確かな絆と 7
イヤーカフの件で舞い上がってる私は、るんるん気分で出店を見て回る。
串焼きやクレープ、フルーツソーダの店を順に回り、お腹を満たした。
「やっぱりお祭りで食べるものって、なんか違うよね。」
「美味しかった。」
ノインも満足げにうなずくと、ライガも一鳴きして賛同しているようだった。
ふと、出店を見て回る中で異彩を放つ店が目に入った。
「いらっしゃいませぇ。」
まるでショップの女子店員のような声を聞きながら、店をのぞくとここはカラフルな布や刺繍の施された布地、レース素材やビーズ細工などが施された布地が並ぶ、生地を扱う出店のようだった。
私は流れるように目に入ったレースと刺繍の生地を手にすると、先程の声の主である女性は説明を始める。
「お客様、お目が高い!こちらの生地は服飾の街シュリアから仕入れた最高級品ですわ!」
服飾の街にも驚いたが、その街の名前を聞いてさらに驚く。
シュリアの名前が付いた街があるんだ。
驚いて生地を見つめる私に、女性は話を続ける。
「こちらの生地はシュリアの腕のたつ職人達の手作りでして、魔力を込めた糸と針で布地に施されたものですわ。刺繍もさることながら、レース自体もかなりの技術で縫い込まれたものです。」
熱のこもった女性の説明を聞きながら、私は可能な限り広げて眺める。
シルクのような手触りの生地に、白をベースにした淡い水色が乗る糸で、刺繍やレースは丁寧に縫い込まれていた。
私の髪の色と一致するのもあるし、手触りも気に入った所で、ハッと閃いた。
「ちょ、ちょっと待ってて下さい!」
私は一度店から離れ、別の出店を見ていたノインの肩を叩く。
「ノイン、相談があるの。」
嫌がることもなく振り返るノインに、こそこそと小声で話し始める。
「さっきのマルスの提案のことなんだけど。」
私が考えていた内容を伝えると、ノインは少し考えた後に頷いた。
「アネモネ、それ、いいね。」
「あっちの布地が欲しいんだけど、一緒に見てもらえる?」
私はノインと共に、再び布地の店へ戻る。女性は私の顔を見るとにこやかに微笑む。
「ノイン、これなんだけど。」
と先程の布地を見せると、少し眺めたあとにノインは頷いた。
「うん、いいと思う。」
「あと、このビーズとこのベールは合うかな?」
「アネモネはセンスがいい。似合うと思う。」
と店の中の布地を広げたりしながら、ノインと先程の提案内容を練る。
互いに意見が一致した辺りをみて、女性はとても満面の笑みで私達に言う。
「以上でよろしいですか?」
「ええ。いくらになります?」
「総額は金貨12枚ですね。」
相当の高級品を選んだらしく、私はノインをチラッと見るが、ノインは何故か嬉しそうに、でもそれを隠すように笑いながら、さっと支払った。
「お買い上げありがとうございます!」
女性は全力で嬉しさをアピールしながら、私達にお礼を言った。
ノインが先程の店が気になるらしく、さっと布地を受け取ったら、あそこにいると言いながら離れていった。
私もついていこうかと思って歩き出した際、女性から呼び止められる。
「こちら、サービスです。」
と渡されたのは、白いアネモネが大きく飾られた髪飾りだった。
「えっ、ああ。ありがとうございます。」
髪飾りを手渡され、ありがたく受け取ると女性はほぉ、と惚けた顔で私を見る。
「愛されてるんですねぇ、羨ましいですわ!」
「──────ふぇ!?」
女性の衝撃発言に、私は思わず情けない声をあげた。
「あ、いや!彼は仲間で、恋愛云々というわけじゃなくて!」
「えっ?そうなんですか?選んだものがベールに髪色とお揃いの布地でしたので、てっきりご結婚かと思いました。」
そこまで言われて気づいた。
確かに選んだものを見れば、そう見えなくはないかもしれない、と。
結婚、と言われて私は茹でたてのタコのように真っ赤になり、慌てて顔をおさえる。
「ち、違いますッ!それは結婚ではなくて!そ、そう!べ、別の事で使うんです!」
「あら、そうでしたか。失礼しました。」
悪気もなく、むしろニヤニヤされながら言われたので、慌てて頭を下げて店を後にした。
が、そのままノインのところには行けないので、ノインが向かった店の近くでライガに頬擦りしながら落ち着くのを待つしかなかった。
