第42話 救世主の代償 ~最後の光~
第42話(最終話)をお届けします。
物語の結末を描きました。
救世主であること自体が呪いであり、裏切りは必然というテーマを、最後まで貫きました。
お付き合いいただき、ありがとうございました。
王都セルフィア、大聖堂の最奥、浄化の間。
ディオンは黒い長衣のまま立ち、灰色の瞳で白い大理石の床を見つめていた。英雄の力が頂点に達した今、胸の疼きはもはや痛みを超え、自己の存在が溶けていくような感覚に変わっていた。
セレナはディオンの少し後ろに立ち、明るい金髪を聖女衣装のフードで覆い、掌から黄金の光を灯そうとしていた。しかし、その光はディオンの体に触れると、すぐに弱々しく散らばった。
高位司教ガルドとレオン騎士団長が、冷たい視線を向けていた。
ガルド司教が静かに言った。
「英雄卿……東部国境の任務も無事終了した。民衆はまだ君を『希望の光』と呼んでいる。しかし……君の呪いは、もう抑えきれない段階に達しているようだ」
ディオンは淡々と、しかし低い声で答えた。
「……わかっていたことだ。俺の血統は、救世主になるほど世界を壊す。新しい聖女の光も、所詮は延命に過ぎない。アリアのように、いつか使い捨てにするつもりか?」
セレナが慌てて口を挟んだ。
「そんな……私は、本気で英雄卿をお守りしたいんです!」
ガルドは微笑みを崩さず、冷たく告げた。
「セレナよ。君の力も、英雄卿の呪いを根本的に解決することはできない。教会としては、次の『英雄の補佐』として、より強い聖女の選定を進めることになった」
レオン騎士団長が頷き、ディオンに向かって言った。
「英雄卿。君は王国にとって最後の切り札だ。民衆の期待を裏切らないよう、力を使い続けてもらいたい」
ディオンは灰色の瞳で二人を冷たく見つめ、静かに言った。
「お前たちはとうとう本性を現したな。アリアを消耗させ、俺の力を引き出し、今度はセレナを……。救世主であること自体が呪いだということを、お前たちは最初から知っていたはずだ」
その瞬間、ディオンの体から黒い瘴気がわずかに漏れ始めた。英雄の力が暴走し、世界の均衡を崩す兆しが現れていた。
セレナが慌てて光を放ったが、その光はディオンの瘴気に触れると、すぐに散らばった。
「英雄卿……! 私の力で……!」
ディオンは苦笑を浮かべ、淡々と答えた。
「……もう遅い。アリアの光が消えた時から、俺の呪いは止められなくなっていた。お前たちも、いつか同じ目に遭うだろう」
遠くの教会療養施設。
アリアは窓辺に座り、銀髪を乱したまま夜空を見つめていた。
彼女は静かに呟いた。
「ディオン様……今頃、王都で……新しい聖女様と一緒に……。私は、もう貴方様の側にいられないけど……心は、いつも貴方様の側にあります……」
その瞬間、王都の空に黒い瘴気が広がり始めた。
ディオンは大聖堂の屋上から、その瘴気を見つめていた。
灰色の瞳に、深い諦めと、かすかな優しさが浮かんだ。
(アリア……お前を守れなかった。俺が救世主であることが、最大の呪いだった……)
世界は、再び闇に包まれようとしていた。
英雄の血統が、世界を救うはずの力が、世界を壊す方向へ変わる——
それが、ヴァルデン家の運命だった。
アリアは療養施設の窓から、遠くの黒い空を見つめ、静かに涙を流した。
「ディオン様……」
救世主として選ばれた者たちは、
誰も救えなかった。
ただ、互いに見出した小さな温もりだけが、
理不尽な世界に、かすかな光を残した。
――終わり――
第42話(最終話)、いかがでしたでしょうか。
救世主になることが最大の不幸であり、正義のための犠牲が誰も救わない理不尽さを、最後まで描き切りました。
ディオンとアリアの絆と、必然の裏切りを、テーマの核としてまとめました。
ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございます。
この物語が、少しでも心に残れば幸いです。
『呪われた英雄と裏切りの聖女』、これにて完結となります。




