心は素直に 1
翌朝、ライガに顔をなめられて起こされたが、窓から朝日が射して、気持ちよく目が覚めた。
「んー、そっか。ノインは隣の部屋だわ。」
いつもは起きたらいるノインの姿がなかったので、少し戸惑った。
ぼーっとしていたが、ライガが私の寝間着を引っ張り出してベッドから渋々出た。
洗面所に向かい、顔を洗ってケアをした後、昨日のうちに決めた今日の服を着る。
薄い黄色の盛り袖ブラウスに白のピタッとした長袖。柔らかい素材の動きやすい白のレギンスに、濡れにくい素材の靴下。
靴も飾りの一切ないスニーカーにした。
髪型は編み込みにし、団子にまとめた。
今日はマッシュカウの異常行動の調査で、戦闘もありえるので、フルアーマーでも違和感なく動けるようにこんな服にした。
「よし。」
マントを邪魔にならないように短い丈のポンチョにし、剣を二振りを腰に構えた。そして、ベルトに触れて鎧を装着した。ヘルムと足は装着せず、腕と胸元だけにした。
一通り姿見でチェックしていると、コンコン、とノックが聞こえた。
「ノイン?入ってきていいよ。」
ガチャとドアが開いて、ノインが入ってきたので出したもの全てを腕輪にしまってから、ノインに近づいていく。
見ればノインも濃い紫の鎧を着ていて、バッチリ決まっていた。
「うん、ノインは鎧も似合うね。」
「アネモネも。」
二人で誉めあって、私は部屋に見回して問題ないのを確認してる間に、ライガが昨日の蝶ネクタイをくわえてノインに返していた。
ノインはライガの行動に驚いたが、どうやらあの二人特有の無言のやり取りがあったようで、ライガを撫でながら、礼を言っていた。
そんな光景を視界の端でクスッと笑いながら、三人で部屋を出た。
しっかり鍵を閉めて階段を下ると、ローレンスがカウンター越しに声をかけてきた。
「おはようございます。」
「お部屋、ありがとうございました。」
私達が鍵を返すと、ローレンスは満面の笑みで受け取った。
「朝食のご用意は出来ております、どうぞ。」
レストランへ向かって歩いていき、昨夜と同じ席に座った、テーブルにはすでにパンやサラダ、スクランブルエッグが用意されていた。
足元にいたライガは、すでに用意されていたごはんを食べていた。
「頂きます、は?」
ライガにそういうと、首をかしげて私を見たが、またガツガツと食べ始めた。
「ちゃんと言ったよ。」
ノインがライガを見た後、そう教えてくれた。
「ふふっ、偉い偉い。あーあ、私もライガと会話できたらなぁ。」
「ライガとアネモネ次第。」
「ホント?」
ノインの言葉に私は聞き返すと、
「二人の信頼、成長次第。」
と簡潔にのべた。視線がテーブルから外れないところからすると、早く食べたいんだなぁと察した。
「とりあえず食べましょうか。頂きます。」
私がそういうとノインも頂きます、と呟いて黙々と食べ始めた。
この世界に来てからの食事を口にしてると、今まで食べてたご飯が寂しかったのがよく分かる。
食べれれば充分の食事から、栄養と味を気を付けた食事に変わってる。
─────きちんとした食事って、必要なんだなぁ。
改めて美味しい食事が食べられることに、私は心の中で感謝した。
朝食を満喫して、早速向かおうと話した直後にカウンターにいたローレンスが近づいてきた。
「ローレンスさん、朝食も美味しかったです。ありがとうございました。」
「いえ、こちらこそ。無理のない範囲でマッシュカウを頂ければ助かりますので。」
すると、ローレンスはすっと竹細工の箱2つ、そして、やや小さめの箱一つを重ねて差し出した。
「これは心付け程度ですが、昼食にお召し上がり下さい。」
「えっ、いいんですか?」
私が言いながら手を出したが、ノインが代わりに受け取り、二人で頭を下げた。
