火災再現、試作開始。
翌日の放課後。
裏庭には、昨日の会議で顔を合わせたリーダーたちがすでに集まっていた。
初等部、中等部、高等部──学年も制服も違う生徒たちが、同じ目的で一つの場所に立っている。
アルトが到着すると、マーティンが軽く手を挙げた。
「来たな、アルト。今日は全員で試作だ」
「よろしくお願いします。」
アルトが頭を下げると、周囲のリーダーたちも軽く会釈を返した。
昨日の会議での教師の態度に、皆どこか不満を抱えているのが伝わってくる。
マーティンは言う。
「敬語はいいと言っただろう」
「よろしく、マーティン?」
ぎこちないが、反応は良かったようだ。
マーティンの顔がふっと和らいだ。
「昨日の資料、読んだよ」
中等部のリーダーの一人が声をかけてきた。
「初等部の子が書いたとは思えないくらい、細かかった」
「ありがとうございます」
アルトは静かに答えた。
その時──
ハリスが手を叩いた。
「じゃあ、始めるぞ。煙は俺がやる」
リーダーたちが一斉に注目する。
ハリスが魔力を練ると、指先から淡い光が漏れ、
白い粒子が空気中にふわりと舞い始めた。
最初は霧のようだったが、
魔力が増すにつれ、粒子は濃度を増し、
ゆっくりと“煙の壁”へと変わっていく。
「……すごい」
誰かが小さく呟いた。
アルトは煙の中を覗き込み、冷静に判断する。
「この濃さでお願いします。
廊下の奥が見えないくらいで、近くの人は識別できる程度です」
ハリスが頷く。
「承知した!」
「今度は俺が炎の幻影を作り出そう。」
次に、マーティンが手をかざした。
空気がわずかに震え、光が揺らめく。
炎の幻影が、ゆっくりと形を成した。
「……本物みたいだ」
中等部のリーダーが息を呑む。
熱はない。
だが、光の揺らぎ、影の動き、炎の形──
どれも本物の火に近い。
マーティンがアルトを見る。
「どうだ?」
アルトは静かに答えた。
「完璧です。
これなら、訓練として十分に成立します」
その言葉に、周囲のリーダーたちも頷いた。
「これなら本番もいけるな」
「形だけの訓練より、ずっと意味がある」
「昨日の教師とは大違いだな……」
小さな声があちこちから漏れる。
アルトは煙の向こうに揺れる炎を見つめた。
昨日の会議で流された提案。
それでも諦めずに通した“本物の火災再現”。
その結果が、今ここにある。
「……皆さん、ありがとうございます。
この訓練は、必ず成功させます」
マーティンが静かに笑った。
「そのために俺たちがいるんだろう」
ハリスも頷く。
「本番が楽しみになってきたな」
夕暮れの裏庭に、煙と炎の幻影が揺れ続ける。
その光景は、どこか神聖で、そして不穏だった。




