希望を胸に戴く 3
大盛り上がりの舞台から下りて、私達は待機テントに戻されると思いきや、舞台袖で対戦方法やルールの説明を再確認させられた。
「対戦トーナメントは運営テントの横に掲示したので、各自確認をお願いします。待機テントか会場付近でお待ちいただくように。呼ばれて数分で来ない場合は棄権とみなします。」
と話しているのはマルスで、手元の資料を読み上げている。
「では、時間の都合で初戦はこちらで発表します。第一試合はライト殿とアイズ殿になりますので、このまま会場へ向かいますのでついてきてください。」
読み上げた資料を畳むと、ライトとアイズを会場へ連れていくマルス。軽く目があったので私は笑みで返すと、マルスも同じく笑みで返してきた。
参加者各自は、バラバラに移動していく。
私はひとまずノインと合流しながら、トーナメント表を見に行くかな。
ライガを下ろして、私はノインのいる先程の客席に向かった。
『殺気と歓声が入り交じった異様な空気だな。』
ライガは周囲を見回しながらそんなことを念話で呟いた。
「緊張で気にしてる余裕なかったけど、確かにすごい空気だよね。」
『お、ノインの旦那が来たな。』
ライガが行き交う人の中から、ノインを見つけて近づいた。
「お待たせ。」
ノインはライガを抱き上げると、私に近づいた。
「トーナメント表はどこかな?」
「運営テントのとこ。アネモネの次の相手はゴーンド。」
「うげ、あのおっさんか。」
そう言いながらトーナメント表の目の前に移動する。途中、応援されたり握手を求められたり、花や飲み物をもらったり、さらには求婚されたりしたが、求婚以外は全部対応していたら時間がかかった。
トーナメントは大きな紙に描かれていた。6人で魔帝王の椅子を狙う形になり、トーナメント表は分かりやすかった。
私は第三試合でゴーンドと、その前の第二試合はクロイアとベゼルズだ。
「嫌な相手同士がぶつかったね。ラッキー。」
と言いながら、すぐ近くの賭場らしきカウンターを見る。
「賭けは合法なんだね。」
「うん。」
チラッと自分の賭けの具合を見るが、賭け事自体はよくわからないので、肩をすくめて視線を外した。
「アネモネ、賭けるの?」
「ううん、気になっただけ。さ、アイズ様の試合を見よっか。」
私達は第一試合が始まる試合会場へ向かう。
「さぁ!さぁ!いよいよ第一試合が始まるぞ!第一試合はライト・ブランダー対アイズ・フォラレ・ルーデルダントだ!」
会場にはすでに司会者と解説者が、ライトとアイズについて語り始めていた。
「ライト殿は測定と面談では地属性とのこと。魔法士ギルドではかなりの実力者として知られています。一方の、アイズ様は"氷雪のアイズ"と呼ばれ、皆さん知ってるとおもいますが水属性です。ライト殿の不利が予想されます。」
解説者がそんな話をしながら、試合開始を今かと待っているようだ。
私はノインが見つけてくれた客席に座ると、試合会場を見回す。
柔道の試合で使われるエリアよりも広く、戦うエリアの四隅には柱のようなものが立っている。
確かあの四隅の柱は魔力壁を発生するもので、試合で発生した魔法が観客等に被害がいかないように試合開始と同時に発動するらしい。
あの魔力壁のエリア内で"降参"するか、"壁に触れたら"負けというルールだそうだ。
万が一死亡するような魔法を食らった場合は、それを肩代わりする腕輪型の魔法道具を試合前に身に付けるらしいので、命の保証はされている。
その腕輪型の魔法道具には、魔力量を目で確認できる機能もあり、端から見ても分かりやすい仕様なんだそうだ。
まぁ、私はマルスが手続きしちゃったからどうなってるかわからないのよねぇ。
「では、準備が整ったようですのでお呼びしましょう!第一試合、ライト殿とアイズ様です!」
名前を呼ばれて両者がエリアに入っていく。審判らしき男性が、注意事項を話すと二人は同時にうなずいた。
審判がエリアから出た瞬間、透明な魔力壁が張られた。透明度の高いガラスのように、うっすら壁を確認できる。
「では、試合開始!」
試合の最初はライトが先制した。
「"水晶柱"ッ!」
地面からきらびやかな水晶柱がいくつも生え、アイズの足元にも生えたが、彼はバックステップでかわした。
「"水晶矢雨"ッ!」
続けざまに水晶の柱から水晶の矢が生まれ、一斉にアイズへ向かって発射された。
「"氷嵐"。」
アイズは自分の身を包むマントに氷を纏わせて、回転や振り払いで水晶の矢を弾き落とす。
「出たーッ!アイズ様の氷の舞だーッ!」
「きゃあああ!!」
どうやらアイズがよく使う手らしく、客席にいる女性陣はまるで舞を舞うように防御する姿に黄色い悲鳴が上がる。
「へぇ、あんなやり方があるんだ。」
そんなことよりも、ライトの生み出した柱から矢を出すことやアイズのマントを使って防御することに興味が沸く。
いや、イケメンが戦うのも眼福だよ?心のカメラに動画で収めてるよ?