ノインの用事も終わる頃、私も落ち着きを取り戻した。
「お待たせ。」
「ううん。何買ったの?」
かなりの量の袋を抱えて帰ってきたので、ノインに聞いてみると、中身を見せてくれた。
「これはライガのスカーフ強化に。これはさっきのイヤーカフの加工に。これはアネモネに。」
と差し出されたのは、虹色に輝く真珠のイヤリングで、金色の細工は波のように真珠を包むデザインで可愛いというよりは、大人なデザインだった。
「似合うと思う。」
それをいつも通りに受け取ろうとして、先程の女性の言葉を思い出して、またぼっと燃え上がるように顔を赤くした。
「あ、ありがとう。」
何とか気持ちを押さえ込んで受けとる。ノインは突如真っ赤になった私にきょとんとした後に、とても心配そうに私を見る。
「大丈夫?真っ赤。」
「あ、いや、その。だ、大丈夫!風邪とか体調不良じゃないから!」
ノインはそう?と心配そうだが、チラッと布地の店を見た後にすぐ元の無表情に戻る。
「何か言われた?」
「えっ!?ああ、言われた、けど。わ、悪いことじゃなくて。」
「怒ろうか?」
ノインは何かを勘違いした様子で、布地の店を睨んだ。私は慌ててその間に入りながら、ノインに話す。
「違う違う!結婚と勘違いされたの!」
「─────誰と?」
「あの状況で他の人の名前が出ないでしょ!ノインとの結婚を勘ぐられたの!」
私の言葉にノインはしばらく無表情で私を見つめた後、
「そう。」
とあっさりと背後を振り返って、歩き始めた。
─────あれ?なんか一瞬にして興味なくしたみたい?
私はあまりにもあっさりとしたノインに、呆気にとられて固まった。
「な、なぁんだ。私だけか。」
頬をかきながら私も歩き始める。
ノインと結婚出来たら幸せかも。とか思ったけど
相手が興味なかったら、意味ないしね。
良かったような、悪かったような。
どっちつかずな変な気分にモヤモヤしつつも、私はノインの後を追いかけ、合流した私はメリルの陽風屋に向かう。
部屋に入ると、ライガは満足そうに伸びをした後にベッドの枕元で丸まった。
「眠たい?なら、ライガはお留守番ね。」
と撫でると、チラッと私も見上げたあとに顔を伏せて寝に入った。
私はノインと、本日二度目のエレルドへ向かった。
行き先は、勿論。
「アネモネ様!わざわざご足労頂き、ありがとうございます!」
メイド服を着た服飾の属神、シュリアの所だ。
「いえ、私から急ぎの用件をお願いするなら直接話したいので。」
と挨拶を済ませてチラッと周囲を見回すと、まさに服飾の工房だった。
整列された棚の中に、色とりどりの布の筒がビッシリと並び、糸は糸巻きにまとめられて棒に刺して並べられている。
ミシンや縫製等の機械類らしきものが部屋のあちこちに整列されていた。
シュリアの近くにはマネキンが数体並び、それぞれが形が違う服を着させられていて、すぐ近くの大きなテーブルには型紙が何枚とタワーのように積み重なって見える。
「ノインから伺っています。失礼ながら私から我らが偉大なる主神に報告させて頂き、幾つかの助言を賜りました。」
「えっ!そうなんですか!?まだ私から話してなかったのに。勝手に決めちゃったこと、怒ってませんでしたか?」
「いいえ!そんなことあり得ませんわ!」
シュリアが両手を握りこぶしにして、私に力説する。
「むしろ、良いアイディアをありがとうと伝えてくれ、と言われたのですよ!」
「あ、そう?あとで一応手紙を送るけど。」
私は頬をかきながら、シュリアを見る。
「アネモネ様の手紙を、とても楽しみにしていらっしゃいましたよ。」
「そ、そう?変な文章になってたから、読みにくかったんじゃないかな。」
「それを含めて、我らが偉大なる主神はアネモネ様のこれからが楽しみらしいですよ。」
シュリアはふふ、と笑いながら話す。
主神さん、まるで子供の成長を見守る父親みたいだね。
「さて、話を戻しますわ。こちらでいくつかのパターンをご用意しました。ご参考下さい。」
「ありがとう。シュリアさんの作るもの、楽しみです!」
シュリアはこれからのことを思ってか、私に満面の笑みで答えた。




