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やりたいことを 2

草原の街道をちょうどよい日差しと気温で、体力を奪われることもなく、快調に進んでいく。


「何かいたりするかなぁ?」


と言いながら、サージュから貰った魔道書に載っていた、魔力を目の代わりにして、遠くを見通す魔法を使ってみる。


上手く成功して、高い位置から周辺を見回す。


「あー、街が見えた。まだちょっとかかるかな。」


「うん。」


「先にお昼食べた方が楽かな。」


私は魔法を解除したが、目がすぐに慣れずに瞬きを繰り返してようやく元に戻った。


「大丈夫?アネモネ。」


「うん。初めてやったからちょっと慣れないなぁ。」


ノインが心配そうにこちらを見て、私は大丈夫、と笑って返した。


「じゃ、あそこの木立がよさそうだから、座ろうか?」


と話しかけたが、ノインはある一点を睨んでいた。


同じ場所を見ると、何かがこちらに向かってくるのか、草が風とは違う舞い方をした。


私は右手の指輪に念じて、スナイパーライフルに変化させて構える。


スコープをのぞくと、背中に赤いキノコらしきものがついた四足歩行の姿が見えた。


「マッシュカウ。温厚なのに今は怒ってる。」


ノインが横で説明してくれたが、こちらに向かってきてる以上は、戦うべきなのか。


「っ!」


揺れた草の間からもう一匹、こちらに向かってきてる影を見つけた。


小さすぎて草に隠れていたので、気づくのが遅れた。


「ノイン、もう一匹いる。」


「ん、いた。フォレストキャット。まだ赤ん坊だ。」


赤ん坊、と聞いて納得した。あまりにも小さいから目視ではわかりづらかったのだ。


スコープで見えたフォレストキャットは、灰色の虎柄の仔猫と言っても間違いなかった。


あまりにも可哀想な状況に、私はいてもたってもいられずに、


「ごめん!ノイン、倒すわ!」


ノインの言葉を待たずに、マッシュカウの頭を狙ってスナイパーライフルに魔力を込めて連射する。


発射された弾丸はやや透明で狙いを違わず、マッシュカウの頭に数発当たり、マッシュカウがひっくり返る位の衝撃で到達した。


フォレストキャットは走り出した勢いが止まらずに転倒し、転がりながら地面を這いずった。


「大変!」


スナイパーライフルを指輪に戻し、慌てて草むらを掻き分けてフォレストキャットのいる場所へ向かう。


「アネモネ。」


ノインも草むらに入り、私の後を追う。


フォレストキャットは草むらの中から弱った鳴き声を出して、うずくまっていた。


見れば身体中、泥と傷だらけで酷い有り様だった。


「急いで手当てをしないと。」


私はフォレストキャットを抱き上げる。その体は成猫サイズよりもやや小さいが、逞しい手足が見てわかる。しかし、抵抗すら出来ないほど衰弱している。


「ノイン、回復魔法を教えて。」


「わかった。」


ノインは猫を抱きしめている私の手を支えるように触れた。


「感覚を掴んで。」


掴まれた瞬間にドキッと心臓が跳ねたが、状況はそれを待たずに進み、ノインに言われた通りに意識を集中する。


やがて、ほのかな温もりが手に集まるのを感じた。


「この感覚を、フォレストキャットに渡す。」


ノインの指示に従って、温もりをそのままフォレストキャットへ流すイメージをすると、みるみると傷が塞がっていった。


だが、起き出す気配はなかった。


「走りすぎ。寝かせて。」


ノインが私にそういうと、二人で一度草むらから出た。


「マッシュカウ、どうする?」


「あー、考えてなかったわ。」


私が困った顔をしてると、ノインはキラキラした目でこう言った。


「マッシュカウ、キノコも肉も美味しい。」


「解体できますか!?」


「任せて。余すところなくとる。」


ノインはやる気に満ちた顔で、大きめなナイフを片手に草むらへ入っていった。


解体をしてる間に、私はフォレストキャットを起こさないようにタンスからタオルを取り出した。


街道沿いにあった、腰を下ろせそうな大きな石に座ると、タオルを片手で握って魔法で水を産み出してタオルに含ませた。


冷たくないように体温程度のぬるめ湯にして、体の泥を拭き取ってあげた。


寝息が落ち着いたものになっていたので、ホッと胸を撫で下ろした。


しかし、ノインはこの子を赤ん坊といってたが、この近くに親がいるだろうか?


