合戦にざわざわし始めていた。
「驚いたよ。君がこんなに連続で魔法を放てるとは。」
アイズはパンパンと服を払いながら、私に話しかける。
────余裕だなぁ、まだまだいけるみたいだね。
「数打ちゃ当たる戦法です。」
「ふふ、面白いことをいうね。次の手はあるのかい?」
アイズの言葉に私は勿論、と答えてから構える。
「ないので、続行です!」
それだけ言って片手をアイズに向けて詠唱する。
「"光槍"ッ!」
野球のバット程度の太さの光の槍が、真っ直ぐとアイズに飛んでいくのを見てから、私は次に何を使うかを意識したその時。
『アネモネッ!正面ッ!』
ライガの叫びにハッと前を見れば、いつの間に放ったのか氷の矢が近づくのを捉えた。
「ッ!」
無意識に左腕を顔の前にかざす。反応して盾が現れてガツッっと防げたが、それよりもいつの間に周囲に雪が降っていたことに驚愕する。
「そろそろ、始めようか。」
アイズが足元までの高さになった氷の壁に足をかける。踏み潰すように足に力を込めた後に詠唱を始めた。
「"氷嵐"ッ!」
バギンっと踏み潰された氷の壁が、バラバラに砕けて欠片が空中に舞い上がった。
直後、その欠片と共に暴風が私の正面から吹き荒れた。
「うわぁっ!」
盾で風と氷の欠片を防ぎながら、アイズを視界から外さない。
『大丈夫か!?アネモネ!』
『あー、ビックリしたぁ!まさか、詠唱なしで飛んでくるとは思わなかった。』
『気を付けて。』
ライガもノインも心配そうな念話を送ってくるが、私はビックリしただけでまだ余裕が持てていた。
寒さが一気に襲いかかり、洋服や腕に霜がまとわりはじめる。魔力壁で欠片や吹雪が向こう側には届かないものの、寒さは防げないようで寒さを訴えて暖を取り出す外野。
私も寒さがひどくて、たまらずマントに体温調節を念じると、マントが暖め始めてくれた。
最早アイズの姿も声もわからなくなる猛吹雪に、私は次の手をどうするかを考える。
視界は一気に悪くなり、荒れ狂う風に身動きが取りづらくなった。
────まずいな、どうしたものか、な?
ふいに右側から気配がしてそちらに向くと、巨大な氷の塊が私に向かってきていた。
「ふぇっ!?」
思わず回避すると、その後ろから細々とした氷の玉がいくつも飛んで来ていた。
「あっちも数打ちゃ当たる戦法!?」
『くっそ、視界が悪くて居場所わかんねぇし、さみぃしっ!』
「ライガ、マントに掴まって!」
私は吹雪の中、飛んで来る氷の玉や矢、床から這い出る柱を回避しつつ、アイズを探して魔力探知をしながら走り回る。
が、魔力から察すると、アイズはこちらの位置を把握しながら見つからないように移動しているようだった。
「鬼ごっこかよッ!」
『いや、この場合は吹雪鬼。』
「んな遊びあってたまるかぁ!」
ノインの念話に突っ込み入れてから、私は一旦立ち止まった。
『そろそろこっちも始めちゃうか。』
吹雪の中、私はふぅと息を整える。
アイズは急に立ち止まった私になにかを警戒しているようで、立ち止まっている。
私は、ニヤリと笑って魔力を感じる方を見る。
「"霧散"。」
静まり返った玉座の間。
あの吹雪と寒さが嘘のように消え去ったこの状況を、誰もが理解できずに固まっているようだった。
「何が、起きた?」
気づけばかなり近くにいたアイズが、呆然と私を見つめている。
「いやぁ、さすがはアイズ様。お強い。」
私は若干からかいを交えた褒め言葉を口にする。
「本当にお強いので、私も本気にならないと。」
アイズが嫌な予感を察知して、再び構えだした。
「覚悟、してくださいね。」
とびっきりの笑顔を向けたあと、私は右手にバレーボール大の光の玉を浮かべる。すぐにそこに炎をまとわせると白い炎があがる光の玉が出来上がった。
「ッ!」
誰もが予想してなかったようで、一気に向こう側の人たちはざわめきだした。
