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新しい世界へ 6

お茶タイムで気持ちが落ち着いたところで、私は立ち上がって背伸びした。


「よし、次は魔法訓練かな。」


とノインを見ると、正面見たまま固まっていた。


視線を向けると、そこには。


「いや、お二方。良い天気ですな。」


あのイケオジ、魔法の属神──サージュだった。


思わぬ相手に私はびっくりして、ノインの後ろに隠れた。


「はっはっはっ、すまない。驚かせてしまって。」


サージュは意地悪な笑みで、私にウィンクをする。私はようやく落ち着いて、ノインの横に立つ。


「いえ、大げさに驚いてすみません。」


私はニコッと笑うと、サージュも笑みを返した。


「失礼しました、サージュ様。」


ノインもすっと頭を下げて謝罪する。


「いやいや。魔法訓練をするようだったから、私でよければ教えようかと思いましてな。」


サージュは髭をさわりながら話し出す。


でも何故、訓練することを知ってるだろ?


「あ、ありがとうございます。」


「なぁに、気にしなくて良い。」


私が礼を言うと、サージュは優しく微笑んだ。


ノインも助かります、と頭を下げる。


「うむ。それよりも、ノイン。先程の戦闘訓練だが、少しやりすぎではないかね?」


サージュは真剣な眼差しで、ノインに話す。


「君も焦りすぎではないか?アネモネは戦闘とは無縁の世界から来ているんだ。いくら、知識があるとはいえ、無茶が過ぎる。戦闘なら君が総力をもって対処すればいいではないか?」


お説教が始まり、ノインは項垂れていく。


「ちょっ、ちょっと待ってください!」


私はサージュとノインの間に入り込むと、サージュを見上げた。


「あれは私がノインにお願いしたんです。にもかかわらず、怖じ気づいて。迷惑かけたのは私です。」


「アネモネ。」


自分が言い出したのを知ってるノインが肩を掴み止めようとしていたが、私は振り返ってノインを見る。


「ごめんね、ノイン。もう大丈夫だから。」


瞳が揺れ、動揺したままのノインに笑ってから、サージュの方へ向き直る。


「この世界で何ができるかわからないままでは、やりたいこともできないです。危険は承知です、やらせてください。」


「─────無理はダメですぞ、アネモネ。」


サージュがため息をつきながら、少し意地悪な笑みで私に言う。


「戦闘せずとも済むように、しっかりと魔法を教授させていただきますぞ。」


仕返しと言わんばかり、と笑うが私はサージュにお願いします、と頭を下げた。


横を見るとノインは複雑そうな顔でこちらを見ていた。


「ノイン。ホントに危なかったらよろしくね。」


「アネモネ。」


「大丈夫!出来れば一人でやれるようになりたいし、ノインはそれを助けてくれればいいんだよ。」


ノインは視線を落としたあと、すぐに真剣な眼差しで頷いた。






「では、魔法訓練を始めますぞ。」


サージュはどこからかホワイトボードを出してから、学者帽に指示棒を持って咳払いをする。


「この世界には、元素魔法という原点になる魔法があり、火、水、風、地、光、闇の6属性で構成されていますぞ。」


ホワイトボードには絵とともに属性の紹介がされていて文字の説明もあり、これがこの世界の文字なんだろうとわかる。


──────が、読めなかった。


「サージュさん、その。」


「どうしましたか?」


「その文字、読めないんですが。」


サージュはあぁ、とホワイトボードを見て、顔をしかめて考え始めた。


「私としたことが、うっかりしておりましたな。アネモネの世界ではこの文字は使わないのでしたな。」


するとサージュはうむ、と呟く。


「知恵の属神にこの世界の文字を、日本語で翻訳された辞書を用意して頂こうか。」


それから、ホワイトボードの文字を消して、日本語に書き直してくれた。


「ひとまずは日本語でやりますかな。」


「すみません。」


私が謝ると、サージュは優しく微笑んだ。


「いやいや、下界に向かう前に気づいて良かった方ですぞ。幸い、日本語よりも比較的に分かりやすいはず。すぐ覚えられますぞ。」


サージュは優しく微笑んで、ではと授業の続きを始める。


「この元素魔法から派生して、様々な魔法が生まれている。錬金術には欠かせない加工魔法、魔力を用いて作業を代用する操作魔法などがありますぞ。」


「へぇ、加工に操作、ですね。」


錬金術かぁ、自分専用で何か作ってみたいな。


サージュは真剣に聞く私に、少し自慢気に話し続ける。


「しかし、この世界の全ての生命には魔力を持つが、属性を一つしか持てない。私の加護を持つものは複数持つこともあるが、全属性を持つのは我らが偉大なる主神と、私達属神、そして、アネモネだけですぞ。」