「魔法は想像。アネモネなら出来る。」
「でも、このマントではやりたくないなぁ。」
肩のマントをそっと触ると、バンクルやマントが少し光って暖かくなった。何となく礼を言われた気がする。
ライトはひたすら水晶の矢をアイズに浴びせる魔法を繰り出している。制御が難しいのか、スタートしてから一歩も動いてない。
アイズは後退やマントでの振り払いながら、出方をうかがっている様子だった。
『ん?なんで金ぴか動かねぇんだ?』
『足元。』
ノインの言葉で私とライガが、ライトの足元を見ると足の鎧ごと、凍りついていた。
「あっとー!アイズ様はいつの間に魔法でライト殿の足を封じていたぁ!」
司会者もようやく気づいたらしく、マイクに向かって話し出した。
ライトは冷や汗を拭うことなく、挑戦的な笑みを浮かべているが必死なのは明白だ。
柱から矢が出てくる量が少し減った辺りで、アイズはすぐそばに魔力壁が迫るほど後退していた。
「ライト殿の水晶矢でアイズ様に壁が迫るぞ!さぁ!さぁ!どうするー!?」
「ウラァァァァァッ!」
ライトは魔力を振り絞って水晶矢を一点集中させたその瞬間。
─────アイズが動いた。
「こ、これは、何があった!?」
司会者の声が震えている。状況の把握が出来ずに観客もざわつき始めた。
エリア内には水晶柱がぼろぼろと崩れていく中、ライトがひっくり返っていたのだ。
アイズはマントを翻しながら、余裕の態度で水晶の欠片を払っていた。
なぜこの状況になったのか、他の人たちは見えなかったようだが、私にははっきり見えた。
アイズがあの一瞬でライトに向かって拳の中で生み出した水弾を放ち、見事に頭にヒットしたライトがひっくり返る姿を。
頭だけ濡れたまま倒れているライトは失神しているかピクリとも動かないので、解説者も司会者も困惑している。
「ア、アイズ様。一体何をされたんですか。」
思わず司会者がアイズに問いかける。
「何、圧縮した水弾を放っただけだよ。」
「───す、すごい!すごいぞ!アイズ様の動きは一瞬すぎて見えませんでした!あまりの早業にライト殿は失神したため、続行不能!この試合はアイズ様の勝利ですッ!!」
うわぁぁぁ!と歓声があがった。
この試合はアイズの勝利と認定され、司会者が支持してタンカーを持った二人組がエリアに入っていく。
ライトがタンカーに乗せられて運ばれるのを確認して、アイズは観客に手を振りながら待機テントへ去っていった。
『あのマルスの兄貴、すげぇな。』
ライガは感心した様子で、耳がピンッと立っていた。
「確かにあれは勝てる気がしないかも。」
私は素直にアイズの凄さに感服した。
冷静に状況を見据えて、最良の手で勝利を掴む。
────私にも同じことが出来るだろうか。




