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希望を胸に戴く 2

「まさか、君が参加するとは思わなかったよ。」


アイズは和やかに軽食や飲み物を口にして、私に話しかける。


「事情がありまして。」


と笑みで濁しながら、私も飲み物を口にする。


「なるほど。聞かないでおくよ。」


アイズはあっさりと引いてくれたので、私は少しホッとして気を緩めた。


「君と当たらないことを願いたいね。」


本心なのかはわからないが、アイズは苦笑したまま軽食を口にする。


───────?


何やら視線を感じて意識をそちらに向けようとしたが、その前にライガは念話で語る。


『あの帽子のヤツ、嗅いだことあるな。』


『ん?ということは、私が会ったことある人よね?』


頭を捻って会ったことのある女性を思い浮かべる。


『─────ああ、いたわ。』


該当する人物に思わず心の中で納得した。


『わかったのか?』


『まぁ、もし対戦したら教えるよ。』


私は念話でそう返すと、ぐいっと飲み物を飲み干した。


「参加者の皆様、お待たせしました。どうぞ、会場へお越し下さい。」


テントの向こうから声がかかる。呼ばれてテントから出ると目の前にいたのは、アレックスだった。


「ッ!アネモネ!?なんで君が?」


「あれ?マルスから聞いてませんでしたか?私も参加するんですよ。」


「えっ!でも、それは。」


私のすぐ後ろからアイズが出てきたので、アレックスは続きを言えずに黙った。


「アレックス殿。どうぞ、公平に頼む。」


それだけを言うと、アイズはマントをなびかせて会場へ向かう。

すぐ後ろには真っ黒魔女が、当然のように歩いていく。


「アレックスさん。」


テントの出入口から少し離れた場所にアレックスを誘導して、話を続ける。


「別に私は魔帝王になるつもりはないですよ。アイズ様の露払いです。」


「だけど、それは。」


「もう一人、いるから?」


私の言葉に、アレックスは驚いて見つめる。


「それ以外にも事情があって。まぁ、あとはマルスから聞いてください。」


「わ、わかった。ほ、ホントに君は魔帝王になるつもりはないんだね?」


アレックスはホッとした後に、念を押すように問いかけた。


私はそれに、意地悪な笑みを浮かべた。


「さぁ?事情が変わったら、なるかもしれませんよ?」


「ッ!」


アレックスが何か言いかけたところで、私は優雅に一礼してから会場へ向かう。


『アネモネ、いいのか?』


『アイズ様次第だもん。濁した方が面白いかなーって。』


『ははっ!違いないなっ!』


ライガものってくれたので、笑いあったまま会場へ向かう。


「さぁ!そろそろ挑戦者がやって来るぞ!心の準備はいいかぁ!?」


「うおおおおおお!!!!」


会場が揺れる程の熱気に、私は震え上がった。


『うわぁ、無理かもしれない。』


『大丈夫!大丈夫!えっとぉ、てやっ!』


ライガが一鳴きすると、会場から聞こえていた声が小さく聞こえるようになった。


『ノインの旦那から、必要なもの以外は意識しないようにする結界の貼り方を習ったんだぜ!どうだ?』


ライガの言うとおり、あれだけ騒がしかった歓声が小さいが、それを煽る司会者の声は普通に聞こえている。


『すごい!ノイン、ライガ、ありがとう!』


お礼を念話で返すと、二人は照れ臭そうに笑っているようだった。


「先程の人気投票順に登場してきてもらおう!まずは闇魔法士!ベゼルズ!」


舞台袖で待機してる私達の中からのそり、と男女すら不明なローブのヒトが動き出した。


すぐ近くを通りすぎた瞬間に、私はなにかの違和感を抱いた。


『どうした?アネモネ。』


ライガが抱っこした私の胸元で問いかけた。


『なんだろ、今の人。なんか、布のようなものを全身に背負ってるような。』


『確かに変な臭いはするな。』


ベゼルズと呼ばれたローブのヒトが舞台に上がっても、ざわつく程度で歓声は聞こえなかった。


「ベゼルズさん、意気込みをお願いします!」


司会者からマイクを向けれたベゼルズは、ローブの向こうから声を搾り出すように喋り出す。


「闇魔法の、真髄を、お見せしよう。」


ぞわり、と誰もが背筋に悪寒が走っただろう。ベゼルズはニヤニヤしたまま、司会者のマイクを押し退けた。


「さ、さぁ、つ、次をお呼びしましょう!」


何とか気を取り直した司会者は、次の名を呼ぶ。


「お次は噂の勇者一行の子孫!賢者ケルトの血筋を継ぐ貴族、ゴーンド・ブロンクス・ヤーデルダンドだ!」


歓声は小さいがそれなりのもので、やはり勇者一行の名は伊達ではなかったが、


「ちっ、なんだぁ?アッシャルダの国民は頭足りてねぇーのか?」


と愚痴りながらも、ゴーンドは舞台に上がる。ゴーンドの姿を見た舞台下の観客は拍手と喝采でもてなした。


『名前にすがるようなヤツを王と認めるかよ。』


『まぁ、ネームバリューは大事だから。』


『ね、ねーむばりゅ?』


ライガに意味を伝えている中でも、ゴーンドはいかに自分が魔帝王にふさわしいかの高説を、司会者のマイクを奪ってまでも語り続ける。


やがて、司会者が時間、と告げて押し退けた。中途半端な高説にさせられたのに、ゴーンドは不満げにズカズカ歩いて後退した。


「さて、お次は同率だ!観客の層を鑑みて、先にレディを紹介しよう!旅の冒険者でありながら、魔法士ギルド特別顧問を勤める"白の希望"アネモネだー!」


──────なんか、盛られてる。


思わず舞台袖から見える運営テントのマルスを睨むと、当の本人は隣で爆笑しているアレックスとニヤニヤしながらこちらを見返した。


──────くっそ、あとで覚えてろよぉ!