「"聖火"ッ!」
アイズに向かってそれを放り投げると、弾丸のような速度で飛んでいく。
困惑していたアイズは、慌てて左へ回避する。
「"石縛"ッ!」
石造りの床からとらばさみが現れて、アイズの右足をガッチリ捕らえた。
「なッ!」
アイズが驚いて足元を見た瞬間に、私は右手をアイズにかざす。
「風鞭ッ!」
右手から放たれた風の鞭がしなり、アイズを絡めとる。両手を体に固定させて身動き取れないように捕縛した。
「くっ!」
「はい、確保ー。」
私はニヤニヤしながら、アイズに歩み寄っていく。
その間にも、外野がざわざわと騒ぐ声は大きくなっていた。
「なんと、加護をもっていたのか!」
「しかも、四つも属性を持っている!二つあった前魔帝王の倍だぞ!」
声が徐々にアイズなら私への期待に変わり始めた。
やがて、アイズを見下ろせる位置まで近づいて、私は立ち止まった。
「────君は、何者なんだ?」
足を床に捕まれ、風の鞭で捕縛されてなおアイズは冷静に私を見上げている。
────やばい、イケメンは縛られてもイケメンだわ。変な性癖が芽生えそう、同人誌にありそうな状況だわ!ヤバい、ヤバいよぉ!
と妄想が花咲そうになるのをグッとこられて、私はアイズに笑って話しかける。
「旅の冒険者、ですよ?」
「ッ!───君は、まだそんなことを言うのかい?」
「まぁ、間違いじゃないですからね。」
頬をかきながら私は答えるが、アイズは顔には出さないが、怒りのオーラが漂いだす。
「さて、アイズ様。」
私はアイズを見下ろしたまま、話を続ける。
「魔帝王を諦めてくれませんか?」
「断る。命と魂をかけても諦めたりはしない。」
「まぁまぁ、とりあえず話を聞いてくださいよ。魔帝王になるのだけ、諦めてくれればいいんですよ。」
私の言葉に、アイズのみならず他の人たちまでもが困惑した声があがる。
「私は魔帝王の地位だけあればいいんです。あとはぜーんぶ、アイズ様にお任せします。」
「なッ!」
「政治とか面倒なことはアイズ様が自由にやってください。私は楽して贅沢三昧するつもりなんで、国庫は私以外は使用禁止です。」
私はさも楽しく話してみせる。ただ、演技だとバレバレなくらい不自然な笑いしか出来ない。
やっぱり私にはこの役回りは無理かもー。
「アイズ様は市民のために存分に政治をしてください。市民を想うアイズ様ならきっ────。」
「ふざけるなっ!!!」
ぶわっと怒りを表すように冷気と氷の粒が巻き上げて、アイズは吠えた。
「貴様のような愚か者が魔帝王になれば、この都市は破滅する!それだけは絶対に許さないッ!」
バキバキバキ、と拘束していた風の鞭や足のとらばさみが、凍りついては崩れていく。
先程よりも冷気が増し、アイズは怒りMAXで私を睨み付ける。
ひぇぇぇぇぇこわぁぁぁぁぁぁっ!!!!
尋常じゃない殺気と冷気に、飛び上がるくらい怖くて後退りしたいが、
『アネモネ、頑張って。』
『そうだぜ、アネモネ!演技が無駄になっちまうぞ!』
と必死に応援するノインとライガに励まされて、何とか笑みでこらえる。
「貴様に甘んじれば、ダルクの二の舞だ!私は傀儡に成り下がらないッ!」
「なら、続けますか?ちなみに言っておきますが、私は全属性を保持し、この世界に存在するあらゆる魔法を熟知してますよ?」
「そんなことで引き下がるかッ!私は!私は!父上のような、いや!父上を越える魔帝王になるのだ!」
アイズは沸き上がる冷気を一気に私に集中させる。
「あぁぁぁぁぁーーーーーっ!」
気力も魔力も、そしてその強い想いすらその冷気に込めて放たれた。
やがて、私にぶつかった冷気は塔のように上に巻き上がった。
アネモネ『あばばばば、寒い寒い寒い!』
ノイン『結界張ったから大丈夫。』
アネモネ『寒さは防げないんですかね?』
ノイン『うん。』




