再び巡る想い出の道 5
目の前にいる魔人族の長ヴァッツと、私のことやツェルク達との出会い、捕まっていたヴァッツ達を助けてドラゴンズキャッスルに送り届けるまでの長話を、私はなるべく分かりやすく話した。
その中で、私が御使いであることやヴァーレデルド王国のムデルガルドの入れ替わり等と言った特別な話も重たくならない程度に話したら、
「そんなことが!」
とリアクションがまるでツェルクのようで、改めてヴァッツが彼らの父親であるのを認識した。
「───とまぁ、かいつまんで話せばこういう事情です。」
「そうでしたか。長話をさせて申し訳ない。」
「いえ、お気になさらず。」
途中、ノインが用意してくれた紅茶を挟みながら話していたが、ちょっと一気に話しすぎたかな。
「事情が複雑のようで、私達が御使い様に出来ることはなさそうで、居たたまれないが。」
「先程も話した通り、あまり気にしないで下さい。今後は龍人族とも連携して対応していきますから、出来ることだけで良いですから。」
魔人族の長である立場にいるヴァッツとしては、何かしら援助をしたいのだろうが、今はとにかく休息が必要なのは誰が見ても明らか。
だから、私は何もしなくていいよ、と念を押す。
「それに、ツェルク兄さんのお義父様に無理強いは出来ませんから。」
と改めて言うと、ヴァッツは照れ臭そうに頬をかいた。
「───その、貴女のような高貴な方に、お義父様と呼ばれるのが、なんだか申し訳なく。」
「あっ、嫌でしたか?」
「いやいや!とんでもない!あまりにも光栄すぎて。」
ヴァッツは再び顔を曇らせる。
「私のことはちょっと縁遠い親戚の子ぐらいに思って下さい。ツェルク兄さんはともかく、私はほぼ赤の他人ですから。」
と言いながら笑うと、ヴァッツは複雑そうな笑みを見せて返した。
「アネモネ、そろそろ。」
近くにいたノインが胸元から出した懐中時計をチェックしながら声をかけてきた。それに私がハッとシュヴァルツァからのお誘いのことを思い出した。
「そうだった!ヴァッツお義父様、シュヴァルツァお祖父様から昼食をご一緒しませんか?とお誘いを受けました。どうですか?」
さりげなくお義父様呼びしてみたが、ヴァッツは一瞬驚いた後に、頬をかいて私を見つめた。
「っ、良いのか、な?」
「勿論ですよ!最近会えなくて寂しいとお祖父様も言ってました。お祖父様はあの見た目ですが、かなりの寂しんぼさんなんですよ。」
「ふっ!───ははは、確かに。こちらに来てこの建物が出来るまで、毎日のように部屋に訪ねに来ていたな。」
ヴァッツはようやく明るい表情に変わり、踏ん切りもついたのか、元気を取り戻したようだ。
「では、行きましょう。お義父様。」
「しかし、今からドラゴンズキャッスルまでは時間がかかるのではないか?」
立ち上がって支度を始めたヴァッツがそう問いかけるが、私はそれを手伝いながら感じた気配に笑みをこぼした。
「大丈夫ですよ。もう一人、家族想いの兄が来たみたいですから。」
「えっ?」
ヴァッツが何かを問う前に、ノックの音が響く。ガチャっと部屋のドアが開かれた先にいたのは。
「───来たぞ。」
「ッ!」
ヴァッツは予想外だったようで驚いていたが、私は気配で確信していたので、ニッコリと笑って迎えに来た人物に声をかける。
「ガラード兄さん、わざわざ迎えに来てくれてありがとう。」
そう、ヴァッツのもう一人の息子であるガラードだ。
「───シュヴァルツァが、行けと。」
と照れ隠しに吐き捨てるように言うが、兄弟の契りを交わしてる私は分かっていた。
ガラードが自らすすんで迎えに来たことを。
「ふふ、ガラード兄さんは相変わらずだな。素直に言えばいいのに。」
