異世界風・野営の道具準備
カフェを出たあと、アルトはふと立ち止まった。
「……野宿か……セットがない」
その小さなつぶやきを、シルが聞き逃さなかった。
「じゃあ、道具屋行こう。ギルドの近くだよ」
キセルとジャックも頷き、リオルたちも当然のように後ろに続いた。
◇
道具屋の扉を開けると、冒険者向けの装備が所狭しと並んでいた。
テント、寝袋、調理器具、油ランタン。
革袋、ロープ、マント、矢筒。
どれも重そうで、どれも“普通の冒険者”が使うものだ。
アルトは棚を一巡したあと、静かに言った。
「うん、必要なのは、これだけです」
手に取ったのは、火打石と固形燃料、飯盒、ポンチョ、パラコード、ナイフ、そして靴下2枚。
シルが目を丸くした。
「いやいやいや!寝袋は?テントは?」
アルトは淡々と答える。
「地面で寝られます」
「寝るな!」とジャックが即座に突っ込んだ。
リオルも慌てて前に出る。
「アルトは軽装すぎる!」
キセルとシルとジャックが、慌てて“普通の冒険者装備”を持ってくる。
「寝袋!」「テント!」「ランタン!」「調理セット!」
アルトは一つひとつ見て、静かに首を振った。
「……重いと動けません」
その言葉に、全員が一瞬黙る。
アルトはまだ幼く、背も低い。
筋力も発達していない。
軍人としての技術はあっても、体はまだ子どもだ。
シルが困ったように眉を寄せた。
「でも……雨の日とか、どうするの?」
アルトはポンチョを軽く持ち上げた。
「布を二重に巻いて、油を塗れば撥水します。革袋の内側に葉を敷いて、松ヤニ…樹脂を塗れば、防水になります」
「松ヤニ……?」
「樹脂?そんな使い方する人初めて見た……」
ジャックとシルが同時に呟いた。
ジャックは腕を組んで考え込む。
「水はどうするの?魔法使いがいないと危ないよ?」
アルトは少しだけ考えてから答えた。
「煮れば大丈夫です。木炭で濾過すれば、もっと安全です」
「いや、そうじゃなくて……」
ジャックは額を押さえた。
「そもそも水が手に入らない場所はどうするの?」
アルトは目を見開いたあと、静かに言った。
「……水源を探します。地形と……植物を見れば、わかります」
キセルが呆れたように笑う。
「そんなの無理だろ……」
ジャックはため息をついたあと、アルトの肩に手を置いた。
「アルト。基礎の水魔法くらい、覚えておいた方がいいよ。
基礎魔法なら、魔力が弱くても出せる。コップ一杯くらい出せるかだけど……ないよりはずっといい」
マーティンも手を挙げた。
「魔力操作なら、僕も教えられる。鍛冶の魔力操作と似てるから、得意だ」
アルトは二人を見て、ゆっくりと頷いた。そして、深々と礼をした。
「教えてください」
ジャックが笑った。
「よし、決まり。じゃあ今日は道具を揃えて……明日、魔法の基礎から始めよう」
アルトは手に持った飯盒とポンチョを見つめた。
(水が手に入らない時、少しでも、安全になるなら、好きでない魔法だって使ってみよう)
その表情は、ほんの少しだけ、安心していた。
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