私は先程使った遠見の魔法で周辺を見回すが、草原が広がるだけまで見つけられない。


仕方がなく魔法を解除すると、ノインが何事もなく帰って来た。


解体したマッシュカウも、大きなナイフも持ってなかったが、しまったのだろうか?


「終わった?」


「うん。あと、親を見つけた。」


「えっ!?私、見つけられなかったのに。」


ノインは少し顔を伏せて悲しげに呟く。


「もう亡くなってる。」


聞けば、どうやらフォレストキャットの群れがマッシュカウを襲ったが、マッシュカウも同じく群れで対抗し、その戦闘にこの子供も巻き込まれて、逃げてきたらしい。


「そこまでわかるの?さすがはノインだね。そっかぁ、親もいなくなっちゃったか。」


「どうする?」


ノインに問われて、乾かしたタオルをフォレストキャットの体にかけてやると、私はんー、と考える。


「野生に返して大丈夫かな?」


「まだ子供。無理。」


「だよねぇ。」


フォレストキャットを撫でながら、私はノインを見上げる。


「あのー、ノイン?」


「良いよ。」


「はやっ!まだ何も言ってないじゃん。」


連れていきたい、という前にノインに先読みされ、あっさり許可をもらえた。


「ありがとう、ノイン。」


私が笑ってお礼を言うと、ノインも微かに笑って返した。


すると、太ももに寝かせていたフォレストキャットが身動ぎ出した。


視線を落とすと、フォレストキャットと目があった。


「起きた?」


声をかけたが、ふるふると震えたままフォレストキャットは私達を見て、周囲を見回している。


ノインが私の前で膝立ちになり、フォレストキャットと視線を合わせる。


互いに視線を交わした後に、そのままの姿勢でノインが私を見上げる。


「状況を説明した。」


「その無言のやり取りで!?」


私は思わず突っ込んだが、ノインは再びフォレストキャットに視線を向けた。


するとフォレストキャットが、私を見つめてゴロゴロと喉をならして、撫でていた手にすり寄ってきた。


「礼を言ってる。」


「そうなんだ。気にしなくていいのに。」


そう言いながらも撫でてやると、フォレストキャットも嬉しそうに頭を擦り付けた。


─────にゃんにゃん萌えぇぇぇぇ!


飼い犬のレンも可愛かったけど、猫もたまらんのよねぇ。


私がひたすらもふもふ撫でまくってると、ノインが立ち上がった。


「アネモネ、従魔契約。」


「ん?従魔契約って?」


「魔道書にある。」


私は太ももにフォレストキャットを置いたまま、腕輪から魔道書を取り出した。


魔道書をめくっていくと、真横に移動したノインがこれ、と指差しながら教えてくれた。


確かにそのページには、読めないが長い文章と、人の形と獣の形が線で結ばれている挿し絵がついていた。


「あー、やっぱり一部しか読めない。」


「相互承諾が必要。これは大丈夫。」


ノインが従魔契約のやり方を教えてくれた。


要は魔力ラインを互いに結び、魔物に名前を、人間に信頼を捧げると契約になるらしい。


「なるほど。名前かぁ。」


私はフォレストキャットを撫でながら、一生懸命頭の中で名前を探してみる。


「そういや、この子はオスなの?メスなの?」


「オス。」


ノインの言葉に、私はさらに名前の候補を絞った。


「よし、これで行こう。」


フォレストキャットを抱き上げて、私の代わりに石に座らせると、私が膝立ちになる。


「アネモネが魔力を送ってあげて。」


ノインの指示の元、私は体の中の魔力を両手からフォレストキャットへ送る。


するとフォレストキャットからも魔力を送ってきたらしく、両手に温もりを感じた。


「名前を。」


私はノインに向かって頷いた後、フォレストキャットを見た。


「君の名前は、ライガ。雷のように早く、全てを断つ牙をもつ、気高き獣になってね。」


私の言葉が終わると同時に、フォレストキャットと私の両手が光を帯びて、引っ張られた魔力が結ばれた感覚を感じた直後に、すっと光が収まった。


「にゃあぁ。」


ライガ、と名付けられたフォレストキャットは、私に飛び込んできたので、慌ててキャッチするがひたすら顔を舐め始めて、こらこらと宥める。


「うん、成立したね。」


ノインも近づいてライガを撫でると、今度はライガがノインに飛び込んで、顔を舐め始めた。


ノインも嬉しそうに撫でていた。


「これからもよろしくね。」


「にゃあぁ。」


草原の風が流れて気持ち良く、これがライガとの出会いを祝福してる気がした。

ぬっこかわいい。



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