「アネモネ。」
「きゃーガラード兄さんこわーい!モモ姉さんに言いつけちゃおー。」
「やめろ。」
と仲良しをアピールするように話しながら、ヴァッツの顔色を伺う。その彼はとても嬉しい表情を何とか堪えている様子だったので、さすが親子だなと感心してしまった。
「さ、お義父様。行きましょう。」
「あ、あぁ。ガラード、すまないが───。」
「黙って乗れ。」
ガラードは突き放すように言うが、声音がそこまで怖くない。反抗期が終わり始めた少年のような態度だった。
ふふ、本当に素直じゃないな。
私はヴァッツを手伝いながら、ガラード達と共にドラゴンズキャッスルに戻った。
「良かった、何とかお互いに進めたんだね。」
シュヴァルツァとヴァッツ、ガラード、私達の和やかな昼食会が終わり、ヴァッツを送り届けた後。
私の今夜寝泊まりする予定のゲストルームにやってきたミーゲルやサラ、モリスの三人とお茶会をしていた。
モモ、ガラード、シルトは騎士団の仕事として魔の森の警備があるらしく、今はドラゴンズキャッスルにはいない。
聞けば、あれからブラックトレントが一切見かけることはなく、魔の森は平和そのものらしい。
魔の森にあった獣人族の集落もマーシャットやドラゴンズキャッスルから行き来しやすくなった関係で、最近は頻繁に獣人族の出入りがあるらしい。
元々ちゃんと交流があった関係だか、ブラックトレントの増殖で止まっていただけで、かつての賑わいを取り戻したようだ。
「ついこないだ、神山を越えて南方の大森林から森人族が来て、今の魔の森の状況にビックリしてたよ。」
「えっ、南方の大森林から来たの?」
ミーゲルの言葉にタイムリーな話題だった為に私が食い付くように問いかける。
「うん。特に何もなかったけど、お祖父様との話では国が出来たからよろしくってね。」
「ネーヴィアンだっけ?」
「流石だね、アネモネは。彼らと僕ら、いつの間にか出来たんだ、位の交流だけどね。まぁ、森人族は自然環境の守護がメインであまり種族交流とかしないみたいだから、今まで上辺の付き合いだったからね。」
龍人族と森人族との関係はどうも薄いようで、私は何となくホッとしてしまった。
「さっきお祖父様に言ってた、悪魔族のジュリアスだっけ?それに関わってるなら、警戒するに越したことはないね。」
「うん、お願い。モリス姉さんも、取引するなら気をつけてね。」
「わかってるわ、アネモネ。ギルドには私から話してみるわ。」
ミーゲルは騎士団として、モリスは商業ギルドマスターとして、警戒してくれるのはありがたい。難しい話が続いて飽きたのか、サラが私の袖を引っ張り出した。
「ねぇねぇ、さっきじいじに聞いたけど、私達にはお土産ないのー?」
「こら、サラちゃん。」
先程の昼食会でシュヴァルツァやヴァッツには和国のお土産品は手渡していたので、サラはそれを聞いていたのだろう。
今までのクセでミーゲルがサラをたしなめると、私はその光景にふふ、と笑ってしまう。
「ちゃんと用意してありまーす。じゃーん!」
と言いながら、テーブルにお土産品を並べていく。
サラ達には赤珊瑚のお揃いのアクセサリーや、和国で美味しかった和菓子等を用意していた。
「食べていい?食べていい?」
早速お菓子に食いついたサラにどうぞ、と私が言うとパクっと練りきりを頬張ってご満悦になるサラ。
「サラちゃん。先にお礼でしょ?」
「んんんーん、んんんー!」
「口に含んだまま喋っちゃダメだよ!」
「ぶっ!ミーゲル兄さん、ってサラ姉さんのお母さんみたい。」
と楽しく会話が進み、窓から差し込む日差しはあっという間に日が傾いて夕日に変わっていた。




