希望を胸に戴く 4
しばらくエリアの整備や魔力壁の調整が入ったのち、第二試合が始まった。
「お待たせしました!第二試合!クロイア・レーベル様とベゼルズ殿だ!」
両者がエリアに移動する最中でも、解説者と司会者の会話は続く。
「クロイア様は"黒の魔女"と謳われる通りに、闇属性であり、ベゼルズ殿もまた魔力測定と面談で闇属性だということです。これは同じ属性同士の対決になります。」
「今までの祭りでは同属性同士の対決はいくつかありましたが、闇属性同士は今回は初めてです。中々見られない対決になりそうですね。」
そんな話を聞いたか観客もざわつきが広がっていった。
「へー、そうなんだね。」
私は感心しながらエリアにいる二人を見る。
クロイアは帽子をかぶり直したり、ローブをチェックしたりと余裕の態度。
ベゼルズはいつも通りの佇まいだが、明らかに敵意をクロイアに向けている。
「では、試合開始ッ!」
開始と同時くらいに動いたのは、クロイアだ。
「闇茨ッ!」
杖を振るった先から黒色の茨が伸びて、ベゼルズに迫る。ベゼルズは避けることなく茨にまとわりつかれた。
両手両足、胴体にからみついた茨は体に食い込むのか、血が少し飛び散った。
観客がクロイアの魔法が決まったのと、痛々しい茨にざわつく。
「あら?抵抗しないのね。」
クロイアも予想外だったのか、笑みを浮かべて甘くささやくようにベゼルズに言った。
声をかけられたベゼルズは、茨に痛がりもせずにただあの不気味な雰囲気で笑い続ける。
「生ぬるい。」
やっと喋ったベゼルズの言葉と共に、黒色の茨はぶくっと膨らんだ。
「ッ!」
クロイアはすぐに警戒体制になる。ベゼルズにまとわりついた黒色の茨は、何倍にも膨らみピクピクうねりだした。
ビュッと鋭い音を立てて、膨らんだ茨が鞭のようにクロイアに向かっていった。
「"霧散"ッ!」
クロイアが杖で茨を振り払うように叩くと、茨は砂のように崩れて消えていった。
自分と同じ属性の魔法であれば、打ち消しや逆に利用したりすることが出来る。
ベゼルズもクロイアも共に闇属性であるので、互いの魔法を干渉しやすいのだ。
ただ、ベゼルズは茨を利用した上で何倍にも強化した。
一方、クロイアは利用することなく霧散させることにした。
「厳しい戦いだね。」
「うん。」
私の呟きに、ノインは頷いた。
「貴方、すごいわね。私の茨を乗っ取っちゃうなんて。」
「─────良い。」
ベゼルズは呟くと、そこから雰囲気が一変した。
「良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良い良いィィィィィィィィ!!!!!!!!!」
突如、ベゼルズが声を荒げて叫びだした。クロイアもだが、この試合を見守る全ての人間が恐怖感に体を震わせた。
「素晴らしいッ!これだけの質が良く、強い闇魔法士は久しぶりだッ!」
ベゼルズは狂喜の声をあげて天を仰いだ。
「な、なんなの?貴方。」
「ぜひ、ぜひ"体感"させてくれェェェェェ。」
後半の声が気持ち悪いゴボゴボと音と混ざりながら、ベゼルズがクロイアに向かって駆け出した。
「気持ち悪いわよッ!下がりなさい!"闇球"ッ!」
さすがのクロイアもひきつった顔で杖を向ける。杖の先からクロイアの体がすっぽり入る位の大きさの黒い球体が生み出されて射出された。
ベゼルズはまともにそれを食らったかと思うと、その黒い球体に包まれてしまった。
「えっ?」
クロイアも予想外なのか、それを見つめて立ち尽くす。
ボコッ、ボコッ。
黒いきれいな球体が、水が沸騰するように沸き出し始めた。
「ッ!」
隣のノインが何か察知したと同時に、球体が激しい吹き出す音を立てて割れたかと思ったら、クロイアに向かって黒い波が襲いかかった。
「"影走"ッ!」
クロイアは何かを唱えたが、黒い波が襲いかかっていく。勢いが止まらず魔力壁に当たり、大きく反り返った。
「な、何が起きたんだぁ!!?」