「にゃあぁ。」
肩にいたライガが一鳴きして、ローレンスはきょとんとした顔をした後、笑みを深めた。
月猫亭を後にし、異常行動するマッシュカウの目撃のあった、"神山の端"付近に向かう。
門から出る前に、見張りをしている兵士に声をかけて、一応行く場所を告げておく。
ノインが行こうか、としか言わなかったので、黙ってついていく。門や街が見えなくなった頃、ようやくノインが歩きながら、この後どうするかを話し出す。
「昨日のところに行く。」
元々口数少ないノインの言葉を聞いて、なんとなく察して話を繋げる。
「うん、そっから痕跡を辿るのね。」
私達よりも先に歩いてはしゃぐライガを見つつも、昨日歩いたばかりの街道を遡る。
やがて、マッシュカウを倒した場所近くにつくと、ノインは迷うことなく街道を外れて草むらを突き進む。
入ろうか悩んだ辺りで、ライガが走り出した。
「あ、待って。」
二人が向かった方向には、太ももまでの高さの草が生い茂っていた。私は鎧を足の部分まで装着し直してから草むらに入った。
ノインとライガを追いながら、草を踏みしめて歩く。
ふと前の二人が止まったので、慌てて近づくと異臭がして、咄嗟に片手で口と鼻を覆う。
「アネモネ。無理なら近づかなくていい。」
ノインが忠告したが、そこからライガが動かないことから、何があるが察した。
「いや、行く。」
私は勇気を出して、口から手を離して近づいた。
そこには一匹のフォレストキャットの死体だった。
────異臭の正体は、死臭か。道理で気持ち悪いわけだ。
フォレストキャットの成人した姿を見るのは初めてになる。
猫というよりは、豹に近かった。ただ、手足の太さは虎っぽい気がした。
「ライガの、お母さん、よね?」
「にゃあぁ。」
悲しげに鳴いて死体に頭をすり付けるライガの声で、私は黙ってライガの近くに座って、その背中を撫でた。
そして、両手を合わせて冥福を祈る。
─────これからが私がライガを守ります。幸せにします。
そんな見栄っ張りなことを心の中でいうと、ライガが私にすり寄ってきた。
「埋めてあげよう。」
近くの草むらを掻き分けて、地面に手を当てる。穴を開けるイメージをしながら魔力を込めると、ずぼっと音がして、大きな穴が開いた。
訓練した時に覚えた魔法の一つで、場合によっては落とし穴を量産できる!とはしゃいでたんだけど、まさかこんな利用方法に使うことになるとは。
腕輪から手首まである手袋を出して身につけ、フォレストキャットを抱き上げる。死体だから軽いのか、加護のおかげか、あっさりと持ち上がった。
そのまま、穴に入れてから土魔法で被せる。
手袋を水で軽く洗い、乾かしてから腕輪にしまった。
ライガは埋葬した穴からなかなか動かずにいるので、見守りながらノインに話しかける。
「見つけてくれてありがとう。」
「ううん。見つけたのはライガ。」
「そっか、最後のお別れをさせてあげれて良かった。」
ノインはこの会話中でもある方向を見たままだった。私は気になってノインの見ている方向を見ると、草原の向こうに神山の山脈の一部が見えた。
「ノイン、あの山に何かあるの?」
「多分、ねぐらがある。」
「ん?フォレストキャットの?」
ノインが頷いたのを見て、なら次はそこね、と話し終わった後、足元でライガが鳴いた。
私が座ると、ライガはすり寄ってきた。
「もう大丈夫?」
「にゃあぁ。」
改めてたっぷりと撫でてから、抱き上げてライガに話しかける。
「ねぐらの場所を覚えてる?」
私の言葉を聞いて、ライガは先程私達が見ていた方向を見た。やはり、ねぐらはあそこで間違いないようだ。
「行こう。」
ライガを再びおろして、足元に気をつけながら歩き出した。




