希望を胸に戴く 6
「──────嘘だろ?」
思わず素の言葉で返すアレックス。
「最初は俺もそう思ったよ。だが、初対面でダルクの邪法を見抜いたし、兄弟であることも、離れた場所から邪法が使われたことも察知した。」
マルスはアレックスに私達のことを説明してくれたが、予想通りの反応だった。
「そ、それは研究者だからではなくてか?」
「違う。例え研究者でも邪法をかけた相手までわかると思うか?」
「ノインはライガの魔法道具を作ったなら、可能なのでは?」
とアレックスはなかなか信じてもらえなかった。
まぁ、これが普通なんだろうけど。
私はふぅとため息をこぼす。
「アレックスさん、魔法の適応属性って一人ひとつですよね?」
「ん?あ、ああ。そうだな。」
「じゃ、見てて下さいね。」
と私はふわぁと光の玉を手のひらに浮かべる。アレックスはふむ、と光の玉を見つめる。
私はそこに炎をまとわせた。
「ッ!─────加護を持っているのか!」
アレックスの驚きにも反応せずに、私は続けざまに闇の玉を浮かべる。
「えっ、ええええっ!?」
さらに闇の玉に水を纏わせたり、小さな竜巻を浮かべては小さな石を纏わせた。
「──────。」
最早フリーズして何も言わなくなったアレックスに、マルスがなぁ?と肩を叩いた。
そこで我に返ったアレックスが、ようやく認めてくれたようだ。
「疑ってすまなかった。」
「普通は信じられないですから、仕方がないですよ。」
生み出した魔法を消して、私は肩をすくめた。
「なるほど、神の御使いならば納得だな。それで、前魔帝王から託されたのがさっきの巻物と鍵なんだな。」
「そうです。私としてはアイズ様が魔帝王にふさわしいかを見極めてから渡したいと思ってます。が、簡単に膝をつくようなら私が魔帝王になりますので。」
「それで、あの言葉だったのか。」
テント前のことを思い出したのか、アレックスは神妙な面持ちで頷いた。
「そうなったら、アイズ様と結婚して宰相になってもらって王政はお任せします。私は象徴的魔帝王として、行事や必要最低限の政務しかしないつもりですから。」
「!?」
「今まで20年間王政を支えてきた大臣達をそのまま採用して、引き続き同様に進めてもらい、最終的にはアイズ様に承認してもらえばいい。これで次の魔帝王が現れるか、君主制にするかは大臣達とアイズ様が決めてください。」
私の話にアレックスは唖然としつつも真剣に話を聞いてくれた。
「君は、なんというか、いい人過ぎるよ。」
アレックスは深いため息の後に、寂しげだが優しい笑みを浮かべた。
「そこまでしてもらって、私達は何も返せないのが悔しいよ。」
「いいえ、充分ですよ。少なくとも、私は満足してますから。」
満面の笑みで答える私に、アレックスは何度も頭を下げて礼を言った。
「君が魔帝王になったら、私は全力でサポートしよう。アイズ様も君の気持ちを知れば、協力してくれるだろう。」
「いや、それ以前にアイズ兄上がアネモネに負けることはないからな。」
アレックスの言葉にマルスが被せるように自信ありげに答えた。
「何を言ってるんだ、マルス。アネモネは御使いだぞ?いくら君の兄だとしても、加護持ちには太刀打ちできないんだぞ?」
「アレックス、母上がよく言ってたじゃないか。加護だけでは魔帝王にはなれない、と。」
マルスがアレックスにやや澄ました顔で話す。もしかして、母親の真似かな?
「知識や人望、カリスマ性。アッシャルダ王政を支え、誰よりも市民を想うアイズ兄上なら問題ない。」
「マルス、それって私にはそれがないって言いたいの?」
「ああ。」
「即答ッ!?酷くないッ!?」
私はがおーっと両手を猫の手みたいに構えて、威嚇するもマルスはニヤニヤするのみ。
「────そうだな、一つの考えに固執していけないな。」
アレックスは思い直したようで、私達に笑った。
「姉さんはそうやって考え付かないことをやってのけた。魔帝王の側室にだって、なんだって。」
マルスのお母さん、どんな人だったんだろうか?話だけ聞いてるとすごい破天荒というか、次元が違うというか。
「はぁ、わかったよ。アイズ様を信じるよ。勿論、アネモネが魔帝王になっても大歓迎さ。」
「ありがとうございます、アレックスさん。」
ようやく話が落ちついた頃に、部屋をノックする音が響く。アレックスがドアを開けるとギルド員らしき人が話しかける。
「アネモネ、そろそろ始まるそうだ。先に会場で待っているよ。マルス、向こうの準備が終わったらまた呼びに行かせるから、アネモネと共に来てくれ。」
「ああ。」
「じゃ、アネモネ。また会場で。」
軽く手を振ってアレックスは部屋から出ていった。
静かになった部屋の中で、私は緊張がこみあげそうになり、テーブルに置いた紅茶を飲み干した。
「アネモネ、これ食べる?」
とノインが差し出したのは小さな木箱。彼が蓋をとると色とりどりのキャンディらしき丸い小さな玉が見えた。
「食べる!」
ピンク色のを取って、口にいれるとイチゴミルク味でほっこりした。
「ノイン、俺もいいか?」
珍しくノインに聞くマルス。ノインも嫌がらずに木箱を差し出していて、マルスは遠慮なく緑色のキャンディを取って口にした。
「ん、うまい。」
「何味?」
「これは、メロンか?」
マルスの問いに頷くノイン。ライガもくれ、と念話で伝えてきたので、ノインは薄桃色のキャンディをライガにあげた。
『あまぁ。人間ってこんなうまいもん食うんだな。』
ライガもご満悦にキャンディをモゴモゴしている。普通の猫にはあげられないけど、ライガは大丈夫なんだね。
「何味あげたの?」
「桃。」
「あー、後でそれほしい。」
「俺にも頼む。」
そんなやり取りが当たり前のように続くうちに、緊張はどこかにいっていた。
それを黙って見守るように、気づけば二人のイケメンと一匹の猫は笑っていた。