仕方がなくライガを肩に乗せて、優雅に歩く。舞台に上がり、手を振りながら中央の司会者の横に立つ。


「名前通りの可憐な美少女が来たぞぉ!さ、アネモネさん。意気込みをどうぞ。」


マイクを向けられ、私は心臓が跳ね上がる。でも、肩のライガと客席にいるノインが念話で応援してくれているのが嬉しくて笑えた。


「参加できたことを誇りに思います。とても緊張していますが、精一杯頑張らせて頂きます。」


私の言葉に沸き上がる歓声。


こんなに歓声を浴びたことなんてなかった。罵声や暴力はあったけど、相手から好意的に応援されたりすることなんて、皆無だった。


私は沸き上がる気持ちに胸を手で押さえながら、瞳を潤ませて笑ってみせた。


「コメントも謙虚でイイッ!どうもありがとうございます!」


司会者に促され、私はゴーンドの前を通りすぎてベゼルズを挟んだ位置に立つ。


憎々しい顔で睨む人の横には立ちたくなかったし、先程の違和感が気になったのでベゼルズの横に移動した。


「フフ、フフフ。」


相変わらず不気味な雰囲気で近づきづらいが、やはり先程感じた違和感は隣に立って濃く感じた。


『ノイン、私の隣にいるベゼルズって人をどう思う?』


『────取り憑かれてる。』


ノインは客席から睨むようにベゼルズを見ているようで、重い言葉を返した。


『ただ、今は敵意がない。』


『確かに無差別にやるなら、さっきのでやってるよね。』


『気をつけて。』


ノインの忠告を胸にしまって、司会者の話に耳を傾ける。


「では次の同率の一人を呼ぼう!会場のレディたちよ、待たせたな!金色の髪、金色の甲冑!その美しさに負けないほどの美形の魔法士!ライト・ブランダー!」


先程ウィンクした金髪イケメン────ライトが会場に上がると、黄色い悲鳴が上がる。ライトもまた優雅に手を振りながら歩く。


司会者がライトにマイクを向けて決まりきった台詞を投げる。


「意気込みをどうぞ!」


「私はこのアッシャルダに生まれた市民。アッシャルダの市民を代表して参加を決意した。新しい魔帝王は市民の気持ちを知るものがなるべきだ、と私は思っている。」


ライトはまるで新人の議員候補のような演説を語ると、天に手を伸ばして握る。


「アッシャルダの為に、全力を尽くして見せよう!!」


きゃあああ!っと黄色い悲鳴が混じる歓声が遠くて聞こえた。

あ、黄色い悲鳴は邪魔と判断された模様。


「ありがとうございました!では次をお呼びしましょう!」


司会者に促され、ライトはゴーンドの横に移動した。

何やら二人がしゃべってるようだが、司会者や歓声で聞き取れないので、気にせずに前を向く。


「"黒の魔女"と謳われ、アッシャルダ王政を支えた側近の一人であり、"大魔女"の妹でもある実力者!クロイア・レーベルだぁ!!」


先程の歓声よりも大きな声がクロイアを迎えた。


先程見せなかった口元のベールは外され、帽子を片手にモデルのように歩いて舞台に上がった。


司会者も慣れたように一礼してから、意気込みを聞き出す。


「わたくしは今までのアッシャルダ王政を知るからこそ、安定したこの平和を維持し、守りたいと思ってますわ。どうぞ、よしなに。」


クロイアはそう言いながら、司会者に目配せする。

司会者もわかっているのか、すぐに引き下がって進行に切り替えた。


クロイアは私の前を通りすぎながら、私に話しかけてきた。


「貴女が参加するとは思わなかったわ。ごめんなさいね、挨拶もしないで。」


最初に会った時の敬語もなく、どこか見下したような口調だったので、ムッとなる私。


「いえ、気になさらず。」


「アイズ様を魔帝王にしたいのよ。貴女は協力してくれるわよね?」


