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心は素直に 2

街道から外れて草むらを突き進む内に、足元の草がなくなり、ゴツゴツの地面と石だらけに変わる。


なだらかな坂を登り、見えたのは断崖絶壁。


ライガはぴょんぴょんと壁にある小さな足場を登り始めたが、私達が足をかけれる程はなかった。


「飛ぼう。」


ノインが私に手を差し出す。一瞬、ドキッとしてからおそるおそる握った後、ノインはふわっと浮き上がった。


「宙に浮くイメージを。」


言われた通りにホバリングするようなイメージで地を蹴ると、ふわっと浮き上がれた。


「わっ、わわ。」


人生で浮き上がる感覚なんてエレベーター位しかなかったので少し慌てるが、ノインはしっかりと手を握って落ち着かせてくれる。


「大丈夫、上手。維持して。」


ノインが先頭で空へ浮き上がり、少しづつ上昇する。ライガは先に着いたのか、上の方から鳴き声がする。


やがて、ねぐらの出入口らしき広い足場に近づくと、むわっと異臭が鼻に来て顔をしかめた。


「これも、死臭?」


「うん。」


足場に着地すると、ますます匂う死臭に片手で口と鼻を覆う。


下を覗くと先程いた地面が小さく見えて、かなりな高さに出入口があったのがわかる。


フォレストキャットは山の高い位置にある横穴や洞窟にねぐらを構える、と百科事典に書いてあったけど、ホントにそうだった。


視線を戻すと、ノインが中を確認してるようで中を覗こうとしたが暗すぎて見えなかった。近づくとノインが手で制してきた。


「かなりの死体がある。気分が悪くなるよ。」


「大丈夫。グロ画像は見慣れてる。」


私がそういうと、ノインは一呼吸した後に手のひらに魔法で明かりを生み出して浮かべた。


明かりに照らされたのは、フォレストキャットとマッシュカウの死体。どれも激しい戦闘の後で欠損や傷が目立った。


少し数が多かったせいか気持ち悪かったが、ぐっとこられたらすぐに収まった。


「かなり数があるね。」


パッと見た限りでも、フォレストキャットが6匹、マッシュカウが5匹の死体がある。


すると、出入口付近のフォレストキャットに、頭をすり付けるライガが目に入った私はライガに近づいてその横に座り、背中を撫でた。


「お父さん、かな?」


ライガにそう聞くが、じぃっとフォレストキャットの前で座り込んだまま動かなかった。


「そうだ、って。」


ノインが通訳してくれ、私はそっか、と呟いた。そして、両手を合わせて冥福を祈る。

ライガのお母さん同様に、心の中で念じるとライガは私にすり寄った。


「大丈夫、ライガは私が守るからね。」


思わず抱き上げて、ぎゅっとするとライガは嬉しそうに鳴いた。


「アネモネ。」


ノインに呼ばれて、ライガを放すとそちらに向きいて返事をする。


「どのマッシュカウも"魔法による干渉"をうけてる。」


「魔法による干渉?」


「うん、邪法。」


邪法、と言われて意味合い通りなのか解らずに首をかしげるとノインが説明してくれた。


この世界では生命の魂・心・体を操る治療以外の魔法は邪法として、最大のタブーとされてるらしい。ちなみに魔法でない方法、つまり、話術による洗脳は問題ないらしい────いや、充分問題な気がするがノイン曰く、それは絶対に抗えない訳じゃないらしい。魔法は強制力が強すぎるので、タブーなんだそうだ。


「つまり、マッシュカウはそのタブーである魔法で操られてたの?」


「うん。狂暴化させられてた。」


私は顔をしかめる。だから、温厚なマッシュカウが生き物を食い散らかすほどの異常行動に出てたのか。


「酷い。その魔法かタブーなら、きっと使い手は少ないはず。探せないかな?」


「使い手ならわかる。」


────なんで分かるかは考えないで、とりあえず、さすかみっ!


ノインは目を閉じて瞑想したのち、すぐに思い当たったのか、目を開いた。


「地図を。」


腕輪から地図を取り出しノインに見せると、とある場所を指差した。


そこはイズリールから神山を挟んだ先にある大きな都市だった。触ると文章が浮かび上がり、人口数とみられる数は10万を越えていた。


「魔帝都市"アッシャルダ"。代々、強い魔法使いが王になる国。」


「アッシャルダ、ね。」


「イズリールから神山を迂回したら1日で行ける距離。」


地図にはイズリールからアッシャルダまで大きな街道があり、それ以外にも神山の端を登山する山道がイズリールの森に続いていて、私達が歩いたあの街道に繋がっている。


位置を確認した地図を腕輪にしまってから、私はんーっと考える。


「やった人間がいそうな場所がわかったけど、このことをどうやって報告するの?」


「これを持ってく。」


ノインは一つのマッシュカウの死体に手をかざすと、マッシュカウがふっといなくなった。


「証拠で出す。」


「そっか、でも死体なんかで大丈夫?」


「生きたまま連れ帰れない。」


そりゃそうだ、ごもっともな意見に私は素直に頷いた。


「持たせちゃってごめん。」


「大丈夫。それより。」


ノインの明かりがねぐらの奥に通路を照らし出した。


「こっちに道がある。」


人が二人くらいは通れる幅に、高さも問題がない程度の通路だった。


先程ライガが使った足場はフォレストキャットなら利用できそうだけど、マッシュカウには厳しいんじゃ、と思ってた。やっぱり、別に通路があったのね。


「行ってみようか。」


「うん。」


「でもその前に。」


私は通路からフォレストキャット達の死体に向き直る。


「火葬だけでもしてあげたい。」


「自分がやる。通路で待ってて。」


ノインは私とライガが下がるのを見ると、両手に白い炎を灯した。


不意に通路から風が入ってきて、私達が入った出入口へ吹き抜けていく。これを利用して、邪魔にならない程度に風を魔法で起こして、ノインに灰や熱がこないようにしよう、と魔法で風を維持する。


ノインはふとこちらを見て、微かに笑って見せたので私の魔法に気づいてるようだ。


白い炎がフォレストキャットとマッシュカウの死体を焼いていく。焼かれた死体はすぐに黒くなりふっと風に乗って散っていった。


一瞬、マッシュカウだけ解体してもらおうか悩んだが、洞窟内とはいえ1日放置されたマッシュカウを食べる気にならなかったので、何も言わずに見送る。


ライガは足元で灰になっていく仲間たちを見送っている。その背中を撫でながら、私はライガと共に冥福を祈った。

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