「えっ、人間は私だけってことですか?」


「そうなりますかな?」


えげつない加護は闘争だけじゃなかった。


それをどこ吹く風のサージュは、ホワイトボードをどっかにどかし、私の目の前で手のひらに水の玉を浮かべた。


「まずはこのように水を思い浮かべ、魔法を唱えてみてくだされ。」


私は両手を自分の目の前におき、てのひらを上にした。


「水────川とかですか?」


「それよりも、水滴を想像された方が良いですぞ。」


サージュのアドバイスに、私は昔よく見た水滴が水に落ちるCMを思い浮かべると、てのひらの少し上に、小さな水の塊が浮いた。


「ほぅ、上手ですぞ。それを大きく膨らませていくのですぞ。」


私は言われた通りにイメージすると、水が沸き出すようにムクムクと水の塊はバレーボール位になった。


「うむ、問題ないですな。アネモネは想像力とそれをきちんと制御できていますな。」


「あ、あはは。ありがとうございます。」


想像力が豊かなのは、妄想で日々過ごしていたから、とは言えない。


「次は火を試しますかな?」


サージュに手のひらに浮いてる水の塊をどうしようかと思ったら、ふっと霞むように消えていった。


「うむ、消すのも問題ないようですな。」


言おうとしてくれてらしいが、サージュは上手ですぞ、と誉めてくれた。


イケオジからお誉めの言葉、入りましたー!


「では、次は火の方を。そうですな、マッチの火辺りを想像すると良いですぞ。」


「マッチごと想像しそうですね。」


なんてはにかみながらも、火のイメージを頭の中で探している内に、一つ思い当たったので試してみる。


────ボッ、と燃えて揺らめく火の玉が手のひらに浮いた。


お化け屋敷の火の玉を想像したんだけど、問題なかったみたい。


「うむ、コツは掴めましたか?」


「はい、大体。」


そう言いながら、風、地と当てはまりそうなものを想像して、手のひらに浮かばせていく。


風は竜巻を、地は畑の土を想像したら簡単だった。


「なら、次は光と闇ですな。」


サージュに言われて、次はLED電球の明かりと黒い霧を想像した。両方見て、サージュは満足そうに頷いた。


「困ったことに、下界では闇を"月"属性、光を"陽"属性と呼ぶものもいるようですが、中身はほぼ一緒でしてな。こちらの都合で別物としておいたのですが、ややこしくなりましてな。」


「そうなんですか?」


「アネモネ、出来れば光と闇として属性を統一するように広めてくれると助かりますぞ。」


サージュはすっと頭を下げてきたので、私は慌てて頑張ります!と答えた。


上げた顔はとても嬉しそうだった。


────サージュも"否定"された属神なんだ。


そう考えると、属神全員の可能性がありそう。


うわぁ、たくさんお願いされそう。


後のことを考え、心の中でげんなりとしていると、サージュが話し始めた。


「元素魔法は先程の魔法を、あらゆる形に変えて生み出すもの。ですからあとは矢にするなり、剣に纏わせて属性付与をしたりすれば良いですぞ。」


先程したことが元素魔法の基本と分かって、私は一通りイメージをしながら、火の矢、水の盾、風の刃、石の雨などを生み出すことが出来た。


思い通りに全てが発動した。


これでようやく魔法使い、って感じになったな。


嬉しさにニヤニヤしながら、様々なことに挑戦してみる。


「うむ、見事ですな。後は────参考に、と現存する魔法が全て載っている魔道書を持ってきたのだが、これはこちらの文字で書かれたものだったな。」


サージュは少し困った顔をして取り出したのは、かなり分厚い本だった。


うわぁ、百科事典並に分厚いよぉ。


「後で辞書頂けるなら、自力で翻訳して覚えます。ありがとうございます、サージュさん。」


と言いながら、ありがたく受け取る、


チラッと中身を見てみると、やはり文字は分からないが挿し絵がついていたので、なんとなく察して使うことはできそうだ。


「頑張って使えるようになりますね。」


「うむ、頑張ってくだされ。」


サージュは髭をさわりながら頷いた後、なにかを思い付いたのか、ニヤリと笑った。


「アネモネ、実はその本には載ってない魔法がありましてな。」


「え?あるんですか?」


私がそう聞くと、サージュはとても嬉しそうに笑って、どこからか杖を取り出した。


「教えるのはアネモネが初めてですぞ。」


ごほん、と咳払いをし、杖を前に突き出して構えた。


「─────"全属性展開(アンリミテッド)"」


サージュの言葉に呼ばれ、周囲に色のついた魔力の塊が現れた。見てすぐそれらがそれぞれの属性であるのが分かった。


「"全方向発射(フルバースト)"」


現れた魔力の塊はサージュが杖を上空へ突き出すと、一斉に上空へ早い速度で飛んでいった。


ぼーっと見上げていると、サージュはとてもご機嫌に話し始めた。


「先程も話しましたかな?下界の人々は一つしか持てないですが、この魔法は全属性を持つアネモネしか使えませんが、切り札になりますぞ。」


「切り札────。」


それって私だけの必殺技、ってことだよね!?


なんかヤバい!テンション上がってきた!


「やってみたいです!」


「はっはっはっ、その息ですぞ。」


サージュは嬉しそうに私に指導を始めた。


これ使えるようになったら、大魔法使い名乗ちゃおうかな─────なんてね。

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