司会者の叫び声が聞こえたかのように、黒い波は反り返った後に空気にとけるように消えていった。
エリア内に残ったのは、うつ伏せに倒れたベゼルズと、すぐ近くで佇むクロイアの姿だ。
「あっとー!これは一体何が起きたんだ!?審判!ジャッジを!」
魔力壁の外で待機していた審判が、司会者の指示で魔力壁を解除し始める。
魔力壁が消え去ったと同時に、クロイアが崩れるように倒れた。
「あっとー!クロイア様も倒れたッ!タンカー!タンカーを二つ!」
慌てたように司会者が呼び掛け、タンカーが二つ運ばれて、クロイアとベゼルズがそれぞれ乗せられていく。
「えー。両者気絶、状況が判別不能のため、第二試合は運営側で審査します。結果は後程発表させていただきます。」
ざわざわと観客が騒ぐ中で、ノインは何やら厳しい顔に変わっていた。
「ノイン?」
「嫌な気配がする。」
私が聞こうとした時に、アナウンスが流れた。
「第三試合を開始しますので、参加者は運営テントまでお越し下さい。」
いよいよ私の番が回ってきた。
「アネモネは試合に行って。」
私が呼び止める間もなく、ノインは客席からさっさと移動していってしまった。
『アネモネ、行こうぜ。ノインの旦那がさっきの奴等を見てくるなら大丈夫だろ?』
「────そう、ね。」
ライガに促され、私は運営テントへ向かう。
運営テントにつくと、慌ただしく動き回る魔法士ギルド員の中にマルスの姿があった。
「アネモネ、ノインはどうした?」
「さっきのが気になるって、見に行ったよ。」
「そうか。なら、ある意味安心だな。」
マルスはそう言うと、私に腕輪を差し出した。試合中につけるあの腕輪型の魔法道具だ。
「ゴーンドはまだ来てない。今のうちに説明をしよう。」
今回の試合の審判をするマルスから、試合中の注意事項を聞く。
「武器は魔法発動具以外はこちらで預かる。その指輪を発動具にしてあるから、銃は出すなよ。」
「はーい。」
腰の絆の短剣と長剣を預け、代わりに受け取った腕輪型の魔法道具を着けた辺りで、解説者と司会者の恒例解説が始まった。
「期待の魔法士ギルド特別顧問のアネモネ殿は、測定と面談では光属性とのこと。一方の賢者ケルトの子孫であるゴーンド殿は火属性。相性面では両者互角になりますね。」
へぇ、ゴーンドは火属性か。どんな魔法が出てくるのか楽しみだな。
「なお、アネモネ殿には従魔がいます。フォレストキャットのライガですが、攻撃には参加せず魔力供給のみ行動が許されております。」
『へっ、念話出来ることまではわからないだろうな。アネモネ、頑張ってな?』
『うん。一人じゃないのが支えになるよ。ありがとう、ライガ。』
ライガの頭をなでると解説が終わり、ようやくゴーンドがドスドスと傲慢な態度で歩いてきた。
「ゴーンド殿、武器を預かります。」
「ハンッ!見ればわかるだろう?持ち込んでいない。アッシャルダの王子の目は節穴揃いか?」
ゴーンドの言葉に私は知ってたことに驚いた。
「小娘ェ、試合中にヒィヒィ鳴かせてやるから、覚悟するがいい。」
「そちらこそ、血筋に見合う対応でお願いします。化けの皮、剥がれますよ?」
負けじと言い返すと、詰まったゴーンドは唾を吐き捨ててそっぽを向いた。
「両者、再度確認を願います。"降参"するか魔力壁に当たったら負けになります。よろしいですか?」
「壁に当たる前に、小娘が泣きわめくのが先だがな?」
「公平な審判をお願いしますね。」
マルスは頷いた後に、司会者の方を向いて合図を送った。司会者はゴホンと咳払いした後に、マイクに話しかける。
「長らくお待たせしました!第三試合、アネモネ殿対ゴーンド・ブロンクス・ヤーデルダンド殿の入場だ!」
私は胸を張ってエリア内へ入る。ふと振り返ると運営テント内にアレックスとノインの姿を見つけて、笑みを浮かべてこちらに手をふって応援しているようだった。
それに私は笑みで返して、立ち位置につく。
真っ正面にはゴーンドが今か今かと、指を鳴らしていた。
「では、試合開始!」




