第40話 東部国境の終わりと帰還の影
第40話をお届けします。
東部国境任務の終わりと、ディオンの内面的な葛藤を描きました。
アリアの不在が、ディオンに大きな影を落としています。
セレナの献身とディオンの拒絶の溝が、徐々に広がっています。
シリアスな心理描写をお楽しみください。
東部国境の調査を終え、王都セルフィアへの帰路、二十日目。
勇者パーティ一行は、ようやく平地へと戻っていた。瘴気の発生源を抑える任務は一応の達成を見たが、空気は重く、誰もが言葉少なだった。
ディオンは馬に乗り、黒いマントを風に翻しながら先頭を進んでいた。灰色の瞳は前方を見つめ、表情は固く、感情をほとんど表に出さない。英雄の力が強まった代償で、胸の疼きは常態化し、自己の存在が薄れていくような感覚が襲っていた。
セレナはディオンのすぐ後ろの馬車に乗り、明るい金髪を聖女衣装のフードで軽く覆っていた。青い瞳は前向きで、時折掌から柔らかな黄金の光を灯してディオンに近づけようとしていた。
「英雄ディオン卿、今日もお疲れ様です。私の浄化の力で、少しでも呪いを和らげましょうか?」
セレナの声は明るく、献身的だった。
ディオンは振り返らず、淡々と答えた。
「……必要ない。お前の光は、アリアのものとは違う」
セレナは少し傷ついた表情をしたが、すぐに微笑んだ。
「アリア様のことは本当に尊敬しています。でも、私は私なりに全力で英雄卿を支えたいんです。新しい聖女として、期待に応えたい」
レオン騎士団長が馬を並べてきて、満足げに言った。
「セレナ殿の浄化は確かに強い。英雄卿の負担が軽減されてよかった。これで王都に戻ったら、良い報告ができる」
ディオンは低く、抑揚のない声で言った。
「……良い報告、か。お前たちはまた、新しい道具を手に入れただけだ。アリアのように、いつか使い捨てにするつもりか?」
セレナは少し驚いた顔でディオンを見た。
「そんな……私は、本気で英雄卿のお役に立ちたいんです。アリア様の分も、頑張りますから」
その日の午後、平地に近い村を通る時、民衆の視線が一行に集まった。
「英雄様がお帰りだ……」「新しい聖女様もいらっしゃる……でも、以前の聖女様は……?」
そんな囁きが聞こえてきた。
アリアの浄化の力が失われたという噂は、すでに王都周辺に広がり始めていた。
夜の野営地。
焚き火の炎が小さく揺れる中、ディオンは少し離れた木の根元に一人で座っていた。
セレナが近づき、そっと黄金の光を灯した。
「英雄卿……一人でいるより、私と話しましょう。聖女として、貴方様の心の負担も軽くしたいんです」
ディオンは焚き火を見つめ、静かに言った。
「……お前は、アリアの代わりにはなれない。アリアは、俺の呪いを抑えるために自分の希望まで削っていた。お前はまだ、それを知らない」
セレナは少し傷ついた顔をしたが、微笑んだ。
「私は、頑張ります。英雄卿が一人で苦しまないように……」
ディオンは灰色の瞳を閉じ、胸の中でアリアの顔を思い浮かべた。
(アリア……お前は今、教会でどうしている? 俺はまた、一人になった。お前がいないこの孤独が……一番の呪いだ)
遠くの王都、教会の療養施設。
アリアは窓辺に座り、銀髪を乱したまま夜空を見つめていた。
彼女は静かに呟いた。
「ディオン様……新しい聖女様と一緒に、任務を終えて帰ってきているのでしょうか。私がいなくても……無事でいてください……私の光はもうないけど……心は、いつも貴方様の側にあります」
王都の夜は静かだったが、二人の心は、すでに離れ離れになっていた。
新しい聖女セレナの光は明るかったが、
ディオンの胸に残る影は、ますます深くなっていた。
救世主として期待されるディオンは、
これから訪れる最大の絶望と、必然の裏切りを、一人で迎えようとしていた。
第40話、いかがでしたでしょうか。
セレナの明るさとディオンの孤独の対比を意識して書きました。
アリアへの想いが、ディオンの心をさらに締め付けています。
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次回もどうぞよろしくお願いいたします。