クロイアは拒否するなら容赦しない、そんな雰囲気で私に賛同を求めた。


「────貴女には協力しない。」


私は正面を向いたまま、クロイアに言った。


「あら。まさか、ホントに魔帝王の椅子がほしいの?」


そんな問いには答えず、わざと正面を向いたまま笑みを浮かべた。


「──────貴女は、敵ね。」


静かな、微かだがそれだけで殺してしまうような重い言葉を吐くクロイア。


「お好きにどうぞ。」


私はライガを撫でながら、敢えてそれだけ口に出して伝えた。


こんな会話の中、司会者は最後の一人を呼ぶ前に、観客を盛り上げていた。


「さぁ!さぁ!心の準備はいいかぁ!?最後の一人を呼ぼう!我らがアッシャルダ、前魔帝王のご子息!第二王子!アイズ・フォラレ・ルーデルダント!!」


これまでで一番大きな歓声と熱気が、一人の男に集中した。


その本人は、静かに会場の熱気を和らげるような冷気を放ちながら、舞台に上がってきた。


「偉大なる前魔帝王のご子息が、我々の期待に応えてこうして挑戦者として参加して下さった!」


司会者のボルテージも少し落ち着き、アイズはいつも通りの笑みで、観客に手を振っている。


王族の余裕というべきか。


「アイズ様、意気込みをぜひ!」


アイズにはマイクを手渡そうとする辺り、明らかに他の挑戦者と違う司会者の対応。


「気を遣わなくていい。私も今回は皆と同じ挑戦者だ。同じ態度でかまわないよ。」


アイズもマイクで会話が聞こえているのをわかった上での口振りだった。


「し、失礼しました!では、改めて、意気込みをお願いします。」


「────そうだな。それよりもまずは前魔帝王や私の兄弟の病死のことを話そう。」


その言葉で、会場から歓声がやんだ。


「アイズ様。」


横のクロイアが止めようと声をかけたが、アイズは目配せしたので、クロイアは引き下がった。


「皆、昨日の放送には驚いたと思う。正直、ついこないだまで健在だった魔帝王が病死したのが、疑わしく思うだろう。当然だと思う。」


この場にいたアイズをのぞく全ての人たちが、沈黙をもって話の続きを待つ。


「こうなってしまったのは魔帝王の遺言だったからだ。自身や兄弟が病に臥せっていることを、完治するまで公表することをせず、厳重に秘密にするように言われていたのだ。」


ざわつく観客に、アイズは話を続ける。


「魔帝王は最後まで密かに病と戦い、この祭りの挑戦者と戦い、強き魔法士に王位を明け渡すことを望んでいた。結果は虚しく、天界へ旅立たれてしまった。」


会場から悲しむ声や涙ぐむ声が聞こえ始めた。アイズの言葉を信じているようだ。


「今までの父上の功績や実力は、皆知っての通りだ。その誇り高き父上が望むような魔帝王の誕生を、見守って欲しい。」


アイズはマイクを口元から話すと、深々と頭を下げた。その瞬間、会場からアイズの名を呼んで止めさせようと声が上がった。


しばらく下げた頭を再び上げ、アイズは高らかに声を張り上げる。


「私自身も、魔帝王に挑むものとして死力を尽くすと誓おう!」


歓声が波のように膨れ上がり、アイズを迎え入れた。

カリスマ性は充分だったようだ。


「皆さん!新しい魔帝王の誕生を見守ろうではないか!」


盛り上げる会場に、アイズは笑みを浮かべて片手を上げて対応する。


もしこれが人気投票だったら、アイズに決まったようなものだが、これからが本番だ。


私はライガを撫でながら、アイズの背中を見る。


────さて、未来の魔帝王は誰になるやら?


アイズ「魔帝王に、俺はなる!」


アネモネ「あうとー!」

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